作物は薬としても使える
俺たちは、エルフの里の中でも二番目に大きな屋敷にいた。
ピュセルの住まいだ。
そのダイニングにて、俺とシア、ピュセルと、デュランタがいた。
デュランタは、ダイニングの隅に置かれた、フラスコや、魔法コンロが置かれた作業台の前にいて、エルフのトマトを大きな鍋で煎じていた。
「エリクシルフルーツ」をミスリルの鍋で煎じる。最初は水分が多くでて、赤いトマトスープのようになるが、数十分ほど煎じ続けると、途端に液体が透明になる。これが、『エリクシルポーション』といって、重い傷や呪いによる怪我にも効く特効薬になるのです」
などと言いながら、彼女は俺から受け取ったトマト全てを煎じていたのだが、
「これが完成品です。さあ、お飲みください、ピュセル様」
「ああ、ありがとう、デュランタ」
ごくり、と飲む。
半ばよりちぎれていた翼に、光が集まり、やがて光が晴れたころには、
「うん。治ったかな」
ぱさぱさと軽く動く黒い天使の翼があったのだ。
「ふう。助かったよ、アルト君。そしてシア。翼がちぎれると、体内の魔力の巡りが悪くなってね。死んじゃう所だったから」
「そんな重症だったんですね」
「私の身体を直すのは結構大変なんだけど、品種改良をしたエルフのトマトなら別でね。エルフの皆にも感謝だよ」
「何を言いますか。魔王との戦争時代、貴女が守ってくれたお陰で我々は救われたのですから。これくらい当然ですとも」
どうやら、エルフとピュセルの関係は、そういう感じらしい。
シアは、彼女たちのやり取りをジト目で見ていて、
「ピュセル。貴女、戦闘能力はあんまりないとはいえ、逃げるのと守るのは得意だったでしょ? スケルトン程度にやられるとは思えないんだけど、どしたのよ」
「いやあ、スケルトンの親玉みたいなのがいてね。それをエルフの皆と迎撃してたら、不意打ち気味にやられて。こうなっちゃったんだ。……まあ、一回追い払ったんだけど――問題はそこじゃなくてね。畑の方さ」
「畑、ですか? 作物が実らなくなっていると聞きましたが……」
「事実だよ。一縷の望みにかけて、デュランタたちは、トマトを実らせられる人や場所を探すために、種を里の外に出したくらいだしね」
「そういう経緯があったんですか」
デュランタは頷く。
「食料が尽きたので、外部からの補給に頼るしかなく。物資を買うためにお金が必要になったのもありますが。……ともあれ、畑を見てくれると嬉しいです」
「とにかく作物が実らない……というか、植える事もできないそうなんだが。私じゃ、農業について分からなくてね。
「分かりました。ちょっと見てみますね」
「では、こちらへ」
デュランタに案内されて、俺とシアは、エルフの里内にある一番大きな畑に向かった。
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