表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/47

レベル1の《羊飼い》

お久しぶりです。新作始めました! よろしくお願いします!

「アルト・グローリー。貴方の職業は……《羊飼い》です」

 

 俺が10歳になった日、我が家に来た神託の神官はそう言って、『《羊飼い》アルト・グローリーのスキル書』と描かれた一枚の羊皮紙を渡してきた。

 

「《羊飼い》アルト・グローリー レベル1 

筋力    G

知力    G

魔力    G  

体力    G  

異常耐性力 G  


・習得スキル

動植物会話ランク1


 

 母は驚きの表情で神官に聞き返している。

 

「それは……本当ですか、神官様」

「はい。申し訳ありません。魔王戦争を勝ち抜いたグローリー家のご子息だと、何度も神様に確認しましたが、変更はないとの事です。……それでは、私はこれで」


 十歳になると、神から適性に合った《職》を授けられる。それが社会の決まりであり、俺も例外になることなく、職業を与えられた。

 

 だが、周りにいる家族――年の離れた姉や兄は、その表情をわずかに強張らせている。神官が去った後、姉は、抱き付いて慰めてくる。

 

「可哀想なアルト……。魔王が倒れたとはいえ、今だモンスターが蔓延る世の中で、大変よ……」


「ああ。俺は《剣王》。旅だった俺の双子の片割れは《槍術王》。姉さんは《賢者》だというのに。まさか、愛する弟が《羊飼い》とはな。大抵は羊を飼いながら農家をやっているから、一年にレベル1上げるのがやっとだと聞く。戦闘スキルなど殆ど無いから、モンスターを倒せない。それ故レベルも上がりにくい、とのことだ……」


「モンスターを倒せないとレベルアップも満足に出来ないこの世が悪いわ……。レベルを上げないとスキルも魔法も覚える事すら出来ないじゃない」 


 兄や姉はこちらを撫でてくる。母は祖父に相談している。


「知人の羊飼いは、齢60になって、レベルも50になったと聞きますが。それでも魔法は覚えられず、戦闘スキルも得られなかったと聞きます。どうしましょうか、お父さん……」


 大人が難しい顔をしそうになりつつ、しかし優し気に、こちらの頭を撫でてくる。

 

 一般的に言って、告げられた職業が、もろ手をあげて喜べるものではないのだろう。それはこの世界において、確かに正しい。だが、とうの俺はというと、

 

 ……これでくいっぱぐれる可能性が減ってくれた……!!

 

 少しだけ喜んでいた。

 

 というのも、俺にはおぼろげながら、前世の記憶というものがあった。

 この世界で、戦場に身を置き、最後には餓死をした男の記憶だ。

 

 全てが全て覚えている訳ではないし、この歳特有の妄想かもしれないが、確かに覚えていることはあった。

 

 ……飢える事に対しての恐怖心は、特に。

 

 貴族の三男坊として生まれ、衣食住は保証されていた。

 

 が、それがいつまで続くか誰も保証できない事も分かっていた。

 だからこそ、この歳になるまで、本を読み漁り、農業や酪農の知識を付け、自給自足の方法を学んでいた。

 

 ……《羊飼い》は、ヘタに戦闘職になるよりも、ずっとずっと、物が食える職業だ……!

 

 落ち込む周りに対し、そう前向きにとらえていた。そして、俺と同じように落ち込んでいない人はもう一人いた。

 

 祖父、エディ・グローリーだ。

 

「よし――アルト、エディ爺ちゃんに付いてきなさい。良い所に案内しよう」


 彼は難しい顔をせずに、こちらを見てそう言った。


「う、うん。分かった」


 そのまま俺が、祖父に連れてこられた先にあったのは、崩れた城が目立つ、広大な土地だ。

 草は伸び放題で、緑はあるが、荒れた地だ。


「アルトよ。この辺りはまだ手付かずだから。好きに開墾すると良い」


 祖父がそう言う中、俺は崩れた城に目を引かれていて、


「これ、何のお城?」


 聞くと祖父は頷いて答えた。

「元々魔王の城だったんだ」


「魔王って、五十年前に、エディ爺ちゃんたちが倒した?」


「ああ。だから、ここにはもういないし、城が崩れて、近くに町が出来た今、モンスターが集まる事もない。ただ、開墾に手間がかかる土地だけが残ったんだ」


 話には聞いていたが、来るのは初めてだ。


「手間っていうと、このお城の残骸のこと……?」


「頭の回転が速いなアルト。そうだとも。瓦礫も多く、耕すにも時間がかかる。それ以外にも、『元魔王城』という曰くも付いていて、気味悪がられ、触れれば呪われるという噂まである。おまけに王都から遠く離れておる。それ故、魔王戦争を勝ち抜き、爵位を得た者達が魔王との戦争での褒賞を貰う際、興味のない土地でもあった」


