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昔滅びた魔王城で拾った犬は、実は伝説の魔獣でした~隠れ最強職《羊飼い》な貴族の三男坊、いずれ、百魔獣の王となる~  作者: あまうい白一
第二章 田舎貴族の羊飼い、街とギルドへ赴く

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防寒具(伝説の獣産)を用意する

コミック版もニコニコ漫画にて、4話まで連載中です!

エルフの食糧問題が解決した頃に、冬の始まりは訪れた。

 

 俺はエルフの力を借りて建て直しを行った休憩小屋――もとい、農場の家の居間にいた。

 窓の外では収穫した食料をまとめ、エルフの青年団たちが運んでいる姿が見えた。

 

 量が量だけに手伝おうと申し出たのだが、

 

『ここまでアルト様に面倒を見てもらい過ぎましたので、これくらいは私たちだけでやらせてください!』


 と、言われてしまった。俺は俺でエルフの皆に、この家の立て直しなど、手伝ってもらったことがあったのでお互い様だと思うのだけれど。彼ら彼女らにとっては、家一つじゃ釣り合わないとのことだった。

 

 というわけで、俺は俺の開拓作業を続けることになったのだが、今、この休憩小屋にいるのには訳があり、

 

「アルト。ようやく、加工が終わったわね……」

 

「うん……。皆の協力と、近くの農家の皆さんの支援もあって、ようやく毛糸にできたね……」


 プラムの羊毛の加工が完了したのだ。


 目の前には、毛糸玉となったプラムの羊毛が山のように積まれている。


 ただ加工しただけなのに、俺もシアも大分体力を使っていた。

  

 ここまで来るのは本当に大変だったのだ。

 

 刈った羊毛を洗い、ほぐし、櫛で整え、ひたすら引き延ばしていく。

 工程だけ言うと単純だが、伝説の獣の毛、というのが非常に問題だった。

 

 なにせ、ハバキリでないと刈れないくらいの硬さのため、普通の櫛が通らない。

 近所の農家さんの鉄櫛がひん曲がるという異常事態まで招いた。

 

『坊ちゃん……。これは羊の毛のようでいて、明らかに違うものです。鉄よりも固いのに柔らかい毛って初めて見ましたよ』


 と唖然とした顔をされたのを今でも思い出す。

 

 結果、鉄櫛は弁償して。加工の教えだけを受けて、作業は自力と自前の道具でやることになった。

 具体的には、ハバキリを櫛状にしたり(すごく悲しい顔で頷きながらやってくれた)、エウロスに鋭い風を作ってもらってほぐしたり(彼女はすごく笑って楽しそうにしていた)、シアの馬力で引っ張ってねじったり。眠そうなアディプスに手伝ってもらって巻き取ったりすることで、どうにかどうにか毛糸玉状にすることに成功した。

 

 初めての作業だとは言え、ひと月以上もかかってしまったが、本格的に寒くなる前に、加工して使いたかったので、どうにか間に合わせられたようだ。あとは、


「プラムさん。毛糸にしたら、編んでくれるって話をしていたから。どこにいるか探さなきゃね」


 これを編む必要がある。

 肝心のプラムだが、この魔王城跡地のどこかに転がっているという話なので、見つけるだけではあるのだが、

 

 ……今まで開拓してきたところを見てもいなかったんだよなあ。

 

 なにせ、土地が広大だ。見つけるのには時間が掛かりそうだ、と思っていると、


「あー……仕方ない、わね。……これ上げるわ」


 シアが微妙な表情をしながら、懐から何かを取り出した。それは、


「笛?」


 羊の角を模したような、きれいな笛だった。


「……羊を呼ぶ笛よ。吹くとプラムに強く聞こえる音が響いて、あいつが飛んでくるわ」


「え!? すごいものを持ってるじゃないか。……って、さっきからすごく嫌そうな顔をしているのはなんで」


「……吹いてみると分かるわ」


 吹く前から凄く抵抗のある顔をしている。それでも、向こうから来てくれるというのであれば吹くべきだろう、と

 

「家の中でもいいの?」

 

 頷かれたので、俺は笛を口にくわえる。

 若干柔らかい感触がするそこに、

 

「ふっ」


 と、息を吹き込んだ。すると、

 

「――――」


 甲高く、かすれるような音が響いた。

 

 家の中でも大丈夫、と言われたが、本当にこれで良いんだろうか、と思っていると、

 

 ――ドドドド!

