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便所から始まる性剣の伝説  作者: てるる
第二章 大海原篇
74/75

74話 すぐ隣にあった、全てがまるで違う話

─── 6月24日(??:??)

    アリシア視点




 黒くて、ただひたすら暗かった。

 地に足がついている感覚も無く、水に沈む感覚でもない。

 暗闇の中に存在する私……


「あなた、ここから出たいの?」

「……?」


 そこには『神様』が居た。

 姿はハッキリとは見えないけど、身に纏うそのオーラたるや、それはきっと神様に違いあるまい。


「自分の身に何が起きたのか、憶えていないの?」

「私の……身に…」


 憶えていない訳ではなかった。

 チーズ・ヴァーガーを追ってナルソシ・アスナイ本部教会へ突入した私は……自分の死の間際に私と漆畑君との精神を入れ替え、そうして私は自分自身の深層意識へと飲まれて行った………

 自分の中で自分の中に内在する漆畑出の記憶を閲覧した。

 けど、知らぬ間に私はこの暗闇に惑っていた。


「ひょっとして……私は死んだの?」


 チーズ・ヴァーガーに負けて……?

 表へ出て行った漆畑君がもし奴の呼ぶ災厄に負けてしまったのなら、その中の私諸共もろとも死んでしまう。


「どうしてそれを私に聞くの?」

「どうしてって……神様でしょ?知らない?」


 もしやこの神様は死亡した私を死後の楽園へ導く存在的なアレではないだろうか。

 あー、なんか絶対それだわ。

 そういう展開だわー。


「私を神と呼称するのは勝手ですけれど、知らないものは知らないわ。」

「………え?」

「それに、その答えがあなたに関係あるの?今こうして暗闇の中でどうする事も出来ないあなたに。」

「関係って……そりゃあ関係はあるでしょ。私の身体だし。」


 この神は妙に淡々とした冷ややかな口調で私の言葉に突っ掛かって来た。

 ひょっとして神ではないだろうか。


「例えあなたの身体でも、今なにもすることの出来ないあなたの精神がここにある。何をどうしたって、あなたの意思は漆畑出に届かない。何も出来ないあなたに未来を考える権利があるの?」

「は?」

 

 なんだろう、ちょっとムカついてきた。

 もともと漆畑君を表へ出して厄災に標的を見失わせるという策は私の案だ。

 その結果で今があるのだから、私がその先を思考して何がイケないと言うのか。


「あなたは『自分の作戦の結果なのだから良いだろ』と言いたいのか知れないけれど、本当にそれはあなたの招いたことなのかしら。」

「……じゃあ、それ以外の何なの?」

「異世界歴2000年4月21日、あなたは学園のトイレにて漆畑出と邂逅かいこうした。以来、漆畑出(性剣)があなたの武器となった。今回も、結局はその武器を使ったというだけであり、その武器とは他人のこと。」


 こいつの言いたい事が分からないぞ。

 私が死んだのかどうかを聞かれただけでプッツンしちゃったのか?

 沸点謎すぎ。


「はー。じゃそれでいいですけど。」

「つまり、チーズ・ヴァーガーに勝利したのか、敗北したのか、どちらにせよその原因は”漆畑出が生えた”という因果に他ならない。漆畑出との邂逅はあなたにとっては偶然であり予期せぬ出来事。その因果を呼ぶ為にあなが何をした訳でもない。」


 こいつは私をただの能無しと言いたいのだろうか。

 なんかこいつ嫌だわ。

 要するに、この暗闇の空間で私と、このうざったい神様とが二人っきり。

 早く出ていきたいわ。こんな所。


「あなたはこの2ヶ月余り、漆畑出というチ◯コによって未来を決定づけられて来た。チ◯コによって弄ばれていた存在。」

「なんでそうなる……」

「私は事実を言っているだけ。そもそも、あなたは何故チーズ・ヴァーガーを”悪”と断じられたのかしら。」

「…………。」

「チーズ・ヴァーガーもまた自分の未来を”右の首”という他人に全てゆだねていた。自分から逃げ、右の首の(未来を仕組む、あるいは未観測の事実を書き換える)能力の創る理想の未来に縋り続け、右の首の生み出す理想郷の為に自分は正しい行いをしているのだと、その過程に幸福を感じていた。」


 なんなんだよこいつ。

 知ったか振ってベラ回しやがって。

 なんなんだよ、こいつ……


「あなたと同じなのでは?あなたは何故、自分と同じチーズ・ヴァーガーを勝手に”悪”と決めつけられたのかしら。ひょっとしてあなた自身も悪なのでは?悪が悪と言うのだからチーズ・ヴァーガーはむしろ正義なのかしら。」

「もう勝手に言ってろよ……」


「そして、もっと言えば……あなたが漆畑出に支配されていたという結果は、それ以前のあなたの行動に原因がある。現在の前に過去があるのだから、それは必然。更には、それは親からの遺伝など自分ではどうしようもない事が原因なのかもしれない。」


 うるさい……

 もういいよ、聞きたくない。


「あなたはチーズ・ヴァーガーとの闘争の中で、チーズ・ヴァーガーが発現させた”ヴァーガー・キング”の力の矛先にならなかった。それはあなたが人間ではないから。人間ではないあなたは、新たな右の首の能力の標的にはならなかった。」


