防寒具(伝説の獣産)を用意する
コミック版もニコニコ漫画にて、4話まで連載中です!
エルフの食糧問題が解決した頃に、冬の始まりは訪れた。
俺はエルフの力を借りて建て直しを行った休憩小屋――もとい、農場の家の居間にいた。
窓の外では収穫した食料をまとめ、エルフの青年団たちが運んでいる姿が見えた。
量が量だけに手伝おうと申し出たのだが、
『ここまでアルト様に面倒を見てもらい過ぎましたので、これくらいは私たちだけでやらせてください!』
と、言われてしまった。俺は俺でエルフの皆に、この家の立て直しなど、手伝ってもらったことがあったのでお互い様だと思うのだけれど。彼ら彼女らにとっては、家一つじゃ釣り合わないとのことだった。
というわけで、俺は俺の開拓作業を続けることになったのだが、今、この休憩小屋にいるのには訳があり、
「アルト。ようやく、加工が終わったわね……」
「うん……。皆の協力と、近くの農家の皆さんの支援もあって、ようやく毛糸にできたね……」
プラムの羊毛の加工が完了したのだ。
目の前には、毛糸玉となったプラムの羊毛が山のように積まれている。
ただ加工しただけなのに、俺もシアも大分体力を使っていた。
ここまで来るのは本当に大変だったのだ。
刈った羊毛を洗い、ほぐし、櫛で整え、ひたすら引き延ばしていく。
工程だけ言うと単純だが、伝説の獣の毛、というのが非常に問題だった。
なにせ、ハバキリでないと刈れないくらいの硬さのため、普通の櫛が通らない。
近所の農家さんの鉄櫛がひん曲がるという異常事態まで招いた。
『坊ちゃん……。これは羊の毛のようでいて、明らかに違うものです。鉄よりも固いのに柔らかい毛って初めて見ましたよ』
と唖然とした顔をされたのを今でも思い出す。
結果、鉄櫛は弁償して。加工の教えだけを受けて、作業は自力と自前の道具でやることになった。
具体的には、ハバキリを櫛状にしたり(すごく悲しい顔で頷きながらやってくれた)、エウロスに鋭い風を作ってもらってほぐしたり(彼女はすごく笑って楽しそうにしていた)、シアの馬力で引っ張ってねじったり。眠そうなアディプスに手伝ってもらって巻き取ったりすることで、どうにかどうにか毛糸玉状にすることに成功した。
初めての作業だとは言え、ひと月以上もかかってしまったが、本格的に寒くなる前に、加工して使いたかったので、どうにか間に合わせられたようだ。あとは、
「プラムさん。毛糸にしたら、編んでくれるって話をしていたから。どこにいるか探さなきゃね」
これを編む必要がある。
肝心のプラムだが、この魔王城跡地のどこかに転がっているという話なので、見つけるだけではあるのだが、
……今まで開拓してきたところを見てもいなかったんだよなあ。
なにせ、土地が広大だ。見つけるのには時間が掛かりそうだ、と思っていると、
「あー……仕方ない、わね。……これ上げるわ」
シアが微妙な表情をしながら、懐から何かを取り出した。それは、
「笛?」
羊の角を模したような、きれいな笛だった。
「……羊を呼ぶ笛よ。吹くとプラムに強く聞こえる音が響いて、あいつが飛んでくるわ」
「え!? すごいものを持ってるじゃないか。……って、さっきからすごく嫌そうな顔をしているのはなんで」
「……吹いてみると分かるわ」
吹く前から凄く抵抗のある顔をしている。それでも、向こうから来てくれるというのであれば吹くべきだろう、と
「家の中でもいいの?」
頷かれたので、俺は笛を口にくわえる。
若干柔らかい感触がするそこに、
「ふっ」
と、息を吹き込んだ。すると、
「――――」
甲高く、かすれるような音が響いた。
家の中でも大丈夫、と言われたが、本当にこれで良いんだろうか、と思っていると、
――ドドドド!
と、地鳴りが彼方から聞こえた。
だんだん近づいてくる。
「……まさか」
と、思って窓を開けて外を見ると、
「あたしに、愛の笛を吹いてくれたんだね!!!!」
と、プラムが、外から窓に突っ込むように走り寄ってきた。というか、すでに頭は入っている。
「えっと……出入りは出来れば扉からお願いしたいかな」
「分かった!」
プラムは大人しく小屋の入り口から入りなおしてきて、
「あたしの頭に感触が来たよ! 熱いキスの感触が!」
と、嬉しそうな顔でそう言った。
一瞬何を言っているのかわからなかったが、彼女の瞳が俺の指に握られた笛を見ていることで、感づいた。
「ねえ、シア。この笛って……プラムさんに連結してる、の?」
「まあ、アイツの角の一部から作られたものだからね。数十年前に押し付けられたんだけど」
「愛のプレゼントがシアからアルトに渡ったってことだね! それで、あたしを呼んだってことは結婚してくれるってこと!?」
「あ、いえ、違います。毛糸が出来たので、編んでほしいと思いまして」
率直に訂正しながら毛糸玉の山を見せると、プラムは両手をこれまた喜びの顔になり、
「わあ、ちゃんと加工してくれたんだね! 愛する人に使ってもらえるものを編めるなんて。最高だねえ。何が欲しいの!?」
「冬場に着れるモノであれば、なんでも」
「オッケー。防寒具一式ね! すぐに編むよ!!」
そう言うなり、プラムは、服のポケットから編み棒を取り出し、
「まずはマフラーかなあ。セーターもいいなあ。いやいや、下着もありだなあ! あたしの匂いで他のやつらが近づかないようにするのもいいなあ!!」
と言いながら、すごい速度で編んでいく。
いつも見せていた、眠たげで、緩やかな動きとは打って変わって、手元なんか見えないくらいに素早い。
あっという間に一着、二着と出来上がっていく。
「わあ、ありがとうございます。プラムさんって編み物が得意なんですね」
「そうだよ! 愛の力だね!」
「……というか、体のサイズを測られた覚えはないのに、ぴったりなんですが。これ、目測ですか」
「愛の力だね!」
「……シア。これって、会話通じてるのかな?」
微妙な食い違いを感じたのでシアに尋ねると、彼女は静かに首を横に振った。
「半分くらい通じてるけど、あの笛を吹くとキスされたって事になって、テンション上がって、こうなるのよ」
なるほど。だから微妙そうな顔をしていたのか。なんとなく気持ちはわかった。
そうして、喋っているうちに、プラムは防寒具一式(でっかいハートマークがなぜか色付きでついている。染色した覚えはないのに……)を作り上げた。
着てみるととっても暖かく、それでいて、動きを妨げない柔軟性を持っていて。すぐにいいものだとわかったのだが、
「その笛の音が聞こえたら、どこでも行くから。いつでも呼んでよ! 愛する人があたしの体の一部をまとってくれるなんて最高だから! 毎日着てくれるといいな!」
と、吸い込まれそうな魔眼を大きく見開いて、プラムは言う。
「あー、寒いときは本当に重宝させてもらいます」
「うん! それじゃあね! また吹いて呼んでね!」
そう言って気分上々で、笑って去っていった。
俺はシアを顔を見合わせ、手の中に残った笛を見る。
「……これ、使いどころを考えて使った方がいいね。あと、落ち着いて話したいときは自分でプラムさんは探すよ」
「そうしたほうが良いわね……」
一応、話が通じにくい相手が飛んでくるというデメリットはあるけれど。
こうして、暖かな防寒具と、羊(限定一名)を呼ぶ笛を手に入れたのだった。
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