 

 と、地鳴りが彼方から聞こえた。

 

 だんだん近づいてくる。

 

「……まさか」

 

 と、思って窓を開けて外を見ると、

  

「あたしに、愛の笛を吹いてくれたんだね!!!!」


 と、プラムが、外から窓に突っ込むように走り寄ってきた。というか、すでに頭は入っている。

 

「えっと……出入りは出来れば扉からお願いしたいかな」


「分かった!」


 プラムは大人しく小屋の入り口から入りなおしてきて、


「あたしの頭に感触が来たよ! 熱いキスの感触が!」


 と、嬉しそうな顔でそう言った。

 

 一瞬何を言っているのかわからなかったが、彼女の瞳が俺の指に握られた笛を見ていることで、感づいた。


「ねえ、シア。この笛って……プラムさんに連結してる、の?」


「まあ、アイツの角の一部から作られたものだからね。数十年前に押し付けられたんだけど」

「愛のプレゼントがシアからアルトに渡ったってことだね! それで、あたしを呼んだってことは結婚してくれるってこと!?」


「あ、いえ、違います。毛糸が出来たので、編んでほしいと思いまして」


 率直に訂正しながら毛糸玉の山を見せると、プラムは両手をこれまた喜びの顔になり、


「わあ、ちゃんと加工してくれたんだね! 愛する人に使ってもらえるものを編めるなんて。最高だねえ。何が欲しいの!?」


「冬場に着れるモノであれば、なんでも」


「オッケー。防寒具一式ね! すぐに編むよ!!」


 そう言うなり、プラムは、服のポケットから編み棒を取り出し、

 

「まずはマフラーかなあ。セーターもいいなあ。いやいや、下着もありだなあ! あたしの匂いで他のやつらが近づかないようにするのもいいなあ!!」


 と言いながら、すごい速度で編んでいく。

 いつも見せていた、眠たげで、緩やかな動きとは打って変わって、手元なんか見えないくらいに素早い。


 あっという間に一着、二着と出来上がっていく。

 

「わあ、ありがとうございます。プラムさんって編み物が得意なんですね」


「そうだよ! 愛の力だね!」


「……というか、体のサイズを測られた覚えはないのに、ぴったりなんですが。これ、目測ですか」


「愛の力だね!」


「……シア。これって、会話通じてるのかな?」


 微妙な食い違いを感じたのでシアに尋ねると、彼女は静かに首を横に振った。


「半分くらい通じてるけど、あの笛を吹くとキスされたって事になって、テンション上がって、こうなるのよ」


 なるほど。だから微妙そうな顔をしていたのか。なんとなく気持ちはわかった。


 そうして、喋っているうちに、プラムは防寒具一式(でっかいハートマークがなぜか色付きでついている。染色した覚えはないのに……)を作り上げた。

 

 着てみるととっても暖かく、それでいて、動きを妨げない柔軟性を持っていて。すぐにいいものだとわかったのだが、

  

「その笛の音が聞こえたら、どこでも行くから。いつでも呼んでよ! 愛する人があたしの体の一部をまとってくれるなんて最高だから! 毎日着てくれるといいな!」


 と、吸い込まれそうな魔眼を大きく見開いて、プラムは言う。

 

「あー、寒いときは本当に重宝させてもらいます」


「うん! それじゃあね! また吹いて呼んでね!」

 

 そう言って気分上々で、笑って去っていった。


 俺はシアを顔を見合わせ、手の中に残った笛を見る。

 

「……これ、使いどころを考えて使った方がいいね。あと、落ち着いて話したいときは自分でプラムさんは探すよ」


「そうしたほうが良いわね……」


 一応、話が通じにくい相手が飛んでくるというデメリットはあるけれど。

 こうして、暖かな防寒具と、羊(限定一名)を呼ぶ笛を手に入れたのだった。

【お読み頂いた御礼とお願い】


 本作品をここまでお読み頂き、有り難うございます。

「面白かった」

「この先が気になる」

「羊飼いが、最強になるの?!続きが読みたい!」


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 どうぞよろしくお願いします!

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