仲直り?
……少しは元気になったかな?
デビルラビットの処理をしながら、こっそりシオンの様子を見る。
あの時、俺がシオンを傷つけてしまった。
あんな風に言いたかったわけじゃない。
ただ、俺の破滅回避のために利用しちゃってるようで心苦しくなってしまったんだ。
「どうしたのです? そんなに見つめて……」
「えっ? あ、ああ、ごめんごめん……何でもないよ」
「変な主君ですね。それにしても、凄い魔法でした……盾といい、氷石といい」
「あはは、盾に関しては何も考えてなかったけどね。ただ、シオンを守らなきゃって」
俺は母がいなく、父親や兄姉との関係性が薄い。
自堕落王子ということで、自業自得だけど周りからは人が離れていった。
そんな中、シオンはずっと側にいてお世話してくれたから。
だから、俺にとっては大事な人だ。
「そ、そうですか……でも、懐かしい感覚でした。思い出します、私が貴方に助けて頂いた時のことを」
「ん? 何かしたっけ?」
「貴方は私の前に立ち、私を殴ろうとした人から守ってくれました。まだ小さくて戦いなんか出来ないのに。その後ずっと側にいて、優しさでもって私を一人の人間にしてくれました」
「別にあの時も何も考えちゃいなかったよ……あれ? 俺ってば成長してない?」
「ふふ、それで良いのです。貴方が変わらず、優しいままでいてくれたら」
その優しい微笑に、俺の心音が跳ね上がる。
「と、ともかく! ……あのさ、さっき俺の言葉を無視して飛び出したよね?」
「そ、それは……すみませんでした」
「うんん、別に良いんだ。ただ、なんか焦っていたように見えたからさ」
「私はお役に立ちたかったのです。だから、自分一人でもやれると証明したかったのかと。それが、私が居ていい存在理由になると……」
「……そういうことか。ごめんね、俺が余計なことを言ったからだ」
シオンは群れから捨てられたからか、自己肯定感が低いのかもしれない。
だから、誰かに必要とされたいのだろう。
それを、俺のエゴで傷つけてしまった。
誰かに必要とされたい気持ちは、前世の記憶が蘇った俺には痛いほどわかる。
自分がここに居てもいいという、存在理由が欲しいのだ。
「いえ! 主君は何も……私が弱いだけです」
「うんん、そんなことないよ。ちなみに、必要とか必要じゃないとか関係ないから。俺はシオンがいないと困るよ。だから、これからも側にいること……いいね?」
「……はい、これからもお側に」
「んじゃ、この話はお終い! チャチャっと済ませて帰ろう!」
「ですね。作業を済ませて、日が暮れる前に戻るとしましょう」
経験上、これは自分で解決しないとダメだ。
シオンが自分で気づき、気持ちの整理をつけないと。
もちろん、シオンのために俺も頑張って伝えていこう……ちょっと照れくさいけどね。
その後、処理を済ませたデビルラビットを魔法で凍らせる。
「では、私が氷ごと手で押していきますね」
「いやいや、流石に大変だよ。それに、シオンの両手が塞がったら誰が俺を守るのさ?」
「もう、そんな堂々ということではないですよ。ですが、他に方法がありますか?」
「そんなの簡単だよ。まだ魔力に余裕はあるから……よっと」
俺はデビルラビットの真下、更に通ってきた道に薄く氷の道を作る。
こうすれば、後は氷の上を滑らせるだけでいい。
「何という魔力の無駄使い……」
「いや、だってこっちのが早いし。ほら、こうして押し出せば簡単に……あれ?」
俺が軽く押した氷の塊……もとい、デビルラビットが凄い勢いで滑っていく。
それは氷の道を滑り、あっという間に俺たちの視界から消えた。
「……主君?」
「なんだい、シオンさんや」
「なんだいじゃありません! 何やってるんですか!?」
「わざとじゃないし!」
「もう早く追いかけないと! いきますよ!」
「うひぁ!?」
そうして俺はシオンに抱き抱えられ、氷の塊を必死に追いかける。
……とりあえず、仲直りはできたからよしとしますか。