表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/47

自分と作物の成長の味

 今回収穫できた『エルフのトマト』は、木箱4つ分だった。

 

 実そのものは、普通のトマトの数倍といったところ。

 種は大きかったのだが、一つ一つの大きさは、種とそう変わらないくらいだった。

 

 割って中身を見ても、種子は普通の大きさで。大きい種は見る事は出来ない。

 

 ……どうやってこれで次代を作るんだろう。特殊な方法があるのかな?

 

 と、悩んでいると、

 

「アルト、早く食べましょうよ!」


 シアが催促してきた。

 彼女だけではなく、スライムや、アディプス、そしてエウロスもいた。


 それぞれ、テーブルについている。


「作物を食べるためだけに呼ばれるの、初めてね」


「エウロスもですか。私もです」


「変だったかな。皆の協力で出来たものだから、皆で味わった方が良いかなって思ったんだけど」


 そう言うと、二人は目を丸くした後、微笑みを浮かべた。


「変ではありますが、私は好ましく思うです」


「アタシもよ。そういう事を言ってくれる主だと、力の貸し甲斐も増すわ」


 どうやら、喜んでくれているようだ。

 スライムも下の方で、ふんふん、上下に震えているし。期待がこもっているのが分かる。

 

「それじゃあ、とりあえず食べようか」


 俺は種を見るために切ったトマトを、食べやすくカットし、皆の前に回す。


 動物によっては食べられない子もいるらしいが、この場にいる全員は大丈夫との事で。遠慮なく振舞う事にして、

 

「いただきます」


 俺も、食べた。

 

「うわ…………!」


 まず、率直に出た感想がそれだった。言葉が詰まる美味しさ、という奴で。

 まず爽やかな甘みが来て、その後にみずみずしさと、酸味。

 

 それが噛めば噛むほど、増幅されていくのだ。

 

 ……美味しい……!


 噛みしめる度に、その思いが浮かんでくる。ただ、これは人間の俺にとっての感想で、皆にとってはどうか、と顔を上げてまわりを見ると、

 

「んー、これいいわね。捧げられた供物でも味わったことない、極上よ」


 エウロスはほっぺに手を当て、美味しそうに食べている。その感情を表すように、風が渦巻いている。


「甘味が良いですね。水分量も豊富で。これ一個食べるだけで、体調も大分回復しそうです」

 アディプスは、トマトを吸うように食べている。土や栄養に詳しい彼女も表情が緩んでいる。

 

 スライムは、トマト色になっていて目が凛々しくなっている。美味しいと、こちらに目で訴えかけてきている。

 そして、シアも、ガツガツと食べていて、

 

「まるでお肉みたいよ! 本当に芳醇な魔力をそのまま食べてるみたいで、凄いわ。食べるだけでレベルが上がっちゃいそうだもの!」


 大好評だった。

 あっという間に、1つの木箱の半分ほどを平らげてしまった。一口食べるごとに、身体が成長していくような、そんな感覚さえあったのだ。


 

 食べても食べても、全然お腹に溜まることなく、水分として循環していくような感じがある。

 

「ふう、美味しかった。育ててよかったなあ」


「ホント、2週間、頑張った甲斐があったわね!」


「そうだねえ。皆して、刈りまくったもんね……」


 その苦労に見合う味と幸福感だと思う。そして、思うのは、

 

「これ、屋敷の皆にも食べてもらいたいな」


 二週間の間、頑張ったのは俺達だけじゃない。屋敷で俺を助けてくれた皆にも分けたい。そう申し出ると、

 

「良いんじゃない。私たちだけで独占するものじゃないしね」


「主の思うがままにするのがいいです」


「同感。調理したエルフのトマトってのも、面白そうだしね」


 みんな、そう言ってくれた。

 

 だから、俺も頷いて、


「ありがとう。それじゃあ、屋敷に行こうか」


 そうして、俺は、トマトの入った木箱を荷車に載せ、屋敷に戻ることにした。

 

 〇

 

 家族で味わうには、まず調理してもらう必要がある。なので調理場に行き、そこにいた料理長やフミリスに見せたのだが


「こ、このトマトは……一体どこで……」


「もしや、アルト様が作られたのですか?」


「うん」


「というかこの大きさ、まさか、街で話題となった『エルフのトマト』では……」


 二人とも――というか、その場にいたメイドたちも驚いていた。料理長は特にだ。食材について詳しいから、街で流行った食材なども知っているのだろう。そして噂に詳しいフミリスもそれは同じようで、


「え……これがあの……?! 王都の高級レストランですら、仕入れようと躍起になっているという……!? どうやって、育てたのですか?」


 10年間、掛かる作物とされているから、手に入らないのだろう、と思いながら俺は答える。

 

「仲間たちと協力したら上手い事行ってね。味見したけれど、かなり美味しいから。皆で食べたいな、と思って」


「か、かしこまりました。責任をもって、調理させてもらいます」


 そうして、調理が始まったら、幾人かの使用人がエルフのトマトの匂いに誘われて見に来たり、今までではありえない事が起きたりしたのだが。とりあえず無事に料理は完成して、その日、家族の食卓に並んだ。


【お読み頂いた御礼とお願い】

 本作品をここまでお読み頂き、有り難うございます。


「面白かった」

「この先が気になる」

「アルトとシアの続きが読みたい!」


 少しでもそう思って頂けましたら、広告の下にある☆☆☆☆☆のポイント評価、そしてブックマークの登録をして頂けますと、作者のモチベーションになります!(☆5個で10ポイントになります。この10ポイントを頂けると本当に嬉しいです!)


 どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
●書籍版のお知らせ
 お陰様で書籍化&コミカライズが決定しました! ↓の表紙から公式サイトに飛べます!
b28ih2vbeyxk5icv7qnt5ef6j71f_y5w_m8_vl_k7na
― 新着の感想 ―
[気になる点]  出来立てのトマトを軽く洗った程度かよく冷やしたかで、それぞれで味わいが違うのよね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