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人間五十年

 信長様は陽キャであった。陽キャでパリピであらせられた。

 誰にでも別け隔てなく接するし、部下である武将の浮気問題にも、相談されたらきちんと対処する人物である。


 事ある事に武将を集め、相撲大会をしたり、ピクニックをしたり、能を舞ったり。末端の足軽や、領民の隅々にまで目を配り、気を配るお方だ。


 正直、私はどちらかというと陰のものなので、そんな信長様が眩しく、そしてとても疎ましく思えた。相撲大会もピクニックも、バーベキューもやりたい連中でやればいいのに、何故いちいち全員参加なのか。


 そもそも私は他の武将と話をあまりしないし、どっちかというと独りが好きなタイプなので、もうなんか苦痛でしかないのだ。


 そんな私を気遣って、話しかけてくる信長様への申し訳無さも相まって、もう私は死んだほうが良いのではないかとか、なんか無駄に自分へ攻撃を重ねてしまう。

 信長様は何も悪くない。悪くないのだが、それが積み重なって、憎悪となるのだ。



 さて、信長様は、今日は本能寺にお泊りらしい。私は中国へ遠征だ。

 …周辺に織田側の兵力は無し。私だけが、信長様の近くに、兵力を率いて、存在している。

 とりあえず、信長様に意見を頂戴してみよう。


「信長様は陽キャで私にはキツイので、お命頂戴してもよろしいですか」

「デアルカ。いやいや。それちょっとドイヒーじゃん。俺死んじゃうじゃん。死ぬのいやじゃん」


 わけを聞いた信長様は少し考えた末、私に言った。


「だったらお前が俺の後を継げばいいんじゃん? 俺はお濃と蘭丸と、あと主だった者さえいれば問題ないしさ」

「はぁ。じゃあそうします。どうすればよろしいですか?」

「今から俺等は逃げるから、火を放って『信長討ち取った』って喧伝すれば良いよ。多分、猿が出張ってくるから、俺の名前出して事情を話せばいいんじゃない。ほんじゃバイビー☆」


「バイビーってまた古い…」

 信長様が行ってしまわれてから、しばらくして気付いた。全て押し付けられたと。


「はーい、光秀軍集合ー」

 とりあえず、これからの動きを全軍に下知する。


「えーこれから各班に別れて、『信長討ち取ったり―』と大声で吹聴してください。班決めにあぶれた子たちは、遊撃隊で火を付けてまわってください。お寺さんにはお金を渡して話を通してあります」

「はーい」


 そして私は天下人(まであと一歩)となった。


 二日を過ぎたあたりから、信長様がなぜあそこで、さらりと私に立場を引き継いだのか、なんとなく理解出来た気がする。非常にキツイのである。


 領民からの訴え、部下達からの意見具申及び苦情、インフラの整備に加えて国防、治安、食糧問題等々、考えることが前にも増して多すぎるのである。いや、私も領土を持っていたから同じような仕事をしていたものの、量が違う。


「あれ? そういえば何故、私は信長様と入れ替わったんだっけ…」

 最初に「それが積み重なって憎悪となるのだ」などとかっこつけて言っておきながら、これだ。


 それから数日後、羽柴秀吉が来た。


「おい、光秀殿! 信長様を討ち取ったというのは真か!」

「ああ、秀吉殿。待っておったんだ。実はな…」


 私は秀吉殿に全てを伝えた。


「なるほど…。いやこう言ってはなんだが、いかにも信長様がやりそうなことだ…」

「それでな秀吉殿。私はもう疲れた。秀吉殿が私を討ったということで、全部全てまるっとどこまでもお譲りいたす。ではさらば」

「は?」


 私は部下や兵たちと共に居城を明け渡し、とりあえず郷里に帰っていった。


 その後はやはり、いろいろとすったもんだがあったらしい。だがまぁ、今のところは天下は安定している。聞くところによると、秀吉殿は野心家であったようで、私や信長様みたいに簡単にバトンタッチはしなかったようだ。


 考えてみれば、「鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス」と読んだとされる信長様は、ホトトギスが鳴く前に殺されて(しまったことにして)しまったし、秀吉殿は「鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス」と読んだとされるが、鳴かせてみせる前にホトトギスは鳴いてしまった。


 結局、「鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス」を読んだとされる家康殿だけが、その通りになったのも皮肉なものだ。まぁ、その家康殿に、今現在、私は天海という僧侶として仕えているのだが。


 「鳴かぬなら 鳴かずとも良い ホトトギス」

 

 お前が鳴かずとも、なんとかしてやるわ。

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― 新着の感想 ―
案外これが本当だったりして。
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