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顧客No.1:関谷真人様(2)

さて、と、僕と櫻井さんはソファから体を起こし、事務所の出口に向かった。

向かう先は当時使っていた帰り道。時間的にもここから1時間ほどだろうか。

移動している間は、やれ歩きだと長いだの、やれ便利な移動手段を知らないと大変だねえだの、ウダウダ言っていたり、世間話をしたり、など他愛もない話をしたり、途中コンビニに寄ったりして歩いていた。

コンビニで用を足す時に気付いた、ミサンガがあると脚に違和感がある、異物感と言うか、すね毛に当たってなんか気持ち悪い。だから外して財布に入れよう。

しばらくしてその道に着くと、まずは櫻井さんは時計を見た。

「まあ、ちょうどいい時間だな」

僕もスマホを見る、時計は五時五十二分を指していた。

何がちょうどいい時間なんだろう。

「六時になったら、当時の思い出せる限りで似た動きをして貰えるか?」

「あんまり覚えてないですね、ただ帰ろうとしてただけなんで」

「あそう、じゃ自然体でいいよ。まだ明るいから六時まで待機」

少し時間が経ち、六時を過ぎても櫻井さんは何も行動しなかった。じきにあたりも薄暗くなってきた。

「よし、じゃあ足並み合わせて踏切渡ってみっか」

僕と櫻井さんはほぼ同時と言っても過言ではないほどに同タイミングで踏切を渡って道に出た。

僕は目を疑った、"別の道"だ。

「これだろ?」

なんの焦りもなく桜井さんは言った。

「俺も道をちゃんと覚えてるから、確実に違うのは分かる。まぁ差と言ったら微々たるものだけど」

背筋がゾッとする、足が震え、声が出なくなる。

「あれ?怯えちゃった?まあ当時は子供だから不思議だなくらいしか思わないけど、色々知っちまうと怖ぇよな」

「んじゃ、進むぞ」

進む?何を言ってるんだこの人は。

さっきも言っただろう、進めば進むほど嫌な予感がするんだって。

「おいおい、足動かねえの?じゃあ手でも握ってやっから着いてこいよ」

僕の手を櫻井さんが掴み、奥に奥にと進んでいく。

どんどん嫌な予感が強まる。しかし、僕の体に力が入らない。

それでも歩む足は全く止まることなく、おぼろげな記憶ながらも前回進んだ道よりついに奥に来てしまった。

吐き気までしてきた。声にならない声で止めようと口を開こうと櫻井さんの方を見た。

それは櫻井さんではなかった。

飛び出た目玉、割れた頭蓋骨、割れた箇所からは"中身"が出ていた。僕を握る手も、ところどころ肉が見えており、骨だけの箇所もあった。僕には声を殺して気が付かないふりをするしか無かった。

その何かは僕に話しかける

『さあ』

『行こう』

『行こう行こう行こう行こう行こう行こう行こう行こう行こう』

当たりが真っ暗になってきた。

僕はその場に嘔吐してしまった。しかし"それ"は何も反応を示さず、前に前に進んでいく、手を離そうにも力が強くて離せる気がしない。

来なければよかった、この件に関わらなければよかった。思えばあの事務所自体が罠だったのかもしれない。もうダメだ。

そう思うと足が前に進み出す。

「おいおい、諦めちゃダメだろ。そんなんじゃホントに連れてかれちまうぜ?」

後ろから櫻井さんの声がする。

助けに来たんだ...!

『うるさい』

「なんだオメェ」

『うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい』

「オメェの方がうるせぇよ」

『連れてく』

「なんで?お前が選んだ道だろ、人巻き込むなよ」

『お前も』

「は?」

そう言った途端、"それ"は一気に振り返り櫻井さんに襲いかかった。が、バチンと音がすると一瞬ではじけ飛んで瞬きをすると普段の道に戻っていた。

「たち悪ぃな、人選ばねえのかよ。ま!相手選ばないせいでこうやって解決したんだけどよ!」

右手をストレッチする櫻井さん、僕の方はと言うと、さっきまでの吐き気や収まっていた。声と脚の震えは止まらないが。

震える声で、櫻井さんに話しかける。

「何を....何をしたんですか?」

「え?ぶっ飛ばして強制成仏」

物の怪の類ってぶっ飛ばして除霊ってそんな物理的にいけるの?

