隻眼の男と出会ってから二日後Ⅳ
スピリトゥスの群れを殲滅した日の夜。
雨は朝まで止みそうになく、私たちは洞穴で焚き火を囲んで暖を取っていた。濡れてしまった衣服を脱いでそれを干し、全員下着姿になりながらも、この場にそれを恥ずかしがる者はいなかった。
私は持ち歩いている空白の衣装に着替えようかとも考えたけど、知らない人族に私の変装を見せる訳にはいかなかったので思い止まった。
隻眼の男は自己紹介をした。
「俺はウルティオ、東側諸国出身の戦士だ。この娘は……名前は知らない。勝手にニルと呼んでいる」
そう言うウルティオの戦いで負った怪我を、ニルは手で触って治療していた。
ニルの治療は、傷に触るだけでそれを癒している。僧侶が使う回復魔法とは全く違うから、古代魔法の類いなのだろう。
私達も自己紹介をした。
「私はイテル。そして弟子の剣士スペロと、エルフの魔法使いルキヤ」
「イテル……聞いた事がある」
「大昔の大魔族と名前と同じだけど、たまたまだよ」
「そうか」
早速、ルキヤが鋭い質問を投げた。
「その少女のこと、何処まで知ってますか?」
「神子だろ。俺はこいつを助けて逃避行中だ」
「助けた?」
「今、東側諸国では何が起きてるか知ってるか?」
「いえ……」
「魔法の禁止運動と、魔法を使った者を断罪する『魔人狩り』だ」
「魔法の禁止? なぜ?」
と、私が聞く。
「世界寒冷化現象の対策なんだとよ。そんな本当に起きるのかもよく分かってない事、国のお偉い方は本気になってやがる」
ウルティオの話によれば、東側諸国ではこの十年あまり魔法を使う事を禁止する運動が過激化していて、魔法を使った者を拘束して火炙りによる処刑が日常的に行われ始めているとの事だった。
恐怖による魔法の撲滅。そんな最中、その国にこの神子のニルが現れてしまった。不思議な魔法を使う少女が『魔人』として捕まり、公開処刑が行われようとしていた。
それを助けたのが、東側諸国で活動していた戦士の冒険者ウルティオ。
「だから俺は東側諸国では、お尋ね者の犯罪者だ」
「私でも同じ立場ならきっとそうする」
と、私は彼の英断を肯定した。
それからしばらく他愛も無い身の上話をしていると、ウルティオは私が背負っていた布で巻かれている『伝説の剣』に目をやり聞いてきた。
「その剣、さっきの戦いで何故使わなかったんだ」
「……ああ、まあ……私には色んな意味で重くて使いにくいんだよ。たぶん私が使っちゃいけない気がしてね」
「重い?」
「貴方こそ、そのとんでもなくデカい大剣。アダマンタイトで出来てる代物だ。そんな物、扱える奴の方が少ないでしょ」
「これか? 前に大魔族を討伐した時に、その国の国王から報酬で貰ったものだ」
「大魔族を? 名前は?」
「大魔族パラベラム。東側諸国を最も苦しめ、俺の家族と恋人を殺した魔族だ」
知っている魔族だ。今から約十年前、私が旅立つ時に話し掛けて来た男の大魔族。
百年以上前、軍を率いて東側諸国を滅亡寸前まで追い詰め、人族やドワーフ族から『東の悪魔』と呼ばれる程に至った戦闘狂。
そのパラベラムが勝手に始めた東側の大戦争は、魔王が止め、軍を撤退させた。撤退時、状況を理解できない人族の軍隊が追撃をしてきたところを、私が久しぶりの実戦で殲滅した。その時にパラベラムとも共闘する事もあった。
会う度に、いけ好かない大魔族だった事は覚えている。
そうか、あの東の悪魔パラベラムが討たれていたのか。
でもいったい何故? ここ百年あまり、東側とは戦争状態では無かったはず。
疑問は尽きない。
それよりもだ。パラベラムの仇が今目の前にいる事になる。これは私が仇を討つべき好機なのだろうか。
私のそんな葛藤を余所に、ウルティオは続けて発言した。
「魔族は憎い。きっと俺の復讐はまだ終わっていないんだ。勇者など当てにはできない。俺はニルを安全な所に預けたら……次はこの手で魔王を殺しに行く」
――――よし、殺す!




