勇者討伐から一ヶ月と七日後Ⅰ
遠くに城塞都市が見えてきた頃、初めて人間とすれ違った。三人の冒険者パーティのようだった。
南から下ってきた大きな剣を背負う女性冒険者と思われたのか、すれ違い際に驚いた顔をされた後、リーダーと思わしき男が声を掛けてきた。
「驚いた。あんた僧侶も無しに一人で下って来たのか。この先は魔王城も近くて危険な地域だって言うのに、勇気あるね」
正直、こうやって気さくに人間から話し掛けられたのは初めての経験だったので、何て返事をすればいいのか分からなかった。
冒険者ならこう言われたら何て返すべきなんだ?
怪しまれないように返事をしないといけないと思考を巡らせ、そして口を開く。
「そっちこそ、この先に行くならそれなりの覚悟を持って行きな」
私の眼で測った彼らの魔力、筋肉、そして装備。彼らはどれも私が戦った勇者パーティには遠く及ばない。
「ひと月前、勇者パーティが討たれたって聞いたんでな。ちょっくら現地まで様子を見に行ってみるんだ」
「そうか。気を付けろよ」
そんな会話を軽くして、彼らはそのまま私が来た方角へと進んで行ってしまった。
彼らの実力であれば大魔族と会えば何をされたのか理解もできぬまま命を落とす。それぐらい無謀な奴らに見えたし、身の程知らずの彼らが戻って来る事はないだろう。
人間とは、こうも浅はかな奴らばかりなのだろうか。
*
さて、多くの人族が住まう城塞都市の門がもうすぐ目の前にある。
ここで私にとって二つの難関が存在する。
一つは都市全体を包む魔族を拒む防護結界。
もう一つはその先にいる衛兵の検査をやり過ごさなければならない。
この結界は魔の者を通さない強力な結界で、何百年と魔王軍の侵攻を阻んだ原因になる。
魔族や魔物はこれに触れただけで全身が燃えて灰になると聞く。
角消しと魔力制御によって人間に擬態していれば通れると聞いたけど、正直上手くいかなければ死に直結する緊張の瞬間だった。生きた心地はしない。
恐る恐る足を進めて――――結界の内側に侵入成功した。正直、勇者パーティと戦った時より命の危機を感じて冷や汗を流した。
衛兵の門番にも、魔族が殺した女性冒険者の証明書を使ってやり過ごすことができた。
思っていた以上にすんなり解決してしまい、終わってしまえば正直かなり拍子抜け。
そして私は、魔族として生まれて初めて、人族が平和に生活している都市へと足を踏み入れた。