穂高
その日、文芸部と郷土資料部の緊急合同集会があった。
それは忙しなく、そして、校長参戦の影響で、両部活史上かつてないほどの緊張で図書館を包んでいた。
文芸部の顧問、乗鞍彩乃先生が、緊張しながら話をする。
「ですから、今年の文化祭は郷土資料部と消防団との合同になり、テレビ局の取材が入ります。我が校の誇りとなるよう、皆さんには頑張って貰いたいと思います。」
なんか、大きな話になってきたなぁ…
葵はノートに話をまとめ始めた。
話の始まりは秀実が青年団のおじさん達に明智小五郎の話をしたことから始まる。
団長のお父さんは、少年探偵団のファンだった。
団長がバーベキューのはなしをすると、団長のお父さんが食いついた。
で、町の中をドラマのように飛び回りたかったと昔話を始め、同級生の偉いおじさん達と盛り上がり、そこに、前々からパルクールを従っていた穂高が食いつく。
何やら、外国のパルクールの動画を見せながら、町おこしに20面相の扮装で町を飛び回ろう…と、そんな話になる。
で、シナリオを文化部が、宝物を郷土資料部が用意することになった。
青年団に参加していた郷土資料部の先輩で、郷土資料館の館長が、自作の火炎土器のレプリカを差し出して来たのだ。
「火炎土器なんて、20面相が盗んだりするかしら?」
シナリオ担当の葵は嫌な予感に包まれた。
秀実とおじさん達の夢の構成によると、ドローン撮影あり、変身シーンあり、数々の商店街でのステマCMありの大スペクタクルだ。
大川くんのお父さん…20面相に栗のイガを投げる役とか書いてある…
ダメだこりゃ…
と、昭和のコメディで落ちが出そうな、欲張りセットである。
20面相は、乱歩が使いたいけど、著作権の関係で使えなかったルパンの設定で、アジア系フランス人なんだそうだ。
アジア系フランス人…確かに、地元の人が20面相じゃ、おかしいけど、でも、フランス人にしなくても良いじゃない。
葵は、フランス人の表現を考える。
大概、挨拶をフランス語にしたりして表現するんだけれど、「ボンジュール、マドマーゼル。」なんて言わせたところで、ちょっとキザな日本人にしか見えないのではないだろうか?
モヤモヤとノートにイタズラ書きをしていると肩を叩かれた。
「木曽さん。」
爽やかな男声に降る向くとそこには、イケメン3位の穂高が逆光に照らされて、少女漫画の王子のように笑っていた…。