9話 竿の勇者の成り上がり!?
『 王宮兵士、王宮メイド 派遣します!
兵士 ...月額570異世界ドル 力仕事できます!
メイド ...月額600異世界ドル 家事全般、得意です!
安いでしょ! 気になった人は是非お城まで!』
あの日の騒動から三日、一人のメイドを残し、元王への忠誠心を忘れず私に手懐けられる気配の無い兵士及びメイド諸君は前述の事が書かれたビラによりこの魔王城から姿を消した。
こうして最後に残っていた名誉のひとかけらまで吹き飛ばした私を王座に迎え、この国の王政は新しい時代の幕を開けたのだ。
「こ、こんなことが許されると思っているのか!貴様!」
なんだまだ居たのか......。
ジュリエルに馬乗りにされている元王が、怒りに顔を歪ませ魔王たる私に怒鳴りを上げた。
私に魔王になることを了承したのは貴方自身ではないか。
なのに今更何を言うか、このハゲチャビン。
それにしても...
私は元王を馬乗りにしているジュリエルへと視線を向けた。
私が魔王になるなり元王にこの仕打とは...さてはこいつ私同様クズだな?
「お父様!誰に向かって口を聞いてるんですか!失敬ですよ!」
「娘ぇ!?」
すると、どこからともなくそんな甲高い声が響いた。
彼女の名は王女。紫色のツインテールという王族には見えない風貌をしているが、元王の娘に当たる小動物だ。
まぁ遠目から見れば確かに小動物なのだが、並んでしまえば私の方が目線が低いと言うのもまた事実なのである。
まったく、事実は小説より奇なりなのだ。
彼女は最初こそ私に対し敵対している様子であったが、ジュリエルが耳元で二言三言、甘言をささやいただけでコロッと堕ちてくれた。
きっと箱入り娘だった彼女には刺激が欲しかったのだろう。
「魔王様はこの世界で唯一、あちらの世界と交信が出来る力を持っていて闇に飲まれる運命であるこの世界を救えるお方なんですよ!?ほ、ほら頭を下げて!」
王女はそう言うと、元王のうなじを踏みつけ、事もあろうかそのまま元王の頭を床に叩きつけたのだ。
(はて、あちらの...世界?)
そして、当然それは馬乗りになっているジュリエルにも影響があるわけで、突然身体が降下した彼女は「わひゃっ!?」と間抜けな声を発した。
しかし王女の奴...まだ多少の恥じらいが見られるが薄皮をぺりぺりと剥いで行けば、こちらもどうやらクズである。
何故、私の元にはこうクズばかり集まるのか。
クズとクズは引かれ合うのか?
「む、娘よ何故そのような事を...あれは極悪人じゃぞ!?」
私はわちゃわちゃしている親子を尻目に、玉座を立ち王室後方のバルコニーへと続く扉に足を向けた。
扉を抜ければ、正面にバルコニー、左手に元王の寝室、右手に王女の寝室と言った具合である。
「いい天気だ───。」
私はバルコニーの欄干に手を置き、ふとそんな声を漏らした。
思えば、勢いで物凄い事をしでかしてしまった。
まぁ、悪いのは全て”それ”とジュリエルなのだが。
まさか今現在、日夜問わず魔王軍と戦っている兵士達も帰ったら城が征服されてるとは思うまい。
(一応酷い事をしたっていう自覚はあるんだよ?)
『なに?ここまでしちゃったら世界征服とか目指しちゃうの君は?』
私は天高き王城のバルコニーから、ゴミのような人...いや、美しき首都の町並みを眺めた。
(それも、悪くは無いのかもなぁ...。)
─次回─ アリシアちゃん世界進出!?
1異世界ドル=1円 これで君も一つ賢くなったね!