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便所から始まる性剣の伝説  作者: てるる
第一章 浄水場篇
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68話 ゴーアヘッド・シンドローム ④!?

 ───静謐な小部屋だった。

 私は真っ白いベッドの上に居て、何故それが理解出来るのか自分でも分からないが、そこは”病室”なのだろう。

 質素な部屋の中には、奥に見えるテレビと変哲の無い棚……それだけだった。

 棚の中は、シロイルカのフィギュアと東方常秀の可動フィギュアが1つずつ、マトリョーシカが2つ、漫画本が43冊、森見登美彦の小説が4冊、エロ本12冊、綿を詰めた手袋を紐で縛った工作物が1つとカマキリの飼育カゴが1つ。

 全て私の物だろうか。


 窓からは高層階なのか都会の喧騒が窺えたが、その銀色の建築物の集合は私の知る世界ではない事が容易に分かる。

 そう、それはまるで”異世界”の様で………


 ………ん?

 私、いまテレビって言った?

 あの黒い四角い物体を……?

 な、何だ……思えば私はシロイルカや森見登美彦なんて人も全然知らない。


 夢……なのだろう。

 まるで現実と錯覚してしまえる程、精巧な夢。

 もし、いま私が夢を見ているのだとしたら、私はいつ眠りへ落ちたのだろう。


 思い出して来た………そうだ、もう行かなくては。


 ナルソシ・アスナイの教会、チーズ・ヴァーガーとの決着。

 テクノブレイクへ近づいた私は……あの後どうなっているんだ……

 この夢から覚めた時、私はどうなっている?


 夢を見ているのなら、この光景にも理解が出来る。

 見たことの無い物の名前が分かってしまうのも自分の夢だと思えば混沌も必然だ。

 しかしいささか精巧過ぎる。

 この小説だって、表紙をめくれば文字があるし、その文字も意味のある文章になっている。

 


 ───そもそも、私とは誰のことだ?

 私がいま”自分”と認識している人間は本当に”私”なのか?

 私は私だ。私の名はアリシア・バァラクーダ。

 そう。だとすれば……


 あなたは誰?


 私は窓に映る”自分”を見つめた。

 部屋や窓の外の光景と同様、窓に映る”自分”にもまた、私は見覚えが無かった。

 しかし……


「後は、頼んだぞ。」


 私は、窓に映る”彼”へそう言った。

 直後、”コンコン”とこの部屋の扉を叩くノック音が聞こえる。

 そして、私の思考も現実のように鮮明となっていき……


「あれは(窓に映る)お前に言ってるんだぜ。お前の番だ。…さぁ、行けよ。」


 そう言うと、自分の中からもう一人の自分が分かれていく感覚に襲われる。

 自分ではない、もう一人の自分?


「そうだ、もう行かなくては。」


 私が言った訳じゃない。

 窓に映る”彼”だけが言った。

 徐々に鮮明に、”私”と窓に映る”彼”が分離する。

 そして、窓の外の”彼”だけが、窓の外の世界を泳ぐように光の差す先のもっと”上”へ上って行った───。





─── チーズ・ヴァーガー視点

    6月24日(8:08)




 よもやこの状況で自慰に勤しむ者が居たとはな。

 やはり人間とは不可解で不合理な生物だと改めて痛感するよ。

 しかし、不可解さにも彼女なりの意味があったのかとも思ったが、身動きが消えて少し経っている事からも、やはりアリシア・バァラクーダは既に死んだ。

 右の首の、仕組まれた運命によって始末されたのだ。


 私は一階広間への階段をゆっくり焦ることなく降りる。

 ま、いちいち私が死んでいることを確認しなきゃならないという点に置いては、七面倒臭くて有効な手だったとも言えるのかな。

 いっそ瓦礫に押しつぶされて身体がグチャグチャに潰れてくれでもしたら、私は死を確認する手間さえかけなかったのだからなぁ。


 これで私に纏わりつく全ての因縁は途絶えた。

 後はただ安穏と、いつも通りにイマヌエル・カントの到来へ身を委ねるだけだ。

 私を取り囲む暗雲は今、完全に晴らされたのだ……!

 もう私を付け狙う者は誰も居ないし、それをすることさえ叶わない。

 全ては私の決定づける『運命』だからだ。



「………ッ?」


 ”カタン”……と、何か小さな物が床へ落ちる音が反響した。

 広間の長椅子。

 アリシア・バァラクーダの横たわる方向からだ。

 死後硬直か……いま一瞬、アリシア・バァラクーダの腕が僅かに動いた気がしたが。


 階段からアリシア・バァラクーダの身体へ駆け寄った私は、長椅子の下へ落ちていた”ピンク色の小瓶”を不意に蹴飛ばした。

 何だ?見覚えがある……

 これは……鬼の子の持っていた”小瓶”だ。

 しかし中身が空だ。コレは”空き瓶”だ。

 さっき床へ落ちた物はこれだ。

 なぜアリシア・バァラクーダの懐にコレが……?


 何か、何か妙だ。



「………クソアマ。全部僕に押し付けやがったな……」


 耳を疑った。 

 私が”小瓶”を拾い上げようとかがんだ時、その耳元で彼女が口を開いた。


「しかしよくやった。信じられない……どうやら捕らえたぜ。再び、『射程内』に。」


 なぜ生きている……?

 なぜ私の前でこいつが”動けている”のだ……

 いいや、こいつは『誰』なんだ……ッ!?


「…ッ!」


 その時、アリシア・バァラクーダの剣先が私の首元に迫っていた───。

太陽の呪い②



そもそも何故、異世界では人類繁栄の歴史の中で一度も『科学』というものが発展しなかったのか。

魔法で全てが解決されるから、と思うのが必然だが、しかし数千年もの間それが一度も発生しなかったというのはやはり不可解だ。

そして、何故『科学』への道を開かんとしたロガリア・ヴァーガーをエルフ族は始末したのか。

それも太陽の存在の公表を目前に。

エルフは『太陽』や『科学』の存在を既に知っているのか、ならば何故それを隠蔽するのか。


それらは2000年もの間、隠匿され続けた『謎』である。

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