カロル砂漠を訪れて十日後Ⅲ
「誰?」
と、私が聞いてみる。
「私か? そうだな……アリウスとでも呼んでくれ。昔の知り合いの名だ。お前達も名乗れ」
私たちはそれぞれの名を名乗ると、アリウスという少年はそのまま話を続けた。
「別にお前達を取って食おうって訳じゃない。そんなに警戒するな」
そんな事をアリウスは私たちの怯えを察知したかのように言ってきた上で続けた。
「魔族の娘、その背中にある剣は勇者イニティウムが持っていた剣だな?」
「……そうだけど」
「そうか、勇者イニティウムは死んだか。奴め……私に大口叩いておいて、呆気ないものだな」
「勇者イニティウムと会った事があるの?」
「ああ。それで、勇者イニティウムは最後になんて言っていた?」
――『僕は冒険の最期に、キミと出会えて良かった』――
それを伝えるとアリウスの退屈そうな表情が何処か嬉しそうにも見える不敵な笑みに変わり、別の話題に変えてきた。
「イテル。お前、魔王の娘だろう? さっきお前が放った魔法は魔王の魔法だ」
「そこまで分かるのか」
「お前達は実に面白く、私の退屈しのぎに丁度良い。だから私が少しお前達を導いてやろうと思ってな」
「導く?」
「その剣を、私に寄越せ」
ルキヤが私の名を呼び、見れば言葉には出さないものの、首を横に振って渡すなという意見を示してきた。
「……それは無理な相談だ。第一、初対面で誰かも分からない奴に、渡す訳がないだろう」
と、私は答えた。
「では、お前達はその剣を持って何処へ行く? まさかアルバでは無いだろうな?」
「だったら、何?」
「最果てのアルバは既に滅んだ。お前達が目指している場所は、既に滅び人々の記憶にも歴史にも残っていない失われた地だ。もう薄々気付いているだろう?」
「そんなの行ってみないと分からない」
するとアリウスは立ちあがり、私たちの方に歩み寄って来た。
近付いて来たというのに、私はこの少年の存在を視覚情報以外で感じ取れない。私たちに緊張が走り、その不気味さに戦闘態勢を取りたくなる。が、動けなかった。
殺意もないのに、まるで気味の悪さがそのまま威圧となってるような、そんな感覚だ。
アリウスは私が背負ってる布で巻かれた剣の柄頭に触れながら口を開いた。
「これはお前達に過ぎた物だ。これをアルバがあった地に持って行けば、お前達は死ぬ。つまり死地へと向かう旅をお前達はしているんだイテル。魔王もそれを知っていてお前を行かせた」
「そこに何があるの?」
「……忌々しい女がいる」
「古代より生きる魔女の事?」
「そうだ。私と腐れ縁の女だ」
そう言ってアリウスは玉座まで戻って、再びそこに座って足を組みながら続けて言った。
「その剣は、私の退屈の原因でもあり、伝説とは名ばかりの呪われた剣だ。その女も必ず欲する。私に渡さないのであれば、その女にも絶対に渡すな」
するとずっと黙っていたスペロが遂に口を開いた。
「俺にはよく分からないけどさ。この剣は災いを振り払う勇者の剣なんだろ? なのに呪いって……俺も何回か使ったけどそんな感じは無かった」
「それは誰かが作った都合の良い解釈だな」
「あんたいったい誰なんだ。そんな事を言う為に俺たちを呼んだのか?」
アリウスは要望を断られた事で、次はどうしようかと考えてるようにも見えた。
少年はしばし何かを考えた後、口を開く。
「私が今お前達に告げた事を覚えておいてくれればそれでいい。私からも少し小細工を仕掛けておく」
と、私たちに向けて何か魔法を発動させた様に見えた。
何をされたのかも理解できないほど、一瞬だった。
特に体の異変は感じられない。いったい今あいつは何をした?
「今、何をした?」
私が問う。しかしアリウスは私の質問を無視して言った。
「これから深閑の国シレンティウムに行くのであれば、せいぜい気を付けろ。話は終わりだ。お前達の冒険譚が、私を楽しませてくれる事を期待している」
「ちょっと待――――ッ!?」
――――突然、私たちの足元に穴が空いて、落下する事となった。
そこからは本当に不思議な現象に包まれ、私たちは塔の昇って来た螺旋階段の真ん中、吹き抜けを一直線に落下したと思えば、ふわふわとした感覚と同時に周りが一瞬暗闇に包まれる。
*
気が付けば、私たちは熱い砂の上、砂漠の真ん中に倒れていた。気を失ったのか?
起き上がるとそこに塔は無く、塔の入り口に置いて来たラクダが目の前にいた。まるで塔なんて最初からそこに無かったかのように、綺麗に何も無くなっていた。
強い日差しが私たちを照らし、私たちの体が暑さを思い出す。




