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空白のイテル  作者: 阿古しのぶ
共和国編
63/292

共和国に訪れてから一二ヶ月後

 春が訪れ、学問の街ドクトリーナを旅立つ日が来た。


 私、スペロ、ルキヤの三人は思い思いに一年間過ごした所、大勢の住民や冒険者が私達の旅立ちを歓送する為に集まってくれている。


 宿屋の店主夫婦。

 毎日のように通っていた酒場の店主と店員、その他の常連客。

 学校の先生や生徒達。

 冒険者ギルドでスペロのお世話になった冒険者達。

 その中に、フォルリ―やベントス、フラギリスの姿もあった。


「世話になったな。なんてお礼を言ったらどうか」


 フォルリ―がそう言うので、私が答えた。


「こちらこそ。勉強沢山させて貰ったから、御相こだ。ベントスも元気で」

と、涙ぐむ妖精族ベントスの小さな頭を指で撫でてやった。


「なでなでするなぁ! べ、別に寂しくなんてないから!」


 相変わらずの態度ではあるけど、ベントスも満更ではなさそうだ。


 冒険者三人娘のカルミナ、コル、エストレーラも別れの挨拶をして来て、そしてスペロとの別れを惜しんでいた。

 どさくさに紛れて女盗賊のコルがスペロに接吻した事で、

「抜け駆け禁止!」

とカルミナが怒り、エストレーラが涙を流しながらも笑っていた。


 正直、スペロの事だから彼女達を一緒に連れて行きたいとか言い出すのかと思ってたけど、そうはならなかった。

 スペロはスペロなりに、彼女は彼女達なりに、何か考えがあっての別れなのだろう。


 ルキヤは昨晩は記憶が飛ぶまで酒を飲み明かしたらしく、二日酔いで顔が真っ青になっていて、別れの挨拶どころでは無さそうだ。

 でもそんないつもの様な光景に、酒場の常連客達は笑顔を向けてくれている。


 そして思い掛けない人物も私の前に現れ、声を掛けて来た。


「先生!」


 学校でいじめをしていて問題を起こし停学処分となったテネブラエだ。


「もう先生じゃないよ」

「……イテル先生……ごめん。俺……」

と、彼は俯いて暗い表情をしていた。やってしまった事の重大性を、彼はもう理解してるのだろう。


「テネブラエ、お前は強くなれるよ。正しい強さを学べ。お前ならそれができるはずだ」

「……ありがとうございます……イテル先生」

「だから先生じゃないって」

「それでも! 俺、この恩も、この罪も、絶対忘れないんで!」


 私はそれ以上は何も言わずに、彼に背中を向ける。


 ――――旅の最初の頃、城塞都市を出発した時も似たような光景を見たことがある。

 でもその時よりも、多くの人々が私達に手を振ってくれていた。彼らを見ていると、この一年間であった様々な思い出が私の頭の中を駆け回って、名残惜しさが背中を引っ張っているような気がした。


 そしてさようなら、冒険者ソムニウム。


 学問の街ドクトリーナは、とても良い街だったよ。

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