港町に訪れてから*日後Ⅱ
この場所は、窓も無く、外の音も聞こえない為、いったいどれくらいの時が経ったのかは分からない。神父ファナティクスの拷問は続き、私もルキヤも心身疲れ果ててしまっていた。
聖職者の人間の闇を見せつけられたルキヤの表情は暗く、涙も枯れて絶望している様子。
時折、シスターが呼びに来て、ファナティクスが出て行き、シスターが見張りでその場に残るという場面もあった。
この時間はきっと、神父が何食わぬ顔で表に出ているのだろう。
魔封拘束具のせいで、私は力が出せない。魔族の力も源が魔力だから、この状態では無力だ。
どうしようもできない無力感。こんなの初めてだ。
私は鉄扉の前で見張りで立っているシスターの二人に話し掛ける。
「私は大魔族のイテル。私を知っているか?」
「…………」
「お前達は何処で生まれた魔族だ?」
「…………」
反応が無い。喋るつもりは無いらしい。
もう一つ聞いてみる。
「プラエタリタという魔族に聞き覚えは?」
「…………!」
少し反応した。どうやら、深閑の国シレンティウムを支配していた魔族プラエタリタの事は知ってるご様子。
このシスターの二人も、プラエタリタも、私の知らない魔族。
つまり、恐らくは魔王も知らない魔族だ。
魔族は繁殖もできるし、そう言う事も有り得るのだろうけど、何かこの魔族の存在は引っ掛かる。
女神様の贈り物とはいったい何だ?
そんな事を考えていると、鉄扉が開き、神父ファナティクスが戻って来た。
「シーカー、リウス、客が来ました。丁重にもてなしてあげなさい。神子以外は殺しても構いません」
ファナティクスの言葉を聞いて、シスターの二人は慌てた様子もなく部屋の外に出て行った。
今の会話で私はその『客』が誰なのか、見当が付く。
「面白くなってきたね」
と、私が笑みを浮かべる。
「あの二人に勝てる人間など存在しないでしょう。貴女がもし最初から魔族の力を使っていたら危なかったでしょうが、たかが人族の剣士二人と神子の幼子一人、相手になりませんよ」
私は声に出して笑いそうになるのを、懸命に堪えた。
ああそうか、この神父様はあの二人が、大魔族を討ち取った男達である事を知らないんだ。方や私が育てた剣士、方や復讐心で次期魔王候補だった大魔族を討ち取った男。
そこらの冒険者と同じと考えてもらっちゃ困るね。
気が付けば、隣で吊るされているルキヤの目にも光が戻っていた。