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便所から始まる性剣の伝説  作者: てるる
第一章 浄水場篇
60/75

60話 異乳・爆!?

位置関係


王城大階段 上り9分下り6分

王城 → アーヴァンレッジ通り 片道8分

王都 → プロモセラ区 徒歩3時間半

王都 → 顔山街角 徒歩4時間

「『厄災』って、さっき言ったよね……」


 71... 70... 69...


 彼から小瓶を取り戻した鬼は私へ言った。


「『厄災』って、あたし知ってる。悪いことって意味だよね。」

「そうだが。だが、それがどうだと言うんだね?」

「お前は自分にバッカリ良いことを呼ばせて、他の皆んなに悪いことを呼ばせる嫌なヤツだ!」

「だからそうだと言っているだろう。そうだ、私は悪い奴だ。」


 ま、まずい……こいつに”質問”をされてはいけない。

 私が居るのは渦めく災厄の最中。

 こいつに”質問”をされてしまえば、私の口からは否応なしに真実が語られてしまう。

 それが鬼の魔力ッ!


 30... 29... 28...


 だ、だが……今はもう違う。

 彼が小瓶を奪って飛び去ったという『厄災』の因果は、今現在の私への『厄災』の因果だ。

 もう鬼は私の口から真実を語らせたりはしない。

 奴は自分にとって”都合の良い真実”を引き出し、私を巨悪の偶像とするだろう。

 そして、世界の絶対悪を打ち倒す自分という存在に打ちひしがれる。

 子供の幼稚な妄想だが、その通りになってしまう……ッ!


「やっぱり……お前は悪人!あたしはお前なんかがこの街に居るのを絶対許さないんだから!」

「君と言う一個人の良い悪いとは関係無く、私はここに居るし、これからも悪人で居続ける。」


 それに私が悪人だと?

 私は自分をそんな風に思ったことは一度も無いぞ。


 25... 24... 23...


 右の首が世界規模にもたらす運命は、その全ては人類の繁栄の為だ。

 この世界には、何故”世界は明るいのか”を知っている者など居ない。

 神という空虚な偶像に支配された人々の心へ、私の指し示す真実という剛利の刃が光を与えるだろう。

 少しばかり人が犠牲になったからと言って、裁く神は居ないし、私はそれを悪だとは思わない。

 しかし、奴は初めて私の姿を見た時の”首が二つある”という恐怖的な印象で私を『悪』と決めつけ、裁くつもりだ。


 18... 17... 16...



「そう、”アリシア・バァラクーダ”も『厄災』で始末するつもりだ。」



 語った言葉に付け加えるように、私はその名を口にした。

 あまりに唐突だったが、まさかここでその名を口にするとは。


「お、お前────ッ!お姉ちゃんに手を出すなッッッ!」


 鬼は稚拙な恫喝を吠え立てた。

 どうなっている。

 既に、鬼とアリシア・バァラクーダが繋がっていたと言うのか。

 それに、鬼の動揺振り。

 かなり親密な間柄と見られるぞ……


 そう、私がアリシア・バァラクーダに目を付けている事が、奴にとって私を攻撃する動機になる程の。



「彼女は完全世界『イマヌエル・カント』への到達を妨げる危険分子であり、因縁を断ち切るという意味でもやはり始末しなくてはならない。」


 10... 9... 8...


 このままやり取りが続けば、奴の中で私の存在が絶対悪として確立していく。

 奴は場が最大限に”温まった”状況で私に攻撃をするつもりだろう。

 それがいつなのか全く予期出来ない。

 まだ、なのか………


 5... 4... 3...



