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便所から始まる性剣の伝説  作者: てるる
序章、下水管篇
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8話 本物 ① !?

 一方その頃、魔王城(本物)では...。


 長身と、美しい赤色を放つ髪が目を引く華麗かれいな私の前に下っ端の部下が五人程。

 皆揃いも揃って顔を床に擦り付け、私に謝罪の言葉を述べた。

 こう思ってしまうのは良くないが、少し面白い状況だ。


「この度は本当にすみませんでした、シルベリア様。」

「我が主の姿を使っての今回の愚行に関しては言葉もございません。ですがどうかお許しを...。」


 そう、私の名は”魔王軍四天王”シルベリア・マギラス。

 下っ端の部下は私の管轄かんかつだけでもごまんと居るが、私には目の前の五人の中で一人だけ顔を知る者が居た。

 奴は下っ端でありながら、变化へんげの魔法に類まれなる才能を有しており、たちまち他人になりすましてはしょうもない悪事を働くと言う問題児であった。

 どうやら今回も彼女が魔法を使って私の姿に化け、戦場とは離れた人間界の街にて恐喝をしていたと言う事らしい。

 しかし、私には彼女らを責める事は出来なかった。


「しかし、こんな事をしてしまったのも全てはかねてより申しています通り私達下っ端の深刻な食糧難のせいでございまして...。」 

「本当に金も食料も無いんです。いくら下っ端と言えど基本的人権は尊重されるべきだと思います。」


 これは何も下っ端達に限った問題では無い。

 当初はたかが人類如きに魔族が遅れを取る事は無いと思われていたのだが、武力で敵わない分彼らは知恵を絞っていた為、魔王軍はたちまち食糧難に見舞われた。 

 その後も魔王軍は進行を進める度に奴らの卑劣愚劣ひれつぐれつな策へとはまって行き、その結果が現在のそれはブラックな魔王軍を形作ったのだ。

 そして、それは当然我々上層部の者より(まぁ私は上層部の中でも上層部”四天王”であるのだが)下っ端達の方が深刻な訳で... 


「その件については私も分かっているつもりだ。今回も重ねて魔王様にご報告を...」 


だが、私がそう言ったその瞬間、問題児の彼女の眉がピクリと動いた。


「魔王様に報告...?無礼を承知の上で言わせて頂きますが、私達が最初にそれを進言してどれ程経ったでしょか?一月?いえ、そろそろ二月が経過しますね。この二月の間何も変化へんかが無かったと言うのにシルベリア様はそれでもバカの一つ覚えで『魔王様に報告』の一点張り。そろそろ一度ご自身で問題と向き合って見てはどうでしょうか?」

「え?」


 ば、バカの一つ覚え...!? 

 まさかこんな下っ端がこんなに堂々と”魔王軍四天王”であるこの私に意義を申し立てるとは...!!!

 それも顔を床に擦り付けたままに!


「本当に無礼な奴だ!自分の立場をわきまえろ!私は”魔王軍四天王”でお前は私の部下であり、その中でも下っ端!経験の浅いお前達は上の指示に従い、そこから経験を得てやがて出来た部下に指示を出すのだ!社会の基本原理の一つだぞ!」


 私はつい声を荒げた。

 だが、それによって私が非難されるいわれはない。

 私は正しい事を言っている筈だからだ。

 そして、部下に正しい道を示すのもまた、上に立つ者の務めだ。

 しかし、しかし何なんだ?...この小骨が引っかかったような言い知れぬ感覚は...。


「言わせて貰いますが、私はそう言ったくだらない上下関係に固執した旧式の考え方がそもそもの原因だと思うんです。戦闘力では圧倒的に勝っている筈なのに魔王軍が日に日に貧しくなって行くのは彼らの奇想天外な策の数々に翻弄ほんろうされているからですよね?それが分かっているにも関わらずシルベリア様を筆頭に軍の上層部は旧式の考え方を捨てようとしない。少しは人間を見習って下さい。これ以上被害を増やすおつもりですか?毎日昼夜問わず粉骨砕身努めているのに結局私達下っ端は捨て石扱いなんですか?」


 わ、私を筆頭に!?人間を見習え...だと!?

