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空白のイテル  作者: 阿古しのぶ
序章
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勇者討伐から一ヶ月と五日後

 私は南東に向かうに当たって、少しだけ寄り道をして勇者と決戦をした場所に立ち寄った。


 そこは魔族よりも下位の存在となる魔物が蔓延る要塞で、長きに渡る魔族と人族の戦争において多くの大魔族と勇者が命を落とした由緒ある場所だ。

 ここが勇者にとって魔王城に辿り着く為に攻略しなければならない難所にもなっている。


 立ち寄るに当たって困った事といえば、角消しをして歩いていると人族と勘違いされて魔物に襲われる事だった。


 だけどそんな魔物相手であれば、魔族の力に頼らずとも拳と蹴りだけで撃退できる事が分かったのは良い収穫だったかもしれない。


「出直して来い!」

と、三つの頭を持つ魔犬ケルベロスを蹴り上げて追い返した時は正直気持ち良かった。


 ちょっとした戦闘であれば、角消しも維持できるのも自分自身の成長が感じられて嬉しかった。


     *


 立ち寄った目的としては、この『伝説の剣』の鞘を探しに来たんだ。

 私がうっかり持ち帰るのを忘れたのも悪いけど、剣身を布で巻いて鞘代わりとするのはどうも不格好だと思ったから、探し物に立ち寄った。


 私の記憶が正しければ、勇者の腰に大きな鞘があったはず。


 戦闘の中で盾としても使われていたけど……まさか粉々にしてしまったのだろうか。

 さすがに命を削り合う死闘の中で、勇者が使っていた鞘がどうなったかまで気を配る余裕なんてなかった。


 だって、あの剣が今こうして私の背中に担がれて一緒に旅する事になるなんて思いもしなかったんだから、これは仕方のない事だ。


 ――――しばらく探してみたものの、鞘は何処にも見当たらなかったので、諦める事にした。


     *


 決戦の地を後にしてから三日ほどが経った。

 何度かの野宿を繰り返し、しばらく飲まず食わずだったけど、さすがに我慢できずに川の水を飲んで、泳いでいた川魚を捕まえて食すに至った。


 魔族も生物学的には人間や動物とほぼ変わらないと教わった。

 身体の活動力ともなっている魔力は歩いてるだけでも消費されるし、それを回復するには睡眠が必要。食べ物だって食べなくては栄養が失われて、そもそも魔力が体内で生成されなくなってしまう。


 人間を食べる方が魔族にとって栄養満点らしいし、それが生きた人間の肉であれば少し食べれば一週間は活動できるほどの栄養価らしい。

 でも私は人間を食べられない。あの味が苦手で、食においては『変わり者』と同じ魔族からよく言われた。


 そんな私の大好物はこの魚で、一度食べると止まらなくなってムシャムシャと食べてしまう。


 焚火に魔法で火を付けて、程よい温かみを感じながら私は眠りに付く。


 体温に関しては魔族の膨大な魔力で補うことが常だったけど、こうして角消しで疑似的に人族と同じになっていると、どうにも焚火の暖かさに安堵感があるのは何故だろう。


 ――――これが人間か。


 あと一日歩けば、恐らく最も近くにある人族の大きな城塞都市がある。名前は忘れた。

 魔族と人族の戦争の最前線。昔は兄さんや姉さんがよく攻めに行ってたっけ……


 そうゆう経緯もあって、この最北の広大な魔族支配地域には境界線にあるいくつかの城塞都市を除いて、人族の村や町は全て廃墟と化してもう何百年も経つ。


 遠い昔、私がまだ小魔族だった頃を思い出しながら、焚火がぱちぱちと火の子を爆ぜる音を聞いていると、私はいつの間にか深い眠りに付いてしまった。

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