マスク
窓を開けると、10m先に隣の幼馴染みが笑ってる……古いの少女漫画のテンプレだけど、マジで、こんなシュチュ…あるなんて!
「ごめん、まってて。」
ガラッと、窓を閉め、カーテン閉めて、葵はパジャマの胸元に手をかける。
ボタンは無い(°∇°;)
襟を押さえて、部屋を見る。
奈穂子のパーカーを見つけて被る。
次、鏡をのぞき、ドライヤーをかける。
もうっ…髪、ぐちゃぐちゃだしっ。
葵は泣きそうだが、大川には分からないレベルである。
次に、バックからリップを取り出して唇に塗る。
学校帰りに、秀実とコンビニで買ったピーチピンクのリップクリーム。
それは、本当に淡い色ではあるが、マスク生活で口を出さなくなった現在、少女らしい華やかさを顔に添える………
マスク?
えっ…(°∇°;)
マジ、素顔全開、見られた( ;∀;)
葵は、リップをした唇を新しいマスクで隠す。
そして、少し、緊張しながら窓を開ける。
大川は、葵を見つめて少し、言葉を失って見つめてから、
「そんなに、寒かったか?」
と、聞いてくる。
葵は首を横にふる。
それから、慌ててパーカーのフードを頭からはずす。
「寒くは無いよ…。」
むしろ、熱いです…
葵は、体が恥ずかしさで血行が良くなるのを感じる。
「じゃあ、感染防止?でも、今は、マスクを外してもいいんじゃないか。
耳、痛いだろ?」
大川は、呆れたように葵を見る。
近いと言っても、10mは離れているし、2021年、秋に入って感染は激減していた。
マスクをはずして、話ても、大丈夫だと大川は思う。
が、葵は、少しうつむいて首を横にふる。
それから、決意したように顔をあげて、責めるようにこうきいた。
「大川くんは、マスクを外しても恥ずかしくないの?」
はあ?(°∇°;)
そう聞かれて、大川も不安になる。
そう言えば、クラスの女子もそんな話をしていた気がする。
「…おかしいか?」
大川は、顎の辺りをさわりながら葵に聞いた。
葵は、首をふって否定する。
その様子を見ながら、大川も思案する。
思ったより、声が辺りに通る。
これでは、近所に会話が丸聞こえだ。
少し困って、それから、近くにあったスマホを手にする。
打ち込み終えると、葵のスマホが鳴る。
( ̄ー ̄)これならどうだ?
大川からのメッセージだ。
そして、すぐに、大川の部屋の電気が消えた。
( ̄ー ̄)木曽も電気を消せよ、綺麗な月だぜ。
言われて、電気を消すと柔らかな月の光が辺りをつつむ。
窓から乗り出すと、家に挟まれた夜空から月が見えた。
「綺麗……。」
思わず呟いて、月明かりにぼんやり浮かぶ大川に笑いかける。
( ̄ー ̄)これで、恥ずかしくないだろ?
マスク、外しなよ。
大川のコメントに、肩を軽くすくめて、諦めたようにマスクを外す。
良く分からない高揚感が葵を包む。
そして、解放感。
う、まあ、そこそこ(^_^;)
( ̄ー ̄)で、木曽は、なにか小説書いた?
そうだった……。
葵は、急いで返信を打ち込む。
マスクの心配なんてしている場合じゃ……
あれ?これ、使えるんじゃないかしら?
葵は、流れ星のようにイメージが頭を流れて行くのを感じた。
マスクを外す背徳感。
そして、解放感。
世間から、その姿を隠し、いくつもの仮面を持つ男と同じ気持ちを、現在、共感しているのだと、葵は思った。
古くさい話だって、皆にウケないって思ったけど…案外、私たちが一番、20面相に近いのかもしれない。
葵は、月明かりに昭和の怪人を見た気がした。




