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薫が連れてきた

「冷凍保存されていた心臓……冷凍、アンリさんの……」

 マユは薫の報告を何度も反芻して……続く言葉も無く黙り込む。

 聖も思考停止。

 凍った心臓を誰かが、案山子に……。

 その誰かは、アンリを殺して遺体を冷凍保存……ってコトか?


 判明した事実は

 想像の枠を超えていた。


(アンリの)案山子は、猟奇事件の物証となった。

<田んぼ)は事件現場だ。

 

 翌日夜のニュースでは

 上空からの映像を流している。


 牧村家は見渡す限り<田んぼ>の中に、建っている。

 元は庄屋であったらしい立派な構えの家だ。

 瓦屋根の母屋と、渡り廊下の先に離れがある。

 他に倉庫二棟。広い敷地には軽トラック他に4台の車。

 昔ながらの農家。

 県道から私道が門まで続いているのだが、

 その道に警察車輛が数台停まっている。

 十数名の警察官の姿も映っている。

 

 家から<アンリの案山子>が立っていた場所までは800メートル程か。

 

 <アンリの案山子>の姿は無かった。

 撤去され、あぜ道の一部がブルーシートで覆われている。


「なんで家にまで、お巡りさんが、いっぱいなんだろ?」

 聖は首を傾げる


「黄色の、立ち入りテープ張ってるみたいよ。家宅捜索でしょ」

 さらりとマユは言う。

 

 アンリは、今は家出少女では無く、死体遺棄事件の被害者だ。

 生前の交友関係は重要であろう。

 アンリの部屋は調べて当然。

 けど、大がかりな家宅捜索は必要無いような……。

 

「マユは不思議だと思わないの?」

「田んぼをビニールで囲っていたわね」

「そう、だったっけ」

 ニュース動画をもう一度見る。


「ホントだ。これって……何か出たんだ」

「でしょう?……アンリさんかもしれない」

「アンリの……死体?……あの、あぜ道に?」

「そうよ」

「いや、違うだろ。アンリは此処に埋まってないだろ……殺した奴は冷凍保存していたんだ。どこか、でね」


「そうよね。心臓はどこかから、持って来た。死体も、そのどこかに在る筈よね。ところが、『アンリさんの案山子』を取り去り、辺りを調べたら出てきた。……家を調べるでしょうね」


「牧村一家の誰かだと、疑ってるワケ?」

「家族と限定は出来ないわ。家族、或いは家族の関係者、でしょうね」

「誰だって自由に田んぼに入れると思うけど」

「山の中じゃ無いのよ。人目につくでしょ。牧村家の2階の窓から見えるわ。県道を通る車からも丸見え。知らない人が土を掘ってたら目に付くでしょ」

「成る程。確かにそうかも。田舎の人間は、余所者は見過ごしたりしない」

「そうでしょ。牧村家の庭で死体が出たようなものよ。家族が一番怪しいでしょ」


 アンリの両親は5ヶ月前に震災で亡くなっている。

 死者から聴取は出来ない。 

 手がかりを求めての家宅捜索なのか。

 

 聖は、マユの推理に100パーセントは同調できなかった。

 ブルーシートが隠しているのは、アンリの死体ではない、別のモノと思いたかった。


「別の?……別の死体かも知れないと思うの? そんなのが出てきたらますます不可思議ね」

「アンリで無くても、やっぱ、死体なんだ」

「死体に決まってるでしょ」

 マユは断言する。

「セイ、忘れたの? この場所で正体不明の何かに、取り憑かれたんでしょ? それはアンリさんの怨霊だったのよ」

 謎が解けたと、マユは微笑む。


 この推理はハズレであって欲しいと、

 聖は内心思う。

 

 マユの推理通りだと、どうなる? 


7年前、アンリは死んだ。死因は他殺か事故死か自殺か、まだわからない。

アンリの家族(父か母か祖母か)、または家族の知人が、遺体を、あぜ道に埋めた。

埋める前に、アンリの死に関わった誰かが、遺体から心臓を取りだして持ち去った。

心臓は冷凍保存していた。

7年後に<アンリの案山子>に凍った心臓を仕込んだ。


なんで、あぜ道?

