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踊り場

放課後の図書館に一番に入ったのは大川だった。

三階にある図書館の窓側の晴れやかな青空をバックに奥のテーブルにひっそりと静かに座る大川。

しかし、体が大きいので、特異な雰囲気を遠くまで(かも)していて、引き戸から中を覗いた葵をギョッとさせた。


大川が気がついて、本を手に葵に近づいて来る。

一瞬、葵は、その勢いに圧されて逃げたくなる。

が、持ち直して背筋を伸ばす。


「すまん、話がしたいから、廊下に出ないか?」

図書館の引き戸の上の方に軽々と大きな右手を引っ掛けて大川が言う。

「本…いいの?」

と、意味もない指摘をしたのは、壁どんされてる様な雰囲気を無意識に消したかったからかもしれない。

「既に借りてある。大丈夫だ。」

大川は笑った。が、頭1.5くらい上から、逆光ぎみに見えるので、なんだか葵の笑顔が恐怖で歪む。

1歩、引くように下がり廊下に出た。


二人は、そのまま、屋上へと続く階段の踊り場に行った。

屋上は、鍵がかかっている。

昭和の在校生で飛び降りた人物がいたのだ。

と、言っても自殺ではない。

卒業間近の雪の積もったある日、男気自慢の3年生が、屋上から飛べるのかを賭けたのだ。

そして、彼は屋上から飛んだ。雪が1メートルは積もっていた。冬には2階から直行直帰する男子がいた時代、この根性比べにあまり、クラスメートは拒否反応を示さなかった。昔の雪国あるあるだったから。

むしろ、行けるのではないかと、議論が飛び、結果、クラスメート全員に小銭を賭けさせ、飛び降りた男子は足を骨折した。

以来、屋上は鍵がかかるようになり、この話は、理科の先生の温暖化ネタとして語り継がれている。


葵は、この話は都市伝説だと思っている。先生によれば、もっと昔の卒業生は、卒業の日、在校生に投げられて屋上を舞ったのだそうだ。下は、雪が何メートルも積もり、怪我をすることはなかったと言うのだ。

でも、 その男子が問題なら、冬だけ鍵をかければ良いのだから。


「木曽さん。朝の話をしたいんだが、いいか。」

大川が切り出した。

「良いけど、出来れば階段に座ってくれないかな?」

葵は、気を使いながらお願いをした。

今まで、大川の体の事なんて気にした事は無かったが、屋上の階段の踊り場で上からのし掛かるように覗かれてると、角に追いやられた小動物になったような不安を感じる。

「わかった。」

大川は、登りの階段の端に座り、それを見て葵は、ほっとする。


「で、お話って何?」

葵は警戒しながら話を向ける。

「あの本…どうしたのか、飛田さんに渡す前に聞いておきたい。」


時代劇みたいな話し方…

葵は、固い表情で固い話し方をする大川の事を少し滑稽(こっけい)に思った。 自分の態度に緊張しているとは、葵は考えもしない。

「大丈夫だって。ほら。」

と、葵は本を鞄から取り出す。が、大川には渡さない。この本がなければ、秀実の話を聞きづらくなる。


「そうか。良かった。」 大川は、立ち上がって本を受け取ろうとする。が、葵は、大川から1歩引き下がる。

「私、飛騨さんに返すわ。」

葵は逃げる為に下の階段を確認する。

とっさに、大川が追いかけようと足に力を込めた。

カシャッ☆


軽いカメラ音がして、秀実が登場した。


「素晴らしい構図をありがとう。

それとも…告白の邪魔をした?」


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