隻眼の男と出会ってから三日後
雨の後の湿った空気が漂い、草の葉から水が滴り落ち、朝を知らせる涼しい風と鳥のさえずり。
私たちが出発の支度を終えて、洞穴から出て歩き出そうとすると、周囲で複数の影が動いた。
全員が咄嗟にそれぞれの武器を構える中、一人の鎧姿のドワーフ族の男が斧を片手に堂々と前方に現れて声を掛けてくる。
「東の大罪人、ウルティオだな」
ウルティオもニルを庇うようにアダマンタイトの大剣を構えながら口を開く。
「こんな所まで追ってくるか!」
「その少女は神子。そこらの魔人とは訳が違うのだよ」
「神子など関係ない。この子は一人の人間だ!」
「ふっ。大魔族を討った東の英雄が、落ちたものだな」
ウルティオと会話をしている相手の男。こいつもかなりの手練れだ。
私たちを包囲している五人も帝国のファルナス騎士団よりも強い。剣士が二人、弓使い一人、魔法使い一人、僧侶一人。これに目の前のドワーフの戦士がいるのだから、バランスの良い構成だ。
と言うか、魔法禁止運動とか言っておいてしっかり魔法使い揃えてるのは何なんだ。
「まったく、どうしてこう面倒事が次から次へと舞い込んでくるんだ。スペロ、ルキヤ、油断しないでね。私たちにとって東側の事情なんてどうでもいい。今、正しいと思う事をやろう」
と、私は二人に指示をする。
「承知しました」
「任せとけ師匠」
そして私はウルティオにも話し掛ける。
「あのドワーフはやれるよね?」
「ああ」
「だったら他は私たちに任せて」
ウルティオは正面のドワーフの男に突撃し、スペロと私は左右に分かれて走り出す。ルキヤはニルを庇うように立ち位置を変えてから、魔法陣を足元に展開した。
さて、東側諸国の精鋭がどれほどのものか、お手並み拝見させて頂こうか――――!
*
私たちの作戦は至って脳筋。
ウルティオがドワーフの戦士と対峙してる間、私とスペロは他の奴らに突進。まずは前衛を無視して、後衛の魔法使いや僧侶に圧を掛けた。彼らが隙を突いてニルを狙おうにも、そこには鉄壁の魔法使いルキヤが守っていて手が出せない。
スペロの相手の剣士は結構やり手のようだったけど、なんとか勝てた様だ。
彼らは自分たちの任務に命まで賭けるつもりは無いらしく、実力を見せつけたら次々と撤退していった。
ウルティオが押していたドワーフの戦士も、仲間たちが撤退して不利になると、
「ふむ。分が悪いか」
と、撤退の姿勢を見せウルティオから距離を取る。
「逃げるのか!」
ウルティオが挑発すると、ドワーフの戦士は振り返り言い放つ。
「勘違いするな。俺が命を懸けるのは、魔族が相手の時だけだ」
そう言い放ち立ち去ろうとするドワーフの戦士に、ルキヤが大声で話し掛けた。
「待ってください。神子の命を狙うという事、それは神様の否定です! 貴方方は、神様の復活を拒否されるおつもりですか!」
「……神が何だと言うのだ。ここ千年、神は我々に何をした? お告げで導いたか? 厄災や戦争を止めたか? 幸せを与えたか? 何もしていないではないか。我々にとっては居ても居なくても同じ架空の存在だろう」
それだけ言い残し、名も分からないドワーフの戦士は、逃走して行った。
ルキヤは彼の発言に心が動揺したのか、開いた口が塞がらず、その場で座り込んで俯いてしまった。




