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空白のイテル  作者: 阿古しのぶ
子育て編
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人の子を拾ってから三年後


 あれから気付けば三年経っていた。


 正直、余計なモノを拾ってしまった感覚もある。


 今いる場所は、人の子を拾った廃村から更に南に三日ほど歩いた所にあった人族の集落になる。


 大きな湖の横にあった小さな集落。

 事情を説明したら、畑仕事を手伝うという条件で小屋に住ませて貰う事になった。


 それにしても……人の子は成長が早い。


 餓死しそうな子供に餌を与えて、それからこの集落に辿り着き、三年経ったところでもう私に身長が追い付かれた。


「イテル! イテル!」

と、すっかり顔色が良くなった人の子が駆け寄ってきた。


「なんだスペロ」


 この男子の名前はスペロ。年齢は今年で十三歳との事だった。


「また剣の稽古してよ!」


 スペロはキラキラとした眼差しで木剣を渡して来る。


     *


 スペロには剣の才能がある。魔力も十分だ。

 私に打ち込んでくる木剣の速さも重さも、見立て通り小魔族百年に匹敵する。人の子は成長が早いと聞いてはいたが、まさかこれほどまでとは知らなかった。


 私もスペロの木剣を木剣で捌き、どうしたものかと考える。

 手を抜くと怒るんだよ。生意気にも本気でやってくれと言ってくる。私が本気で打ち込んだらスペロが死んじゃうよ。だから手加減の仕方が分からなくて困ってる。


 そこで思い付いたのが足払いで転倒させる事だったけど、最近はスペロも学習して避ける様になってきた。

 本当に適応力が早い。


「貰ったぁー!」

と、私の背後に回り込んで攻撃してきたので、私はそれすらもあしらった。


     *


 稽古の後、夕暮れ時、橙色に染まった湖の畔でスペロと座って休憩していたら彼はこんな事を言ってきた。


「イテルは魔族なんだよね?」


 スペロを拾って三年。初めて聞かれた事だった。

 思い返せば、出会ったあの時、一度だけ角を見せてしまっている。

 彼はそれを今でも覚えていたのだろう。


「そうだよ。怖い?」

「いいや、全然怖くない。でも……」

「でも?」

「俺の家族を殺した魔族の事は忘れてない。あいつは悪い奴だ」


 やはりスペロの故郷を襲ったのは、魔族か。きっと私と同じように人と同じ姿でありながら、頭に角を生やしていたのだろう。

 その魔族は私が知っている奴だろうか。


「どんな奴だった?」

 と、スペロに聞いてみる。


「長い髪で、たぶん男で、瞳が赤く光っていたよ」

「眼が赤く光るのは、興奮した魔族の特徴だ」

「でもイテルは光らないよね?」

「私は抑えているからね」


 するとスペロはにかっと笑って、

「イテルは優しい魔族だ!」

と、言ってきた。


 優しい? 違うよ。私は魔族として臆病で気まぐれなだけだ。

 人の子を拾って、こんな場所で三年も道草を食ってるなんて知られたら、他の魔族達に笑われてしまう事だろう。


 魔族がやる事ではないってね。


 でも魔王だけは褒めてくれるかもしれない。なんとなく、そんな気がした。

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