大川くん
「大川くんもね。」
葵は、大川に笑いかける。
大川は、身長180センチの長身で、肉付きがよい。
肉と言っても、贅肉ではなく、筋肉の方だ。
郷土資料部と言うより、外見で決めるなら、柔道やレスリング部に居そうな雰囲気の男である。
大川は、葵が拭いたテーブルに鞄を静かに置いて資料を取り出した。
「調べたいものが沢山あるんだ。文化祭も近いし。」
大川は、口数少なくそう言った。
大川と葵は、2年ではあるがクラスは違う。
1年の時には、色々混乱して、あまり活動できなかったが、大川は黙々とレポートを作っていた。
「何か、発掘されたの?」
葵は興味深そうに大川に聞く。
大川は、大きなマスクでも隠しきれない笑顔を浮かべて葵を見る。
「あの人気スペシャルで信州の土器が取り上げられたんだ!うちのblogも検索に引っ掛かるかもしれないから、早めにアップしたいんだ。」
大川はヤル気満々だ。
嬉しそうな大川を見ていると、激しい郷土愛を感じる。そして、真逆の奈穂子のやる気のなさを思い出す。
「凄いよね。大川くんは。村おこしに力を入れてて、感心するよ。」
葵は、しみじみとそう言った。
大川は、同級生の女の子に誉められて、照れ臭そうにする。
「村おこしなら、木曽さんところだって、頑張ってるじゃないか。
奈穂子さん、小説書くんだろ?」
「えっ(°∇°;)」
葵は、42歳の自分の叔母を奈穂子さん、呼ばわりされたのと、小説の事が知れわたっている事に驚いた。
「オヤジに聞いたんだ。なんか、商店街の会議でも、一際、ヤル気満々だったって。」
大川は、なぜか嬉しそうだ。
その様子を見ながら、葵は、大川が同じ商店街の八百屋の息子だった事を思い出した。
「ヤル気満々…では、ないよ。」
葵は、ブツブツと文句ばかりの奈穂子を思い出して暗くなる。
そう、まだ、意味不明の活動報告を書いただけだ。
「明智小五郎で村おこしにするんだってな。」
実直な大川の、期待のこもる台詞が痛い。
「うーん…でも、何も進んでないみたいだよ。勢いで発言して、困ってるみたいだもの。」
葵は、奈穂子を思って暗くなる。
なんだか、行き当たりばったりな感じで、仕上がらず、後で、皆に責められないか心配だ。
「やっぱ、小説部分が問題なのか?」
大川、何故か、この話題に食いついてくる。
「うーん。たぶん。」
なにもかも、とは言えずに、葵は曖昧に言葉を濁した。
「やっぱ、挿し絵は奈穂子さんが書くんだよな?」
大川は問いただすように圧をかけて葵に聞いた。
「わかんないわ。そこまで知らないもん。」
正確には、関わりたくない。が、正直な気持ちだ。
「困ってるんだな。」
「多分ね。」
何か、激しく心配されて、葵は、少し鬱陶しくなる。そんなに心配なら、同じ商店街の住人なんだから、手伝えばいいのだ。
「俺、小説書こうかな?」
「はあ?( ̄O ̄;」
葵は、自分の気持ちが駄々漏れしてないか、心配になる。
「ねえ、大川くん、小説なんて書けるの?」
葵は、驚いて大川を見た。
文芸部と図書館を一緒に利用し、文化祭の協力の話とかが出ても、小説なんて書けないと断っていた大川なのだ。
それに、正直、彼の文章は箇条書きである。
が、大川は、何故か自信満々でやる気に満ちている。
「大丈夫だ。二次作だから、元の作品がある。
俺は、レポートは書き慣れているから、あんな風に短く分かりやすく書くのは得意だ。」
大川は、自分に語りかけるように話してから、戦隊ヒーローのエンディングのようにゆっくりと頷いた。
「えっ…レポートって。それは、ちょっと、違うかも。」
葵は、謎のやる気を見せる大川を驚異に思いながら呟いた。