共和国に訪れてから六日後
野宿する事になり、私とルキヤが水浴びをしてる間、スペロが魚を釣ってそれをフォルリ―が焼くついでにスープも作って夜食の準備をしてくれていた。
フォルリ―は料理も得意のようで、私たちに料理を提供してくれていた。
ルキヤはそれをつまみにお酒がぐびぐびと進んでいた。
「どうだ、美味いか?」
と、フォルリ―は私に聞いて来た。
私は口の中いっぱいに焼き魚を頬張りながら、全力で頷いた。
するとフォルリ―は嬉しそうに微笑んだ後、こんな事を言ってきた。
「それにしても珍らしいな。普通、冒険者パーティと言ったら北を目指すもんだろ」
「なんで?」
と、スペロが聞くと、フォルリ―は笑う。
「なんでってお前、冒険者の目的は魔族の討伐だ。北に行けば行くほど、魔族が増える。魔王の城だって北の最果てにあるんだろ」
私は口に入れていたものを飲み込んだ後に、フォルリ―に聞いてみた。
「私たちは南東の最果ての地、アルバという所を目指してるんだけど、知らない?」
「アルバ? 聞いたことがない」
「なんだ知らないのか」
「何か訳ありか?」
「まぁ、そんな感じ」
「ふむ……」
フォルリ―はしばらく考え込んだあと、
「南東の最果てって言ったら、何も無いところだ。少なくとも、そんな地名は地図に無い」
と教えてくれた。
「おかしいな。そんなはずないんだけど」
アルバは魔王が言っていた地名で、『伝説の剣』を持って行かないと行けない場所だ。
前にルキヤに聞いた時、
――『ええ、アルバは南東の方角にあった人族の住む地域ですね。私は行った事がありませんが、長閑で良い土地だと聞いております』――
なんて事を言っていたのに、現代では地図に存在しない?
私が考え込んでいると、フォルリ―は思い出した様に追加で情報を述べた。
「そう言えば、その辺りには『古代より生きる魔女』が住み着いてるって話を聞いた事がある。実際に会ったって奴には出会った事がないけどな」
それを聞いて、思わず私はルキヤの方を見たが、ルキヤや酔い潰れて爆睡していた。
古代から生きる魔女。この世界で最も長寿なのはエルフ族だ。だからもしかしたら古代エルフがもう一人いるのかもしれない。
すると今度はスペロがフォルリ―に質問をした。
「なぁ、魔族っていつからいるのか知ってるか?」
「……良い質問だ」
と、フォルリ―は眼鏡を上げ直して語り始める。
「考古学者の間では魔族が誕生したのは紀元前。大体約一万年前ほど前に、人を真似た魔物が進化していった姿というのが通説になっている」
「い、一万年前!?」
「神々の時代は十万年くらい前だから、神様からしたら魔族の誕生はつい最近の出来事になるだろうな」
「途方も無い話だ」
「ああ。だけど俺は、年代がどうであれ『魔族は古代の獣人族が進化した』という説が正しいんじゃないかと思ってる」
私は、
「なぜそう思うの?」
と、聞いていた。
「確証なんて無いさ。今の魔族と伝承として残ってる獣人族の特徴が似ている事や、北側諸国の古い歴史を調べていたら、なんとなくそうなんじゃないかって気がしてる程度だ」
そう言って、フォルリ―は火を付けた煙草を咥えて吸い始めながら、眠っているルキヤに目を配る。
ルキヤはひょうたんを大事そうに抱えながら、いつの間にかスペロの膝を枕にして口から涎を垂らしながら寝ていた。
「……魔族誕生の事ならエルフも知ってそうなものだが……そのエルフのお姉さんは、大体三千歳ってところだろうから、自分の親に聞いたことがある程度ってところだろうな」
「エルフの年齢が分かるんだ?」
「なんとなくな。エルフは人間の寿命の百倍。体の成長もそれぐらいが目安さ」
この男、学者を名乗るだけあって知識が豊富だ。
人間という短い寿命の中、その中でもたった三十年ほどでこれだけの知識を得る。というのは、改めて考えれば恐ろしい事だと私は思ってしまった。
そんな会話をしている内に、気付けば朝の気配が迫っていた。
光が空の青に溶けて、かすかな輝きが空気の層を白く照らす。
今日は暖かい一日になりそうだ。