彼女の嫌悪
彼女は夢を見た。
過去に蔑み虐げてきた男たちの夢。
学生の時のあの男の子、社会人になり音楽サークルで知り合ったあの男の人、これらは当時の彼女が蔑み見下していた男たち。
好きでもない相手に好意を寄せられる事に嫌悪感を覚えてしまう彼女は当時、彼らが向けてくる好意がおぞましく居心地悪く感じていた。
そんな彼らが、揃いも揃って夢に登場したのだ。ひどく戸惑ったが、それは、昔の嫌悪感を思い出したからではない。
彼らの対応が彼女の記憶していたものと大幅に違ったからだった。
夢に登場する彼らは彼女に一切見向きもしないのだ。
隣にいる女性と親しげに談笑している。もはや彼女の事など眼中にないとでもいうように、チラリとも見向きもせず楽しげに笑っている。
そこに心底戸惑う。彼女を見つめるあのなんとも居心地の悪い視線を向けられることは夢が覚めるまでついになかったのだから。
彼女は起きてから、自分の違和感に気づいた。
彼女が過去にあれだけ気分を害した視線から解放されたというのに、何一つ安堵していないという事だ。
それどころか何か物足りないような、少し腹立たしいようなそんな感情に支配されている。
つまり、当時あれだけ嫌悪しながらも心の底では、好意を向けられる事に対して、優越感を感じていたという事だろうか。
自分を見つめる彼らを蔑んでいながら、どこか、永遠に自分だけを見つめていればいいのにと、思っていたのだろうか。そんなことを、成人して随分と経つ今になっても、図々しく思っているのだろうか。
彼らにとっては当時の事などもう、思い出であるというのに、彼女の中では未だふと思い出し、自分を慰め悦に浸れるような余韻をまだ残しているという事なのか。
彼女の事をもう見つめない彼らにやっと、思い知らされる。目が覚めて、夢だったのかと呆然としながら、現実の惨めな自分に愕然とするのだ。