「戦争で爵位を得たワシは権力争いから離れる意味も込めて、ここを貰ったわけだ。だからこそ……ワシら一家、グローリー家が自由に使える土地でもあるんだ」

 そう言い終えた祖父は、俺の目を真っすぐ見て、


「鍬を振ってみるといい」


 鍬を渡してきた。

 言われるがままに何度か振るう。地面は土だが硬く、深く入らない。

 

 鍬の振り方は勉強してきたが、実際にやるのは大違いだ。

 

「はあ……ふう……」


 それでも振ってると祖父が話しかけてくる。


「お前は今日、《羊飼い》という職を神様から与えられたな。スキルも得られただろう?」


 与えられた《職業》によって、人はスキルを手に入れられる。そして鍛える事でスキルを増やすことが出来る。


 無論、俺の頭の中にも、職業を得た瞬間、スキルの情報が入って来ていて


「う、うん。【動植物対話レベル1】っていうスキルがね。羊だけでなくて、それを追いかける犬とか。ついでに、他の動物とも喋れるってやつ。あと、動物の餌にするための植物にも話を聞けるみたい」


「そうだな。動物の餌――つまり人間の餌になる植物に、その能力は使える。そのお陰で酪農だけでなく、農業も捗るだろう」


「そうっ……なの!? 出来るのって、羊を飼うだけじゃないんだ?!」


「ああ。だが……どうだ? 開拓は楽か?」

「ぜ、全然、楽じゃないよ」


 既に何度も鍬を振って腕はパンパンだし、足や腰が痛い。

 それを伝えると、祖父は小さく頷いた。

 

「そうだ。スキルがあっても、それがあるからといって、楽な事ではない。それはどの職業でも同じだ」


「ど、どの職業でも?」


「ああ。……魔王が倒れた今でも、モンスターが蔓延る世界では戦闘職の方が必要とされていて、《羊飼い》であるお前は、周囲の皆からガッカリされるかもしれない。だが、気にする必要はない。お前にはお前の戦い方がある」


「……俺の、戦い方……」


 祖父の話を聞きながら鍬を振り続けるが、限界がきた。腕が、上げようとしても、上がらなくなったのだ。

 それが分かったのか、祖父はそっと、俺の手を止めた。


「限界か」

「はあ……はあ……うん」

「そうか。これがお前が今、耕した範囲だ」


 振り返ると、俺が鍬を振れて、掘り返せたのはほんの数メートルと言ったところだ。


「いいかい。お前の今は、これが限界だ。――だから、アルト。君はこの巨大な土地を開墾して、《羊飼い》として成長するといい」


 そう言った。


「せいちょう……」

「農作業をしていれば体も鍛えられるし、《羊飼い》として成長すれば新たなスキルも手に入る。それは君が今後の人生を活きる力になるだろう。

 例え、戦闘職でなくても、落ち込む必要はない。力を活かし、出来る事をすれば、それでいいんだ」


 祖父の視線は真っすぐで、誤魔化しはなかった。

 だからか、俺の心にはすっと、祖父の言葉が入ってきていて、


「……それが俺の戦い方になるんだね」


 祖父は頷いた。


「分かったよ、お爺ちゃん。俺、頑張るよ」


 例え、評価されない職業だったのだとしても、頑張って成長しようと。そう思ったのだ。


「そうか。開墾の為の道具が必要ならいつでも言ってくれ。鍛冶に作って貰おう」

「うん。……それじゃあ今、どれくらい広いか見てきても良い?」

「うむ、それでは、ワシはここで待ってるから。暗くなる前に戻ってきなさい。それと危ない場所には近づかない事。分かったね」

「はーい」


 祖父に返事をしてから、俺は旧魔王城跡地に足を踏み入れる。

 未だ大きな瓦礫が残っており、瓦礫の一つ一つが中々の硬さだと、触れるだけで分かった。

 

