隻眼の男と出会ってから二日後Ⅱ
透明な魔物は、後にスピリトゥスという命名が成された。
そして隻眼の男は苦戦していた。
私たちが今いるこの森は既にスピリトゥスの巣になっており、それはもうとんでもない数が出現。隻眼の男が暴れれば暴れるほど、わらわらと四方八方から集まってきている状態だった。
隻眼の男は、身の丈よりも大きいし重いんじゃないかと思える大剣を両手で持って振り回している。木と魔物を両方同時に斬ってしまうほどの豪傑っぷりだ。
雨が降って来た事で、スピリトゥスの迷彩魔法の効果が薄れているおかげで、狩りやすくはなっている様だけど、それにしても数が多すぎる。
一緒にいた白髪の少女は、近くの草むらに身を潜めていたけど、スピリトゥスの一体に見つかりそうになっていたので私たちが助けた。スペロが真っ先に少女を襲おうとしているスピリトゥスを切り刻んでいた。
その状況に気付いた隻眼の男が、いったん周囲のスピリトゥスを狩り尽くしたところで駆け寄って来る。
「すまない。助かった」
素直にお礼を言ってくる隻眼の男に、私は言う。
「苦戦してる様だね」
「……雨のお陰で幾分か戦いやすくなったが、数が多い。何処かに親玉がいるはずだ」
スピリトゥスのうなり声と足音が聞こえ、隻眼の男は立てた人差し指を口に近付け、喋らないように私たちに指示した。
雨によってできた泥濘にスピリトゥスの足跡がくっきりと残りながら、私たちのすぐ目の前を横切ろうとしている。
なるほど。この魔物は恐らく目が見えていない。音によって敵の位置を把握している様で、沈黙している私たちに気付いていない。
雨により光の屈折に支障が出ていて、微かに姿が見える。手足の長い人間の様な見た目で、四足歩行している。
そいつが十分に近付いたところで、私は魔法剣を素早く生成して、迅速に、かつ音もなく首を斬り落とした。私に首を斬られたスピリトゥスは、透明効果が切れて倒れた。
私の魔法剣捌きを見て、隻眼の男は少し驚いた様だった。
そうだった。人間で魔法による武器の生成は珍しい。彼はこれで私の異常さを少し勘付いてしまったかもしれないが、特に何かを言ってくる事は無かった。
私が魔族の力を解放して、空を飛んで探せば親玉を見つけられそうなものだけど、彼の前でそれをやるには早計だろう。
となれば、頼りになるのは私よりも魔力探知に優れた彼女だ。
「ルキヤ、頼める?」
私が言うと同時、ルキヤは広範囲の魔力探知魔法を発動していた。
スピリトゥスは魔法で透明になっているのだから、その独特な魔力は探知しやすかろう。
「……残存個体は二十といったところでしょうか。近くに二体いますが、他はかなり広範囲に散らばっています」
「親玉っぽいやつはいる?」
「ええ、大きい魔力が東方向。離れたところでこちらの様子を窺っています」
私は屈伸して準備運動をしながら彼らに言う。
「ここは私に任せて。その女の子守ってあげて」
「俺も行こう」
と、隻眼の男が言い出したけどスペロが咄嗟に止めた。
「まぁまぁ、ここは俺の師匠に任せてましょうよ。大丈夫ですって、俺の師匠最強だから」
そう言いながら、私にウインクするスペロ。
私が一人の方が魔族の力も解放できるし、戦いやすいという事を察して気を使ってくれたみたいだ。
「それじゃ行ってくる」
私は全速力で駆け出した。