どうして心臓を……取りだして、冷凍保存して、挙げ句の果ては案山子に仕込んだの?

 

 事情も心情も全く想像出来ない。

 犯人は異常者かと簡単な答えにいきつく。

異常なやり方でアンリを殺したのではと、胸がざわつく。

 自殺や事故死ではなく、

 とても 成仏できないほど惨い目に合わされたとしたら、

 自分に取り憑いた怨霊は、アンリだと腑に落ちてしまう。


 写真でしか知らない少女の

 断末魔の叫びが聞こえた気がして、聖は震えた。



 翌日、(奈良県T市、人の臓器が挿入されていた案山子の下に白骨死体)

 と報道。

 1週間後に、白骨遺体は牧村アンリの可能性が高いと、続報。

 マユの推理通りだった。

 

「カオルさんから連絡は無いのね」

 マユはネット上の情報を見ながら呟いた。

 猟奇事件に様々な情報と憶測が湧いている。


「カオルは忙しいんだと思うよ。県内の猟奇事件だからね」

「そうよね。7年前にアンリさんの身に何が起きたのか。一番知っていそうな両親は亡くなっている。捜査は大変でしょうね」

「うん。家族のプロフィール(7年前と現在の)が出てるよ。当時は6人家族だったんだ」


 牧村 サクオ(68才)農業    72才で病死

    カズコ(67才)専業主婦  現在、末期癌でホスピス入所中(74才)

   

    ミノル(42才)T博物館学芸員  今年2月震災で死亡(49才没)

    カナコ(40才)郵便局パート   今年2月震災で死亡(47再没)

    アンリ(15才)T北中学3年

    ヒカル(10才)T北小学校4年  現在、県立T高校2年(17才)


「セイ、お父さんの勤務先はT博物館なのね。コレって『鹿ぴょん』のパーカーのロゴと同じよね」

「ホントだ。牧村家とは、知り合いだったかもしれないね。カオルが拡散した『家出少女の案山子』に食いついたYouTuberと思い込んでいたけど」


 意外な事実に驚き、再び『鹿ぴょん』の配信動画を見ていると

 足下で寝ていたシロが、跳び起きてドアの方へ。


「シロ、どうした。……誰か来るの?」


 聖は外に出る。

 夜風が気持ちいい。

 

 ザーザー川の音。

 風にあわせて木がざわざわするのは鳥たちの反応。


「ワン、ワン、」

 シロは尾を振りながら吊り橋へ駆けていく。

 嬉しそうな様子に

 結月薫が来るのだと分かった。


 暫くして聖の耳にもオートバイの音が届いた。

 続いてオートバイのライト。

 

 予想通り薫だった。


「あれ? 熊さんも?」

 吊り橋の先の

 山道を下ってくるオートバイが、木々の間にチラチラ見える。

 薫の後ろに、誰か乗っているらしき大きな影。 


「こんな時間(23時)に2人で……泊まるつもり、だよな」

 聖は思いがけず宴会になりそうで、気分が上がる。


 でも、薫が吊り橋に辿り着いた時、

 思わず、(きゃっ)と犬が足を踏まれたような声が出た。


 熊さんじゃない……

 もっと、デカイの、連れてきた。

 誰?

 いや、何だ、それ?


「やっと、着きました。お疲れさん。えらい山の中で、びっくり、しはったやろ。ほんでも涼しいですやろ」

 薫は、

 ゆっくりとオートバイから降りながら。

 自分の背後に話しかけている。


 連れてきたのは<大きな案山子>だった。


 赤ん坊を背負うように、

 紐で自分の身体に括り付けていた。


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[良い点] 描写、あっさりしつつも引き込まれる文章。 シリーズを読むことでゆっくりとみえてくる登場人物像。 緻密ななかの、読者が逃げられない怖さと深さ。 [気になる点] もちろんお話の続きです! […
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