 しかし...いや、そんな筈は無い。

 それは私のプライドが許さない!


「粉骨砕身努めているだと?今お前達がここに居るのはお前達が非行に走ったのが原因だろ!自分を棚に上げてでかい口を叩くな!」

「私達が非行に走ってしまったのも上層部の怠慢たいまんが原因ですよね?シルベリア様こそ自分を棚に上げて筋違いな事を言わないで下さい。しかもそれ、今の話と関係無いですけど?何で話をずらすんですか?」


 た、怠慢!?

 何なんだこの小癪こしゃくな下っ端は!私は”魔王軍四天王だぞ”!

 いい加減憤慨しそうだ。 


「......ッ!」


 お、おかしい!言葉が出ない!?

 まさか、この”魔王軍四天王”のこの私が...論破!?

 土下座をした下っ端の部下に...論破!?

 しかし、そんな事は私のプライドが...


 だが、やはり私には彼女の言葉が正論に聞こえてしまう...。

 そのはっきりと反論出来ない感じが私を憤慨ふんがいさせるのだ。


「き、貴様!ぶっ殺すぞッ!!!」




「コホンッ...もう良い、顔を上げろ。」


 私は一つ咳払いをすると、彼女らにそう言った。


「そもそも、たかが非行に走った位では四天王の元に下っ端が呼ばれるような事は無い。私がわざわざお前達をここへ呼んだのはお前達を圧倒したと言う女について聞きたかったからだ。」


 下っ端とは言え彼女達も魔族、ただの人間の一般人が五対一だったにも関わらず彼女達を打ち負かしたと言うのは少し気になる。


「ヒッ、嫌な事思い出させないで下さい!」

「あれは私達のトラウマなんです!」

「うむ、だからこそ聞きたいのだが?」


 トラウマとは言っても、自分から恐喝して反撃されたでは自業自得ではないか。 

 まぁこれにりてバカな事からは足を洗ってくれれば良いのだが。


「そう...ですね...では、あれは忘れもしない3日前の事...」


 すると、下っ端の内の一人が神妙な面持ちで重々しく口を開いた。


「私は首都郊外の喫茶店へ訪れました。

 ───コホンッ『ハーイ、ポール!』」

「『ハッハッハ、久し振りだなぁデイビット!元気してたか?』」

「『あだぼうよ!そっちこそ元気そうで何よりじゃあないか!』」


 ...?

 私の頭の中に一度ひとたび『?』が渦巻いた。


「『ヘイマスター、俺とこいつにストレート!それと燻製肉の”良い所”を頼むぜっ!』」

「『...なぁポール、”良い所”ってどんな所だ?』」

「『そりゃあお前、アメリカのマンハッタンさ!』」

「『マンハッタンか!そりゃあ良い所だぜ!ガッハッハ!』」


 それ喫茶店じゃなくて酒場の間違いだろ。

 後、ポールとデイビット誰だ。


 ......と言うか、それ以前に


「そんな意味不明な寸劇はいい!早く真実を包み隠さず言わんか!」

「す、すみません。」

「すいませんした...。」


 私が声を荒げると、ポールとデイビット役の二人が下を向き悄気しょげげる。


「はい、私達を倒した奴は...その、黄金に輝く剣を使っていました。」

「しかし、ただの剣ではないんです。そう、あれは言うなれば剣の形をした性具おもちゃでした!最初はただの女だと思っていたのですが、それを何処からか取り出すと、私達は為す術も無く...」

「そう性具おもちゃ、言い得て妙ですね。」


 私の頭の中に今一度『?』が渦巻いた。

 はて、何と言ったか...そう、性具おもちゃ

 こいつらはまたしても私のことをたばかっているのだろうか?

 だとすれば、こいつらの身体が小刻みに震えているのが気掛かりだが。

 まさか本当に自らのトラウマを語っているとでも言うのか?

