羊飼い、羊を住まわせる
「そういえば、アンタ。なんでここにいるの?」
「視界が全く取れないから、遠くの高原でフラフラしてたの。マルコシアスのにおいが感じ取れたから来てみたんだけど、正解だったねー」
それを聞いて、シアはあきれたような表情を浮かべる。
「フラフラってことは、どこの国にも町にも定住しなかったのね」
「そうなんだよー。どこにもあたしの毛を刈れる人がいなくて……。だから、良ければこの辺りに野宿させてほしいなって思うんだけど、いい? あそこの枯草のところとかいいなあ」
シアと俺を見ながら、プラムはいってくる。
「この土地の管理者は私じゃないから。アルト次第よ」
「俺は別に構わないけど。野宿でいいの? 実家はまだ部屋が余ってるから、泊まれるとは思うよ?」
説明の仕方は難しいが、農場開拓関係者といえば、許可も取れるだろうし。問題はないはずだ、と思って言うと、
「毛を刈ってもらったあとは、ため込んだ魔力の放出とか、色々とやりたいから。しばらくは近くに誰もいない場所で野宿がいいんだよねえ。うっかり魔眼発動して周りの人を眠らせちゃうと申し訳ないし」
「ずっと昔、魔王と戦ってた時代に毛刈りした時に、無意識の発動で敵の飛竜の一団を丸々眠らせたことがあったわね。一瞬で墜落してた覚えがあるわ」
「ああ……それは危ないね。というかうっかり発動することもあるんだ」
それだと大分話が変わってくる気がする。
「でも、シアなら魔眼の抵抗力があるし。多分、契約している貴方にも継がれていると思うけどね」
「そうなの、シア?」
「ええ。私は昔から平気だからね。眠らずに羊を追い回して、魔眼解除させたこともあるし。うっかり系ならアルトも効かないと思うわ。ほかの人は寝ちゃうけど」
彼女たち、伝説の魔獣と称されている者たちは、人が使う魔法とは比べ物にならないくらい特別な力を扱うと文献などには記されているのだが、プラムも同じようだ。
「まあ、気を付けて生活をしてもらえるなら。この場所をうろついてもらっても大丈夫です。ただ、モンスターは結構出るのでお気をつけてもらえれば」
「わかったよ。あたしも、成長して広範囲うっかり発動はしなくなったし。襲ってきたのは適当に眠らせておくか撃退しておくから。必要だったらそれもあげるー。それじゃ、あたしは、あっちで寝るね」
そういって、プラムは枯草のほうで羊に変化し、ゴロンと横になった。
そして一瞬のうちに寝入ってしまった。
「成長しても、マイペースなのは変わらないのね」
「あはは……。とりあえず、この羊毛をどうにか運んでおこうか」
羊飼いとして、最初に農場に迎えた羊が伝説の魔獣というのも奇妙な話だが。
こうして初の羊毛収穫を終えると同時、農場に初の羊が住み着いたのだ。
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