 ……これは、砕くだけでも相当な力と時間が要りそうだなあ。

 

 今は数メートルの耕しで、ヘロヘロになって、手が豆だらけになる状態だ。この瓦礫一つ砕くのに何時間かかる事か。

 

 ……でもまあ、やれることをやるしかない。飢えるのは嫌だし、頑張るかなあ。

 

 と、何気なく思っていた、そんな時だ。

 

『たすけて……』


 近くから声が聞こえた気がした。


「え……」


 慌てて振り向くが、誰もいない。

 気のせいだったか、と思ったが、


『おもい……おなか、すいた……たすけて……』


 また聞こえた。

 聞き間違いではない。

 だから俺は改めて、声が聞こえた――気がした方向をじろりと見た。

 そして、見つけた。

 

「これって……」


 瓦礫と瓦礫が折り重なって影を作っている場所。

 そこに、毛布にくるまれた状態で、しかしぐったりとしている小さな犬がいたのだ。



赤い毛をした、奇麗な犬であるが、この様子を見るに、


「捨て犬って、酷いな、こんなところに」


 こんなところだから、捨てるのにちょうどよかったのかもしれないが。

 いや、今はそんなことを考えている場合ではなく、

 

「可哀想に」


 まず、犬が潰されないように瓦礫をどけた。


 ……いてて。


 大分重い。瓦礫が尖っていたから、手の豆が破れて血だらけになったが、どうにかどかせた。これでもう潰れる心配はない。


「ええと……大丈夫かい?」


 まず声をかけた。すると、

 

『おなか……すいた』


 先ほどまで聞こえていたのと同じ声がした。

 この子が発していた声だったようだが、

 

 ……これが、もしかして動植物対話、ってスキルの効果なのか……。

 

 今日得たばかりの職業の力に感謝しながら、俺は懐を探る。

 

 ……お腹が空いている子を見ると、凄く悲しくなるからな。

 

 確か、祖父に昼食代わりに持たされたパンとミルクがある。


 素朴な味付けのものだ。子犬に食べさせていいものかは分からないが、昔、家の番犬が喜んで食べていたのを見た事がある。だから、

 

「これ、食べられるか」

 

 小さくちぎった上で、差し出した。


 ……ちょっと血がついてしまったが。


 食べてくれるだろうか、と思っていると、


「……!」


 一心不乱に、子犬はパンに食いついた。 

 むしゃむしゃとかみ砕き、飲み込んで、

 

『美味しい……!』


 喜んでいるようだった。


「良かった。ミルクもあるぞ」


 ミルクの入った瓶を差し出すと、それもぺろぺろと舐め始めた。 

 そして、俺が持ってきた分を食いつくすと、子犬は落ち着いた息を吐き、


『ふう……ありがとう。生き返った心地』

「ウチで焼いてるパンは、街でも結構評判がいいからな。好評で何よりだ」


 などと喋っていると、犬が目を白黒とさせた。


『今更だけど、私の言葉、通じるの?』

「ああ。俺のスキルらしい。《羊飼い》っていう職業のな」


 俺としても犬とこうして喋れるのが、不思議な気分でもあるが。そう言うと、犬は笑った。 

 その表情から見るに、先程の弱り具合から、多少、元気が出たらしい。

 

 ……とはいえ、まだふるふると、体が震えているな。

 

 寒いのかもしれない。少なくとも、ここで放置しておいていいような状態じゃないのだが、


「君、これからどこか行くところはあるのか?」


 一応、聞いた。すると、犬は首を横に振った。


『どこにも。今の私に、居場所はないみたい』


 犬は周囲を見ていった。この子なりに、捨てられたという、現状を理解しているのかもしれない。だから、という訳ではないのだが、


「……一緒に来るか?」


 聞いた。すると、犬は少しだけ窺うような目になって、


『……良いの?』

「構わないさ。ウチの家族が断るなんてことはないし。万一断ったとしても説得するさ。だから、気にせず来ると良いよ」


 空腹だった子を、こんなところに置いておくわけにはいかない。その為だったら、説得なんていくらでもしよう。

 そう伝えて、犬の前に手を広げた。すると、犬は、少しびっくりしたような顔で


『血まみれ……。さっきのパンについていた血って……』

「ああ、ごめんな。ちょっと瓦礫をどけた時にやっちまって」


 いうと、犬は首を横に振った。

 

