ホフマンの舟歌
駅前の喫茶店で4人が仲良く語り合っていた。
葵はドーナツとコーヒー。
清貴もドーナツとコーヒー。
ドーナツは、葵が迷ってやめた方を買った。
秀実はサイダー
遥希はアイスコーヒー
そして、秀実が興味深そうに遥希に質問していた。
「で、個人授業はどうだった?(^-^)」
プライベートレッスン(///∇///)
葵は音楽室までの尾行の時の秀実の妄想を思い出してドキドキした。
暗幕で仕切られた教室で目隠しをされ、椅子に座る遥希に小川がレコードを聴かせる。
『ホフマンの舟歌』
この曲に合わせて、ラテン語で小川が遥希の耳元で歌う…(///ω///)
(゜ロ゜)…
秀実の妄想の世界から正気に返った葵は、目のあった清貴に思わず聞いた。
「ホフマンの舟歌って知ってる?」
ホフマン( ̄□||||!!
いきなり葵に声をかけられて清貴の心臓が一気にかけ上がる。
ホフマンの舟歌……?
なんなんだ?どういう意味があるのでしょうか?葵さんっ…
清貴の脳細胞は一斉に情報を収集する。
『ホフマンの舟歌』とは有名な歌劇の挿入歌の事だ。
いや、まて、そんな名前のコミックの事かもしれない…
清貴は昔、似たような間違いをして、クラスの女子にキモがられた記憶を思い出す。
いきなり、歌劇のオッフェンバックの話などをして引かれたくはたくはない…葵さんには!
ここは…やはり検索一拓かっ…
脳細胞を高速回転させ、硬直する清貴に葵がすまなそうに笑いかける。
「…知らないわよね…クラッシックの事なんて。」
葵がスマホを取り出そうとした瞬間、清貴の動作が正常化する。
「しってますとも!オッフェンバックの『バカローレ』の事ですね。」
「バカローレ……」
葵がおうむ返しに呟く。
その視線に自分への尊敬の光を発見し、清貴は一気に有頂天になる。
「はい。『世界一有名な舟歌』と称される名曲です。」
清貴は自慢げに笑う。
「世界一有名な舟歌なんだぁ…。」
有名な舟歌…のフレーズで、商店街の町会長のカラオケの定番、演歌『舟歌』を思い出して葵は苦笑した。
「どうかしましたか?」
どやり顔になっていないか心配になりながら清貴が葵を見る。
「ああ…ごめんなさい。舟歌って聞くと、つい、演歌を思い出しちゃって。」
葵の言葉に清貴はホッとした。
「で、どんな歌なの?」
葵は西洋の荒くれ男ホフマンが海を目指してオールを漕ぐ力強い歌を思い浮かべた。
小川先生が…西洋の男の演歌をラテン語で大川くんに聴かせる(///∇///)
ガチムチBL…
秀実の妄想のBL世界が和太鼓と雄叫びで葵の頭を巡り赤面する。
清貴は、ボンヤリと『ホフマンの舟歌』を思い出す。
葵の頬が桜色に染まるのを不思議に思いながら、記憶を手繰る。
『ホフマンの舟歌』は19世紀の作曲家オッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』の挿入歌である。
『美しき夜、おお、恋の夜よ』とも呼ばれている。
詩人のホフマンの恋愛遍歴みたいな物語で、
この曲はヴェネチアの娼婦ジュリエッタが歌う美しい曲だ。
「オペラ…ですね。綺麗な曲ですよ。」
清貴は当たり障りのない説明をそっけなく伝えた。
それを聞いて、葵はホッとしたように笑う。
「オペラ…声を張り上げるやつよね。」
葵の心は地中海に飛ぶ。日焼けして魚をとる遥希…わりと似合う。が、小川先生はインドアタイプに見える…その前に、耳元で舟歌なんて歌われて、男の人でも嬉しいものなのだろうか
「まあ、そうですね。」
かわいいなぁ…と清貴は真剣に悩む葵の顔に笑みがわく。
少し考えてから、思いきったように葵が聞いた。
「ねえ、耳元で舟歌歌われたら、ドキドキする?」
えっ…(///0///)
清貴、葵の質問に絶句する。
頭の中で、かのオペラの歌詞がまわる…
それは美しい夜の女、ジュリエッタが男を誘う甘美な調べ…
そんなものを…葵さんに耳元で囁かれたら?
清貴は一瞬、脳天まで血が上るのを感じた。
それから、我にかえる。
聖女を…娼婦に例えるなんて!
「そんな事!絶対ありえませんっ!!」
えっ…(°∇°;)
いきなりの清貴の大声にみんなの注目が集まる。
「どうしたの?」
秀実が葵に笑いながら聞いた。