 いや、真実ならば意味不明過ぎる。やはり私をたばかっているに違いない。

 まったく、こいつらは”魔王軍四天王”をたかだかバイトリーダー程度にしか思っていないのだ。


「そうか、ではその女自体に何か特徴は無かったか?それと、嘘は身を滅ぼすぞ?」

「女自体に...ですか。そうですね、一言で言えば物凄く変態でした。」

「私なんて胸を揉まれましたよ。それも二回も...。」


 なるほど、分からん。微塵も分からん。

 しかし、黄金の剣を持つ女と言うのなら、私に一つ思い当たる節がある。

 まさか...このタイミングで勇者が現れたと言うのか?

 だとすれば今後の戦況に大きく関わるのやも知れん。


 ......いや、勇者って変態なのか?


 下っ端を圧倒した謎の剣使い、一体何者なんだ...?


 

 バタムッ!


「シルベリア様...」


 その時、扉が開き私の腹心の手下が姿を現した。

 名を”Mr.シャンパーニ”と言う。

 年齢43歳、元軍の諜報部員であり、5年前に私に忠誠を誓った。

 私はそんな彼と初めて顔を合わせた時の事を思い出す───。



◇◇◇



『私の夢は口の中を”たららららら”っとされる事でございます。』


 まだ良家の娘であると言うだけであり、四天王になれるだけの力を有していなかった私に対し、片膝を付き頭を深々と下げ、彼はそう言ったのだ。

 そして、その言葉の真意への理解に苦しんでいた私に、彼はまるで細長い円柱状の物を握るような形をした自分の右手を見せ、おもむろにそれを高速で上下に運動させたのだ。

 どうやら彼は、その運動の中に見えた”残像”に注目して欲しい様であった。 


『私は日常的に目にするこの動作に、いつしか強くそして偏執的な憧れを抱くようになりました。私はこの”残像”を我が口腔こうくうにて感じたいのでございます。』


 よく考えれば意味不明だが、私は彼の言葉をなんとなくで理解し、『まさかな...』と思いつつ彼に巻き舌のやり方を伝授したのだ。

 そしてその日から三日後の晩の事であった。

 私が人にものを教える事の難しさを痛感すると同時に、彼は本当に巻き舌を出来るようになるのだろうか?と言う不安や『巻き舌を会得えとくしたとしてそれは彼の求める”残像”なのだろうか』と言う疑問に頭を巡らせていたその時...


 彼の口から”たららららら”と言う音色が奏でられた。

 彼の舌が生み出す”残像”が見事なまでの”たららららら”を演奏していたのだ。


 私はそれを確かに自分の耳と心で感じ、深く感動した。

 私が魔王軍四天王を志してから初めての成功体験だったのだ。

 私は莞爾かんじに笑いながら、彼の顔を見やった。

 彼は泣いていた───。


『分からないのです...突然、突然涙が溢れて来たのです。止めようと思っても止まらないのです。30年ぶりの涙なのです...。これは私の望んでいた”残像”だ。これは私の求めていた”たららららら”なのでございます!』


 つられて私の目にも涙が浮かぶ。


『貴方は私の憧れた”残像”を理解していた。そして、事もあろうにそれを私に諦めず懸命にお教えしてくださった。私は貴方に忠誠を誓う...。』



◇◇◇



 彼が何故、そのような願望を抱いたのかという事を含め、彼の素性には謎が多い。

 様々な憶測や噂も耳にする。

 だが、私はあの時の彼の涙を知っている。彼の日々の忠実な働きを知っている。

 今、私がここに居られる事の裏には、少なからず彼の働きがある。

 だから私は、何を言われようとも一生彼を心から信頼しようと固く決意したのだ。


「その剣使いの女ついて新しい情報が入りました。」

「何だ?Mr.シャンパーニ。」


 そんな彼の言う事は何よりも信用に値する。

 少なくとも下っ端のカス共なんかよりずっとだ。


「その...自らを”巨根の魔王”と称し、王城を乗っ取ったとの事でございます。」


 え? 何やってんの勇者。

 頭おかしいんちゃうか?


言い忘れてたけど、この世界にアメリカもマンハッタンも存在しないぜ! 

じゃあ何で彼女達は知ってたのかって?そりゃあ異世界7不思議の一つさ!

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