『ううん。大丈夫。全部分かった。私、血肉をもって助けてくれた、貴方のとこへ行く……!』

 

 胸に飛び込んできた 

 小さな体を、優しく支える。

 ぷるぷると未だ震えているが、その毛は、

 

 ……ふかふかで、ふわふわだなあ。

 

 触り心地がいいなあ、なんて思っていると、  


『あ、れでぃーなんだから、丁寧に触ってよ』


 彼女がそう言ってきた。


「ああ。悪い悪い。というか、君は女の子だったんだな」

『気づかなかったの?!』

「今気づいた。まあ、ともあれよろしくな。俺はアルトっていうんだ」


 若干むっとされたので、誤魔化すように自己紹介すると、彼女は俺の名前を噛みしめる様に頷き、


『アルト……。なら、私も名乗る』

「え、ここに置きざりにされていたのに、名前があるのか?」


『うん。私は●●●シアス・ディアスシア。30の軍団を指揮する者よ』


「……? 立派な名前があるんだね。ちょっと前半が聞き取れなかったんだけれど」


 動物対話というスキルで、音としては聞こえるのだが、意味が取れない。そんな感じだ。


『人間の言葉の発音にないのかも。まあいいわ。シアって呼んで。そして、どうか末永く、よろしくね』


 シアはそう言った後、こちらを見て、


『血の盟約の名のもとに、私は、ずっとあなたと一緒にいるからね』

「? なんだかわからないけど、よろしくお願いするよ」


 それが、俺と相棒――シアとの出会いだった。

 


 アルトを連れて自宅に戻ったエディは、アルトを寝かしつけた後、己の娘から声をかけられていた。


「お父さん。アルト、ワンちゃんを拾ってきたのね。可愛い子だったけど」


「ああ。羊飼いになったばかりではあるが、動物の声を聞いて助けたそうだ」


「大変な職業になっても優しいままで、良かったわ」


「そうだな……しかし……」


「あれ、何か困りごと?」


「いや、少しな」


 エディは、呟くように零す。

 

「あの子犬、伝説の魔獣の一体、マルコシアスに似てるな、と」


「マルコシアスって……お父さんたちが、戦争の時に、魔王の軍と戦っている姿を見たっていう?」


「うむ。人間の味方というわけでもなかったので、恐れられていた伝説の魔獣だ。とはいえ、マルコシアスは体長十メートルを超える超巨大な怪物だ」


 あの子犬は、どうみても、そんな大きさではないし、アルトに懐いてもいるようだったし、

「まあ、見守っておけば問題ないか」


 エディは、そう思いながら、熟睡しているであろうアルトのいる部屋を見るのだった。



 アルトの部屋。

 その奥に置かれた棚に、彼のスキル書は収められていた。


 そのスキル書には今、光と共に文字が新しく刻まれている。


『羊飼いとの契約を確認。牧羊犬としてマルコシアス・ディアスシアを契約します』

 

『これより、羊飼いのレベルに、契約者と契約者が所有する軍団のレベルの合算が加わります』


「《羊飼い》アルト・グローリー レベル 250 

筋力    B

知力    D

魔力    D  

体力    D  

異常耐性力 C  


習得スキル

・動植物会話ランク1

・魔法【〇】


続きは明日の昼か午後に。出来る限り毎日連載がんばります!


【お読み頂いた御礼とお願い】

 本作品をここまでお読み頂き、有り難うございます。

「面白かった」

「この先が気になる」

「羊飼いが、ここから最強になるの?!続きが読みたい!」


 少しでもそう思って頂けましたら、広告の下にある☆☆☆☆☆のポイント評価、そしてブックマークの登録をして頂けますと、作者のモチベーションになります!


 どうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
●書籍版のお知らせ
 お陰様で書籍化&コミカライズが決定しました! ↓の表紙から公式サイトに飛べます!
b28ih2vbeyxk5icv7qnt5ef6j71f_y5w_m8_vl_k7na
― 新着の感想 ―
羊飼いの設定いるの? 動物と魔獣は同じ存在? 他に羊飼いが居るみたいだけど彼らは魔獣と出会ったことがないの?モンスターが蔓延る世の中で?
[気になる点] 兄1人と姉1人だと三男にはならないのでは? 次男じゃない?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