屋上
数分後、3人は屋上にいた。
「さあ、ここで好きなだけアクションして頂戴!」
秀実がミュージカル調に葵と大川に言う。
が、2人はそれを冷たい目線で見つめるだけだ。
「飛弾さん…何で、屋上の鍵を持っていたの?と、言うか、さっきの画像、消去してよ。」
葵が淡々と抗議をする。
「鍵は先生に借りたわ。そして、画像は使いたいわ。」
「なんにだよ?」
大川が、ここで反応した。
「勿論、挿し絵のためよ。新世紀の明智小五郎シリーズの!!」
秀実は、探偵の決め台詞のようにズバッと言い放つ。
「新世紀の明智小五郎!?」
と、お約束のように葵と大川は声を揃えて叫び、お互いの顔を恥ずかしそうに見る。
「ホント、ずるいわよっ。なんで郷土資料部が、文芸部を差し置いて、こんな面白そうな事を初めてんのよっ。」
秀実は少し拗ねたようにほほを膨らます。
秋風が秀実の体にまとわりついて、細いウエストラインを強調する。
165cm くらいかなぁ…それくらいが良いよなぁ。
葵は、向かい風を受けながら自信満々に立つ秀実を羨ましく思いつつ、
文芸部には、この企画が羨ましい事だったのか、と、感心した。
「おばあちゃん家が中央商店街だから、たまたまだよ。
ねえ。」
と、葵は大川を見る。大川、照れる。
「ああ、大川くんは八百屋さんだもんね。」
秀実は納得した。
「そうだが、なんで、明智小五郎なんだ?俺たちは江戸川乱歩の作品を使って町おこしをするんだ。」
大川の台詞に葵と秀実が悲鳴をあげる。
「江戸川乱歩と言ったら、明智小五郎じゃん!!」
今度は秀実と葵がハモり、顔を見合わせた。
「そうなのか…。俺は『二銭銅貨』しか知らなかった。」
と、動揺する大川に秀実が呆れたように呟いた。
「むしろ、そっちを知ってる人の方が少ないと思うわ。」