兄を討伐してから二四日後
私たちがとある街の冒険者ギルドで、南の共和国へ行く方法を聞いた時だった。
ギルドの受付の女性は困ったように説明してくれた。
「フトゥールム共和国は現在、一部の商人を除いて帝国からの入国を拒否をしております。冒険者であっても国境検問所で門前払いになりますね」
「どうして?」
と、私が純粋に理由を聞いてみる。
「えっと、大きな問題は今回のエルフ国との戦争ですね。フトゥールム共和国は、特に魔族以外との戦争に強く反対している国です。和平を謳うエルフ国を、一時的でも侵略した事で、帝国は周辺各国の厳しい制裁の目に合っているというのが現状です」
するとスペロが、
「お姉さん! 俺たちは早く次の国に移動しないといけないんだ。何か方法を知らないか?」
と受付の女性の手を握っていた。
受付の女性は頬を染めながらも答えてくれる。
「あの、えっと……サピエンス商会であれば、共和国に顔が利く組織です。彼らに通行証さえ貰えば、あるいは……」
最近気付いた事がある。
スペロは歳を重ねるにつれ、天然的に女性に惚れられる体質なのかもしれない。
*
私たちの事情を聞いたサピエンス商会の商会長は、
「無理ですね」
と即答してきた。
「通行証は行商人の為の証明書。見ず知らずの冒険者に渡すようなものではありません。今回の各国制裁については帝国国民として耳が痛い事ではありますが、こればかりは制裁が解除されるのを待っていただくしかありませんね」
「そんなぁ……」
と、がっかりするスペロ。
すると商会長は鋭い目つきで、私たち三人の体や装備に目を配ると、とある提案をしてきた。
「ですが、一つ私から提案があります。今度、帝都ノープルの闘技場で開催される闘技会があります。それに出場し、優勝景品の『大賢者の杖』を入手して私に譲渡してくれるのであれば、特別に通行証を発行致しましょう」
「大賢者の杖とは何だ? 珍しい物なのか?」
と、私が聞いてみる。
「神話時代からあるとされるただの杖で、アンティークですよ。実は我々サピエンス商会と古くから所縁があって、元々は商会の所有物でした。しかし先代の時代に、あろう事か賊にそれを盗まれてしまいましてね。長らく行方が分からないままでしたが、この度、ちゃっかり優勝景品にされてしまっていたという訳です」
とりあえず闘技会について話を聞いてみた。
どうやら人族で犯罪を犯した死刑囚や、魔物や魔族の捕虜と戦う競技で、一対一で連続三回戦行う。
その中で出席する闘技会会長や帝王から見て、最も盛り上げた剣闘士に四回戦目が与えられ、大会で目玉の最終戦が一回だけ行われる。
その最終戦に勝つ事さえできれば、溢れるほどの賞金と景品が勝者に贈られる。
観客は賭け事もするから、大盛況となる。
つまり見世物の戦い。しかも相手に合わせて良い勝負を演出したり、圧倒的な力で捻じ伏せて魅せたり、そういった観客を楽しませる戦闘を行う必要もある。
「スペロ、任せた」
私はそう言いながらスペロの肩をポンと叩く。ルキヤも古代エルフという訳もあって、拒否反応を見せていた。
「師匠は出ないのかよ。そういうの得意だろ」
「私は興味ない。近接戦において手加減は疲れるんだよ」
「まあいいけどさ。それで、対戦相手の情報とか無いのかよ」
と、スペロが聞く。
「それが、大賢者の杖が景品となってからこれで十度目の開催になるのですが……優勝者が出ておりません」
「は? どうゆう事だよそれ」
「今、最終戦に出てくるのは帝国に捕虜とされている大魔族なのです。そいつが十戦十勝、無敗の大魔族として君臨しており、更に降参もルールとしてはあるのですが出場者は必ずその大魔族に殺されて終わります」
それを聞いて、私は俄然興味が湧いてきた。私は口を開く。
「その大魔族の名前は?」
「確か……ベルルム。そう、不敗のベルルムです」
その名を聞いたからには、私も出場しなければならなくなった。
さらに商会長はもう一つ情報を提供してくれた。
「それとこれは小耳に挟んだ情報ですが……今回は先日のエルフ族との騒動で捕虜になっていたエルフの一人も、相手にいるようです。ほとんどのエルフは解放されたと聞きましたが、何故かそのエルフだけ剣闘士の対戦相手とされています」
それを聞いて、古代エルフのルキヤも顔付きが変わった。