「ところで。」


 鬼の次の言葉を遮断するように言葉を繋げた。

 その時、私に一つの『幸運』が衝突した。


「上空のオオトバネムシは南から現れいで、北を目指している。だが、彼らが進むのは空に限った話じゃないぞ。この街の地下にだってオオトバネムシはいるんだ。彼らの生命力には見習うべきものがある。そう、例えば地下に張り巡らされている水道管なんかにも南から北へ進むオオトバネムシは居るのだよ。」


 2... 1... 0(ゼロ)


 次に爆発音があった。

 振り絞った私の魔法だ。

 それは鬼の間近の街路に深さ30cmくらいの穴を空けるに留まったが、しかし確実に顔を覗かせていた。

 水道管の一部。

 そこにも少しばかりだが穴が空き、瞬間、北を目指すオオトバネムシ達は大きく翼を羽ばたかせた。



 チャンスだ。

 ここで鬼とはケリを付けてやる。

 『鬼は私に敗北する』───その未来へ世界を収束させてやる。

 右の首の全エネルギーをその一点へ集中し、他の運命へ作用しているエネルギーは極限まですり減らす。


「うわああぁぁぁ────!!!」


 突如として水道管から姿を現したオオトバネムシの大群の進行方向に鬼が居た。

 オオトバネムシは進行方向上の鬼へ猛烈に突進し、その内の数百匹は鬼の皮膚に針を突き立てた。

 オオトバネムシの針が人体に引き起こす弊害は、痛み、痙攣、嘔吐、下痢など多岐に渡る。

 そして、右の首によって収束する世界では、お前は魔法でオオトバネムシを退ける事が出来ない。

 その発想すら思い浮かばないからだ。

 そのまま何百という刺し傷で身体のコントロールを失い、死にはせずとも私の驚異ではなくなる。

  

 人は何故、虫の姿形を異形なモノとして恐れるのか。

 それは大昔、人がまだ大自然の一部として狩猟などを行っていた時代だ。

 自然との境が曖昧な簡素な住居では、その中へ生まれたばかりの赤子を死に至らしめる毒虫が入ってくるのも避けられぬ話だろう。

 多くの赤子を毒虫に殺された人々は、いつしか本能として虫という存在を恐れるようになったのだ。

 要するに、子供にとって虫というのは生物学的な天敵なのだよ。


「お姉ちゃんを始末されたくなくば、そのまま行き倒れているんだな。私に敵意を向けさえしなければ君は変わらず『幸運』なんだ。」


 鬼とアリシア・バァラクーダが既に出会っていた事は妙だし胸騒ぎがするのだが、しかし、鬼を伝って彼女に会う訳には行かない。

 決して、自分からアクションを起こしてはイケない。

 それを行った時が、私の終わる時だと、何故か直感している。



 さぁ帰ろう。

 まだ食器の片付けを済ませていなかったんだ。

 鬼とはもう二度と関わる事は無い……そうキツく戒めておくとしようか。


 そして、今度こそ教会へ踵を返す私だったが……

 背後。

 燦然と輝く蒼白いオーラが迫っていた───。


「ぐぶおおッ!」


 容赦の無い圧力が背中を直撃する。

 この光……今、ほんの数分前にも見た憶えがあるぞ……

 まただ……

 すんでのところで面倒事が収まりそうだという時に、この光は私の『均衡』を破壊する……


 腹の内部が突き破って街路へほとばしっただろうか。

 吐血が喉の乾きを催す。

 足は立っていたが、生きている実感は粉微塵に吹き飛ばされた。

 黒ずむ視界。

 見えている景色は上下左右へ膨張していき、視界には本質的に奥行きなど無い事が体験として理解出来る。

 別荘地の石垣に手を付き足を引きずる様子は無様だろう。



「私のBバストサイズは上からG、C、A。今、あなたの背後を襲ったのはAの躍動だ。死にはしないだろう。」


 気掛かりではあったんだ。

 妙だ、とも思っていた。

 街路の隅で体育座りをしていた”妙な膨らみの女”だ。

 逃走経路が無くなったんで呆けているのだと思っていたが……


「どこで知ったのか知りませんけどね、アリシア様を始末する気なら私にも戦う動機がある。」


 こ、こいつもアリシア・バァラクーダと繋がっていたのか!?

 どうして私を追おうとするんだ。

 こんな不気味な存在に……近づきさえしなければ、それが『幸福』だと……言うのに…………ッ!

乱れた運命の向かう先はどこか───

自らを過信し、破れる者。

己を犠牲に進歩を与える者。

幸運が巡り、袋小路へ追い詰められる者。

狂乱と化すアーヴァンレッジ通りに終焉は訪れるのか……

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