エルフにとっての非日常
夕方になって、デュランタは、休憩小屋の隣に設けられたベンチに座って、空を見上げていた。周辺には他の青年団の面々もいる。
その顔には疲労が浮かんでいて、
……この地に来てから数時間もたってないのに、驚きばかりだ。
デュランタは、強くそう思った。
今まで、里の畑を広げるにあたって、いくつもの問題に出くわし、それを解決してきたという自負はあったのだが。
その自負は、この地ではあっという間に砕かれてしまうくらいには、驚きと難題が多かった。
まず、直面したのは土地の問題だ。
この土地全体に散らばっている魔王城の瓦礫が異常なまでに硬いのだ。
魔王が住まう城だったのだから当然なのかもしれないが、極上の魔法耐性があり、魔法での破壊が基本的に不可能だった。
もはや城の一部ともわからない、レンガ一つですら、魔法をはじく。炎を当てようが、氷を当てようが、衝撃を当てようが、ビクともしない。
たかが瓦礫、とは全く思えない。硬すぎる物体がそこら中に転がっている。
更に言えば、土そのものが、硬い。
普通の土のような耕し易いところはほとんどないし、岩のように硬い土ですら、まだ楽な方だ。金属でできてるんじゃないか、と思うような土すらある。
魔王城の土台となっていた土地だからか、瓦礫の粉末が施されているからか。原因は分からないが、とにかく土が頑丈だった。
とりあえず、当面の作物を育てる畑は、アルトがすでに柔らかくした土地を使う、ということで解決したけれども、
……アルト様は、よくぞこの土地を開墾できている……。
そんな土地を簡単に貸してくれるのだから、二重の意味で驚きである。
いや、さらに言えば、自分たちエルフが疲労でくたくたになっているにも拘らず、
「よーし。あとは向こうも耕しておこうか」
「そうね。やっちゃいましょう」
アルトとシアは、まだまだ元気なまま、開墾作業を続けている。
雑草(と言って良いのか分からないほど強いモンスター)が襲い掛かってこようが刈り取るし、畑に蛇(と言うだけにしてはあまりに強すぎるモンスター)が現れようが落ち着いて対処して倒してしまう。
その上で畑仕事もこなしているのだ。
この体力にも、また驚きだ。自分たちなど、自分自身を守るので精いっぱいというか、アルトがスライムを護衛にしてくれなかったら、そもそも満足に働くどころではなかった。
……我々は、魔王城跡地という地を甘く見ていましたね。
そう思ってデュランタは立ち上がり、アルトに声をかける。
「アルト様。お手伝いがあまりできずにすみません」
「え? いや。種まきなどもやってもらいましたし、そちらの作物も育てなければならないのに、充分手伝ってもらいましたよ」
アルトはそう言ってくれるが、こちらとしては何もできていないと思ってしまう。だから、
「今日は一旦、準備を整えるために出直そうと思います」
「準備、とは?」
「この地に、我々エルフが数日間、仮眠できる小屋を建てても良いですか? 泊まり込みで作業しないと、アルト様にお手間を取らせるだけになってしまいそうですので」
「あー、まあ、確かにエルフの里からここまで通うのは効率的ではないですしね。それなら、屋敷に泊まられても大丈夫ですよ?」
「そこまで迷惑をかけるわけにはいきません。……いえ、この地に部外者である我々を泊める、というのも、迷惑かもしれませんが……。可能でしょうか?」
客観的に見れば、人の領地に勝手に建築物を作りたい、と言っているのと同じなのだから。拒否されても仕方ない、と思いながら聞くと、
「構わないですよ。祖父からは好きにしろ、と言われていますし。それに、ウチの畑を手伝ってくれる人であれば、部外者ではありませんよ」
そう、気楽に言ってくれた。
「なんなら、住める家を作って貰ってもいいかもしれません。念のため、このあと祖父に話を聞いてみますね」
「ありがとうございます……! では資材をもって、明日にでも伺いますので!」
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