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作物を売りに来た。客観的な価値は凄いものだった。そして――

トマト入りのケースを抱えたミゲルは、交易ギルドの受付に向かってツカツカと歩く。

 混む時間帯を僅かに過ぎたため、並んでいる人はほぼいない。


 ただ、自分の用事を終えた客が、買い物のためにギルド支部の中に結構な数残っている。良い時間帯だ、と思いながら、ミゲルは、受付の前まで行き、


「おはよう、セリネ君。会議に出席しにきたよ」


 懇意にしている受付嬢の前にケースを置きつつ、声をかけた。


「おはようございます、ミゲルさん。……それ、今日の会議に出す品ですか」


「うん。見せなくてもいい?」


「駄目です。たまに危険物があるから、ちゃんとここで見せる様に、必要なら預かる様にルール付けされていますので」


「だよねえ。じゃあ、はい。今回の目玉商品はこちらだよ」


 ミゲルはケースの鍵を開け、わざと大きく開ける。周りにもわずかに見える様に、体を横にずらして、だ。


 そして、まず反応したのは、目の前にいるセリネで、


「こ、これってまさか、エルフのトマトですか!?」


 その声は、大きくはなかった。けれど、耳ざとい人なら聞けるようなもので、


「ああ。そうだよ。今回の役員会議で取引しようと思っててね。ルールなのでここで見せたけど、預かってくれるかい?」


 言うと、セリネは焦りながら、首を横に振った。


「い、いやいやいや、こんな大事なモノ、預かれませんよ! ご自分で会議まで保管しておいてください!」


「おや、そうかい?」


「だって、ただのトマトが1つ100ゴールドってところなのに。以前、一個だけ競売にかけられた時、一個五十万ゴールドの値段が付いていましたよね……? そんな生鮮食品をいきなり預かれませんよ」


「それもそうだね。まあ、とりあえず、ルールは守ったってことで」


「もう……人が悪いんですから。周りもざわついちゃってますよ」


「うんうん。噂が広まっているようで何よりだ。欲しがる人が増えれば、価値も上がるってものさ!」


「本当に人が悪い。というか、どこで手に入れたんですか。それ」


 セリネに対し、ミゲルは、数秒沈黙して、


「ないしょ」


「変にタメるから、そう言うと思いました。……入ってくる時、グローリー家のご子息たちと共にいらっしゃってるのは見ましたけど、あんな可愛らしい男の子に、変な悪影響与えないで下さいよ」


「勿論、分かっているともさ。じゃあね」



 交易ギルド入口近くのベンチに座って見学している俺とシアの下に、ミゲルは戻ってきた。

「さて、これで、売る手筈は整ったとも」


「セシルさん、一個五十万とか言ってましたけど、そんなすごい作物だったんですね……」


「そう、凄いのだとも。だからこそ、再び巡り合えた幸運と、君の存在に対して涙が止まらなかった訳だ!」


 五十万ゴールドともなれば、ひと月の間、不自由なく暮らせる額だ。トマト一個がそんな値段になるとは。


 ちょっと特殊な作物だとはいえ、とんでもない価値が付いたものだ。

  

「まあ、下手に悪目立ちして、高く売りつけたりはしないので、そこは安心してほしい。恨みを買うほど馬鹿な商売はしてないつもりなのでね。万が一、目立ったとしても、私が全てその視線を引き受ければ良いんだしね」


「すみません。矢面に立っていただいて」


 絶対に生産者として俺の正体を明かさないでほしい、という訳ではないのだけれども。それでも、下手な注目を浴びるのは、いい事ではないのだろうし。有難い事だ、とミゲルに礼を言うと、


「気にしない気にしない。生産者を守る。これも商人の仕事の一つさ。まあ、私は目立ちたがり屋だし。趣味と実益を兼ねていると言っても過言ではないしね!」


 などと明るく言っている。

 

 どこまで本当かは分からないが、せっかくのご厚意。受け取らせて貰おう、と思っていると、

 

「もし、そこの方々」


 横合いから声をかけられた。

 

 見るとそこには、弓を持ったエルフの女性が立っていて、


「……我らが開発した『エリクシルフルーツ』の果実があるとは、本当ですか?」


 そんなことを言ってきた。

 

「えりくしるふるーつ……?」


 俺が首をかしげると、エルフの女性は若干焦り顔で、

 

「――っと、すみません。この街での流通名は『エルフのトマト』でしたね。慌てて以前の名前を呼んでしまいました」


 と、訂正してきた。エルフにはエルフの呼び方があるのだろうか。

 

「ともあれ、お持ち、なのですよね? 先ほど、受付の方でそんな話が、耳に入ってきたもので」


 長い耳を動かしながら、エルフの女性は言う。

 それに対応するのは、ミゲルで、

 

「勿論、持っているとも。まだ会議前なのでね。市場には出せてはいないが……」


 こっそりと、エルフの女性に見せた。すると彼女は、

 

「この香り、魔力……本物だ……」


 と、驚きの表情を浮かべた。そして、ミゲルに詰め寄り、


「お願いがあります。可能でしたら、譲ってもらえませんか?」


「譲る、とな? エルフの君に?」


 ミゲルはそう言って、俺と目を見合わせた。

 恐らく、俺と同じように疑問を浮かべたのだろう。

 

 ……種を作っていた当事者であるはずのエルフが譲ってほしいとか、奇妙な事を言って来てるけど……


 何か事情があるのだろうか。だから、聞いてみる。

 

「必要なんですか? このトマトが」


 質問の答えは、エルフの女性の深刻そうな表情と共に返ってきた。


「はい。我が里と、同胞を、助けるためにこの果実がいるのです」


 更に言葉は続き、

 

「そして、これも可能であれば、ですが。育てた方を教えて頂きたいのです。その方の知恵を借りたいのです。このままではいずれ飢えに陥ってしまう里を、助けるために……!」

 

 そんなことを言うのだった。 


【お読み頂いた御礼とお願い】

 本作品をここまでお読み頂き、有り難うございます。


「面白かった」

「この先が気になる」

「アルトとシアの続きが読みたい!」


 少しでもそう思って頂けましたら、広告の下にある☆☆☆☆☆のポイント評価、そしてブックマークの登録をして頂けますと、作者のモチベーションになります!(☆5個で10ポイントになります。この10ポイントを頂けると本当に嬉しいです!)


 どうぞよろしくお願いいたします。

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