共和国に訪れてから九ヶ月後Ⅰ
――『良いかイテルよ。妖精族は寿命は人族よりも短く儚い。非力で最も弱い種族とされているが、その実、覚醒した時の爆発力は随一、最も恐ろしい種族となる。戦場での妖精族には注意しろ』――
十年前、勇者イニティウムのパーティには妖精族の女がいた。
彼女の魔法は絶大で、同じパーティにいる魔法使いと比較にならないほどの、高威力な魔法を放ってきていた。
そしてその体の小ささを活かした俊敏性は、攻撃魔法では捉えきれないほど。
多くの大魔族が、それに翻弄された事であろう。
あの妖精であれば危なくなったら一人でも逃げれたろうに、勇者イニティウムを庇って、私の剣に斬られた。仲間の絆という奴だったのだろう。
仲間の死は、勇者イニティウムを更に強くした。
そんな風に私は見えた。
*
フトゥールム共和国は雪が降り積もる季節となった。
あれ以来、私が睨みを効かせていたというのに、テネブラエのフラギリスに対するいじめは止まる事を知らない。
どうやら、フラギリスが私に告げ口をしたと勘違いをして、その事にテネブラエの怒りを買う事になった様だ。
いつもの酒場で私はフォルリ―に相談をしていた。
「あいつ、一発殴っていいか?」
「むしろ今までよく我慢できてると感心してるよ」
と、フォルリ―。
「私にはテネブラエの考えが理解できない。普通、先生にバレてると思ったらやめるものじゃないのか?」
「自分の身分の高さに自信があるのさ。学校の大人達は何もできやしない。されたとしても、親が揉み消してくれるってな」
「本当にそうなのか?」
「さすがに殺人となったら擁護はできなくなるが、それ以外であれば大抵いじめられる方にも問題があるという流れに持って行かれるし、助けようとする大人は何かしらの不遇を受ける」
「……腐ってる」
私がそう言って机を叩くと、何故かフォルリ―は嬉しそうな表情をしていた。
「やっぱりお前、普通の魔族じゃないな。魔族だったら、そんな風に他種族の組織の、ましてや内部のイザコザを案じたりしないはずだ」
「……普通じゃない事くらい、私だって分かってる……だって私は――」
「二百年前に死んだはずの大魔族」
「……そう」
みんなに言われる。私は魔族じゃないって。
それが特別感の嬉しさが無くなって、今では不安感を抱くようになってしまった。
私はいったい魔族じゃ無いなら何者なのだろうか。
そんな事を考えていると、突然酒場のドアが勢いよく開き、ベントスが血相を変えて飛び込んできた。
「イテル先生! フォルリ―先生! 大変だ!」
「どうした?」
と、私が話を聞く。
「フラギリスが……街の外にある『悪魔の洞窟』に……連れて行かれちゃったみたいなんだ!」
その言葉に反応したのはフォルリ―だった。
「馬鹿野郎! そこは冒険者でも立ち入りを禁止している禁足迷宮だぞ! 死にたいのか!」




