表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空白のイテル  作者: 阿古しのぶ
序章
6/262

勇者討伐から一ヶ月と七日後Ⅱ

 大通りを行き交う人々、そして冒険者や衛兵達。


 天気の加減か、町全体が宝石のようにツヤツヤと光っている。

 人の足音や都会の喧騒がやけに五月蠅く感じるし、今が戦争中でここが魔王城から最も近い場所であるのが嘘かのような平和な空気が私を包む。


 いや、いつからか人族が勇者の伝承や、冒険者という存在に頼るようになってから、魔族と人族の衝突は減り、時同じくして魔王も戦いを避けるようになった。

 何の危機感も感じられない平和ボケした面をした人間とよくすれ違う。


 だからさっき会った冒険者の様な身の程知らずも現れる訳だ。


     *


 冒険者がよく出入りしている大きな建物の前で、張り紙があった。何やら魔族の指名手配書のようなもので、なんとなく知り合いに似ている似顔絵と、数字が印されているようだ。

 何故確証が持てないのかというと……私は、人族の文字が読めないのだ。言葉は魔王や一部の大魔族に習ったので理解できるが、そういえば文字はほとんど習った事が無かった。


 ここに来て、ようやく異文化に首を突っ込んだ実感が湧いてくることになろうとは……。


 魔王はあれど私の似顔絵は無かった。それも当然で、私はほとんど人族の前に姿を出した事はない。

 あの何人もの大魔族を葬った勇者パーティでさえ、私の事を知らなかったくらいだ。


     *


 もう一つ、誤算だった事がある。


 金だ。


 人族の街には宿屋があり、特に冒険者はそこで暖かい布団で寝泊まりをすると聞いた事がある。

 それっぽい建物を見つけたので泊まろうと思ったのだが、金銭を要求された。


 何も手持ちが無いので、当然部屋に入れて貰う事はできなかった。


 その後も食べ物を買おうとしても金。冒険者らしい服を買おうとしても金。どうやら人族は何をするにも金が必要らしい。


 こんな事なら、勇者パーティを倒した時に金銭も奪っておくんだったと後悔している自分もいた。


 ふと、武器屋と思しき建物の前を通ると、持ち込んだ武器を売って金銭を受け取っている人間がいた。

 そうなると気になるのが今背中に背負っている『伝説の剣』を売ったらいくらになるのか――いや、ダメだ。そんな事をしたら私の旅の意味が早速失われてしまう。


 私はもうしばらく街を彷徨う事となった。


     *


 先ほどの手配書が張り出されていた建物にやってきた。

 少し街の人間の話しを聞いてみたところ、どうやらここは冒険者ギルドと呼ばれる場所らしい。


 要は魔物や魔族の討伐依頼を請け負い、その報酬として金銭を受け取れる場所だ。


 ここで役立ったのが門番に見せた死者から借りている冒険者の証明書。身なりで少々怪しまれた気配はあったが、これで依頼を受ける事ができた。


 私は人間の冒険者と同じように、狩りをする事とする。得意分野だ。


 魔族を相手にするとなると少し気が引けるので、魔物を相手にする事とする。ゴブリンだろうが、コボルトだろうが、私の相手では無いだろう。

 私は意気揚々と依頼を受け、街の外へと出かけるのであった。




 一つ、冒険者ギルドで得た知識として意外だった事がある。

 北の魔族支配地域の外側、内陸部の方はもう人間に支配されて魔族も魔物もいないと思っていたけど、そうではないようだ。

 魔族も魔物も存在していて、大規模な戦闘はないものの日々人族と戦っている。賢い奴らは組織化し、それこそ森林や洞窟に多く隠れ潜み、夜になると村や町を襲う事もあるそうだ。


 もしかしたら、遠い昔に行方不明となった兄弟達も、今も世界の何処かで生きているのかもしれない。


 そう思うと、何処かワクワクしてしまうのは、少し人族らしい考えが移ってしまったのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