「自分の出生という自分では左右する事の出来ない事実の為に、あなたは前へ進み、あの場で死なずに済んだ。」


「それはあなた自身の力ではないはず。あなた自身の力ではないのだから、例えチーズ・ヴァーガーを倒したのだとしてもそれは誇ることの出来る事柄なの?」


 チーズ・ヴァーガーの能力は世界を意のままに操る。

 それを止めて何が悪い。

 誇れない事だとしても何が悪い。


「あなたも、チーズ・ヴァーガーも、生まれた時から自分の力など無い存在。生まれた時から何かの奴隷だった。自分でも気付かないうちから奴隷だった。」

「うるさい……」


 そもそもコイツは誰なんだ。

 ここはどこなんだ。

 もう私に話すなよ。一人でやってればいいだろ。

 私は死んだのか、それとも勝ったのか。

 全く分からない。

 もしかしたら、本当に私は4月からただのチ◯コの奴隷だったのだろうか。


 コイツの言葉に何一つ納得した訳じゃないけど、自分の中で自分の過去の価値が薄れていく感じがする。

 コイツ……そんなこと言って何が楽しいんだよ。


「そう、あなたは初めからチ◯コに弄ばれるだけの存在。ただのそれだけの女。」


 もう黙ってくれよ……

 私はただ頑張っただけだ。

 でも、その『頑張った』も、結局は遺伝という大昔から連なる因果の結果でしかなくて………『頑張れない』遺伝を持つ人だったなら、あの場で頑張れなかったのかもしれない。

 自分ではどうする事も出来ない因果の結果というなら、それは私自身の頑張りじゃないのか?

 じゃあ私自身って?


 それになんだよ、私が『人間じゃない』って。

 私はずっと自分を人間だと思って来たし、そんなこと知らない……


「そして、最初の質問に戻るけれど……」

「ああああああ!黙れ!うるさい!」

「私が教えることの出来るたった一つ、唯一の事柄。」

「黙れ!うるせぇええええ──────ッッッ!」


 もう嫌だ。嫌になった。

 頼むから黙ってくれ。消えてくれ。

 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。


「あなたは、8:08分の時点で……既に死んでいるのよ。」

「黙れよぉおお!!!」

「だから、何をどうしたってあなたの意思は漆畑出に届かない。」



「うあああああああああああああ!!!」




───異世界歴2000年4月21日(8:21)




 私の名前は”アリシア・ヴァラクーダ”。 

 由緒正しい聖リヴォル・ヴァレッジ学園1-4のクラス委員長。

 そんな私の朝はとにかく多忙だ。


 朝一番に教室に着くのはもちろんの事、服の身だしなみの様に教室も綺麗に掃除されていなくてはならない。

 それは今日一日の皆のモチベーションに関わる問題だ。

 クラス委員長の役目である。


 それが終われば、今度は担任教師の手伝い。

 毎日私たちの為に夜遅くまで授業の準備をして下さっているのだ。

 これくらいは当然。

 今日もとある資料を職員室に居る理事まで届けるよう頼まれている。



 ───しかし、今の私はいつも以上に……かなり焦っていた。


「あの、あなたちょっと良いかしら…?」


 私は咄嗟に、廊下をすれ違った”金髪の女子生徒”に声を掛けた。

 背丈は私よりも小柄で猫背ぎみ。

 あまり真面目そうな生徒ではなさそうだけれど……


「悪いんですけど、この資料を職員室に届けてくれるかしら?」

「え、え......あっ、はい。」


 本当は自分への頼まれ事を人に投げるなんてしたくはないけど、その女子生徒に私は資料を持たせ、自分は”あの場所”目掛けて駆け出した。

 どうして今日に限ってそんな事をしてしまうのか。

 それは…先程から感じている、『尿意でも便意でもない下腹部の違和感』の為。

 そのせいで、どうしても今すぐに私はトイレへ行きたかったのだ。

 

 う~もう我慢できないっ!

 こんな時だからと言って廊下を走ったりはしないけど、もう本っ当に限界!

 気になって仕方がない!



「なぁなぁお前昨日何回シ◯った?」

「0ー!オ◯禁中だもんねー!」

「嘘つけゼッテー出来る訳ねーだろお前が!」

「じゃあチ◯コ見せて確認させてやろうか!」

「チ◯コ見てどーやって抜いたか確認すんだよ!」


 廊下の先、男子生徒の集まりだ。

 私、下ネタ……って言うの?本当に大嫌い。

 チ◯コとか、どうして口に出して言えるのかしら。

 いつもなら注意したいけど、で、でも今は……

 う~ん、でもやっぱり……



「ちょっと男子ぃ!!!」

「はーい、さーせんしたー!」

「『ちょっと男子』って、本当に言う奴居たんだな!」


 もう、こんな事している場合じゃないっていうのに。

 私はそれ以上その男子生徒達に何を言うでもなく、急ぎ足でトイレまで向かい、個室の扉を開くともう限界!

 便座の上で私は下着を下ろした。



 ───そして、我が目を疑った。


「え、ちょっと……嘘…」


 その目に写ったモノがどうしても理解出来なかった。

 自分の身体に何が起こっているの?

 こ、この下腹部の違和感の正体は……コレだったの?


「信じられない……い、イヤ…」


 こ、これって……

 どうしよう、なんて説明すれば良いんだろう。

 これって、現実……なんだよね?

 嘘でしょ。


 実際に見た事は無いし、全然詳しくなんかないんだけど………

 私の陰部よりやや上に”生えている”その物体は、そう……『男性器』だった。

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