ラノベ
いきなりの大川の提案を、葵は混乱して、まばたきをしながら聞いていた。
なに…いきなりどうしたのっ(;゜∇゜)
「そっ、それは、良いとは思うけれど、レポートは、まずいんじゃないかな?」
葵は、まばたきをしながら大川に言う。
いくら、二次小説は良いと言われたって、まんまの文章をコピペのコラ…って言うのは、しかられると思う。
第一、推理小説を箇条書きのレポートで発表されても…読者だって当惑するに違いない。
「そうか?」
しかし、大川は、自信があるようだ。
葵は、黒板に文字を書きなぐり、刑事に説明する昭和の刑事ドラマの大川を想像して、笑いが飛び出しそうで思わず息をのむ。
黙っている葵の様子を見て、大川は鞄から文庫本を取り出して静かに話始めた。
「確かに、俺は、ラノベは読まん。コミック一択だ。が、飛騨さんにラノベを貸してもらって研究した。」
大川は、少し自慢げに右手で軽くテーブルを叩いた。
「飛騨さんに?」
葵は、文芸部で、大川と同じクラスの飛騨秀実の事を思い出した。
彼女は、女子だけで集まったときに、大川を好きだと言っていた。
葵は、その時、降って湧いた恋ばなにドキドキした。
「体だけだけどね。」
秀実が、そう言うまでは…
秀実は、ボーイズラブ…通称BLが好きだった。
筋肉質の、いわゆるガチムチと言う奴が好きで、大川の体は、『仕事で作った体』と、言うところが好きらしかった。
そして、そんな秀実が大川に渡したのは、ホームズ風味の美男子ものだ。
「私も、見て良いかな。」
葵は、遠慮がちに大川に聞く。なんか、知らないが赤面してしまうのを感じる。
「勿論だ。」
大川は動じない。
「読んだ?」
「勿論だ。」
「面白かった?」
「………。勉強にはなった。」
大川は、少し混乱したように言葉を濁す。
葵は、本の題名を見る。
『ロンドン浪漫』
今時にしては短い題名が、物語の内容を、ページを開かざる者から守っているような、そんな背徳感を葵に与える。
どきどきどき……。
耳元で、自分の激しい動機が聞こえてくる。
腐女子と、自ら公言する秀実のターゲットの目の前で、秀実お勧めの本を開くのは、なんだか緊張する。
「暑いか?」
大川は、葵の顔が赤いのに気がついて、窓を閉め、クーラーをつけるために立ち上がった。
葵は、大川の目を盗むように表紙を少しだけ開く。
カラーイラストがある。
スーツ姿の美形勢揃いと、探偵のツーショット。
普通のイラストに、葵はホットしながら、失望した。