決戦の後
『伝説の剣』を持った人間の若い男が、私の前で崩れ落ちた。
致命傷を負いながらも、仲間達が次々と倒れても、何度も何度も立ち上がり、私に刃を向けてきた。
まるで猛獣を見るかのように、私を冷たい眼差しで睨みつけるその姿も風前の灯。
正直、こいつは今まで戦ったどの人間達よりも強かった。私も切り札を使った。
それ程までの強敵だっただけに、いざ戦いの終わりを迎えると虚しさすら感じる。
かと言って油断も許されない。それ程までに手練れであるのも理解できている。
最期に会話を楽しむ余裕は無い。
なので私は、瀕死のその男の首を容赦無く跳ねた――――。
*
決戦の地から一人、三日三晩掛けて徒歩で城に凱旋する。
ここ三十年、王が一番危惧していた危険人物を始末し、戦利品として相手の剣を持ち帰った。
長い旅路の末に私と斬り合ったにしては刃こぼれ一つしていないこの剣は、『伝説の剣』と呼ばれるに相応しい物なのだろう。
王はそれを受け取り、そして私に労いながらもこんな事を聞いてきた。
「よくやったイテルよ。それで、この剣の持ち主はどんな人間であった?」
「私に死を感じさせた手練れでございました」
「ふむ。なるほど」
王は渡された剣をかざして剣身を眺めながら語る。
「これが世界の災いを振り払う神話の剣か。これを持って現れたと言うことは、さぞ英傑な人間だったのだろう。今まで『勇者』は何度か現れたが、これを持ち出してきた者は初めてだ」
王の言葉には重みがある。
私が足元にも及ばないほどに長くこの世界に君臨している王は、長きに渡る戦争を経験した上で、初めて見る『伝説の剣』とその持ち主を賞賛しているのだ。
そして私は王が今何を考えているのかが分からなかった。見当も付かない。
ただしこれだけは言える。
「しかしどれだけ英傑であろうと、志半ばで死んでしまえば何の意味もありません。その剣も私からすればただの頑丈な剣です」
私のそんな言葉を聞いて、王が珍しく笑ったように感じた。
「よく言ったイテルよ。だが此度の事は実に興味深い」
「と言いますと?」
「災いを振り払う剣が、いまここにある。これが何を意味するか分かるか」
「いえ……」
すると王は玉座に座ったまま片手で剣を放り投げ、私の前に滑らせた。
私はその王の行動に少し驚きながらも、次の王の言葉を待つ。
「我が娘イテルよ。その剣をあるべき場所に返してこい」
そんな王の意外な命令を、私の頭が理解するのに数日を要した――――。