「俺の生まれが特殊だからね、俺ぐらいしかできないよこんなの」

良くは分からないが、落ち着いたらあの場所にだんだんと僕を一人にした怒りが込み上げてきた。

「なんで僕を一人にしたんですか!」

「知らんよ、俺も急に景色が変わったなと思ったら君の口数が増えて奥に行こうとしたからビックリしたし」

向こうもそうだったのか。

「もう少し早く助けられなかったんですか...」

「いや、さっさと俺の方はぶっ飛ばして助けに行こうとしたんだけど君を見つけるのが少し苦労してね」

「お前、さっき渡したミサンガ外したろ」

バレている。しかも表情も険しくなっている。

「さっき俺が着けとけっていったろ、アレで別の場所に飛ばされてもある程度探知できるんだよ」

「言わない俺も悪かったけどビビって解決できなくても困るし黙ってたんだ。だけど着けとけって言ったもんを勝手に外して挙句俺にキレてるのはテメェがおかしいからな」

「細かい繊維からお前のとこを辿るのは苦労したぜ」

「...ごめんなさい」

「結果的に解決したからいいけど、大人の言うことは従っとけ。背くようなら理由を聞け。忘れんなよ」

「本当にすみません」

申し訳ない思いでいっぱいだった。

「つーことでじゃあまあ!帰っか!ラーメン食いに行くべ、奢るよ」

「君の金で」

ネチネチせずに切り替えてくれた。しかし、よく分からない大人だ。


一緒にラーメンを食べに来た。そこで何が起きたのかを話してもらった。

先ず、僕は生まれつき"引き寄せ体質"らしい。というのも、成長してちゃんとした自我を持ち始めると、引き寄せ体質でもある程度はその体質も薄まっていくそう。

小さい頃は自我があまり芽生えてない時であり、さらに言えば6時頃というと"逢魔刻"というものであり、妖に遭遇しやすい時間なので、自我が芽生えてない+引き寄せ体質+逢魔時という当時としては遭ってしまう条件としては最高条件が揃ってしまったんだとか。

抜け出せたのは"向こう側"のものでは無い、外の世界から持ち込んだ時計のアラームが作動したので抜け出せたのでは無いか。との事。


今回遭ってしまったのは引き寄せ体質の僕と、良くは分からないが"例外"の櫻井さんが二人いたことにより連れていかれかけたらしい。


「ちなみに深夜二時も丑三つ時で今回とは少し違う"何か"に遭遇する可能性があるから、気をつけた方がいいぜ」

「気をつけるったってどうすれば...」

「んじゃこれあげるよ」

そう言うと櫻井さんのスマホについていた木の板っぽいチャームを取って僕に差し出した。

「お守りみたいなもんだ、俺のお墨付き。メイドイン俺だけど」

さっきの除霊を見るに、効果があるだろう。少しダサいが。

「俺みたいにスマホに着けてもよし、財布に入れてもよし、一人で出かける時は絶対つけな、安心だから。俺が居なくても俺が守ってやるよ」

そういってラーメンをすする櫻井さんに安心感を僕は覚えた。


それから僕はしっかりとお守りを財布に着け、ご成約ミサンガも付けたまま毎日を過ごしている。

今のところ何も無いし、きっと彼のお守りのご加護なんだろう。心做しかいいことも増えた気がする。

僕は一連の騒動の後、『ひとよし相談所』のレビューを星五評価とし、実際の働きの事に関してやお守りの効果として、安全に、そしていいことが増えたという旨のレビューをした。

数日後、レビューにオーナーからの返信というものが着いていた。

『この度は当ひとよし相談所をご愛好いただき誠に感謝申し上げます。あなた様の悩みを解決することが出来、大変光栄に存じます。またのご利用を心よりお待ちしております』

『いいことが増えたと仰っていらっしゃいますが、そんな効果付与した記憶がありません、こわ』

どうやら僕の気のせいだったらしい。

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