6話 魔王君臨 ① !?
───土踏まずとは、人間の足の裏にある半円状にへこんだ部分である。
しかし、実際には土踏まずと呼ばれる場所に何かがあるわけではない。
つまり”無いものがある”と言うことだ。
ならば、土踏まず=虚数であるとも言えるのではないだろうか...?
(虚数を”実際には存在しない数”という使い方をすると自称数学者達が雁首並べて『感覚的には存在しないと捉えられがちだが...うんぬんかんぬん』などと言い出すが、私はそんな声を断固無視する。死ねよ。)
話は少し逸れるが、私は常々『人間として究極の形とは何であるか』という事柄について思いを馳せる。
多くの場合、山の如く聳え立つチ○コを持つ者こそ究極であると考えられているが、それでは所詮、男の中での究極でしかない。
確かに男を象徴するものがチ○コであることは周知の事実と言えよう。
そして、そんなチ○コが長い者こそ究極と考えてしまう気持ちもごく自然である。
しかし、それでは世界一の名器を持つ女と究極度において拮抗してしまうではないか。
人間に男と女の二つが存在するのが不変であるなら、それを超越するのが究極なのだと私は考えるのだがどうだろうか...?
そこで私は考える。
前述にもある通り、土踏まず=虚数であるのなら、それはもう一つ別の事を意味する。
そう、それはつまり...
”ま○こ=虚数”
もう一度言おう。
”ま○こ=虚数”だ。
そして、虚数を現実に具現化させたならば、そこには同時に二つの物が存在出来るという事になる。
この発想に辿り着いた時、私は強く打ち震えた事を今でも鮮明に覚えている。
では、上記の発想を踏まえ『人間として究極の形とは何であるか』と言う問に対する私なりの答えを述べよう。
『基本的に女の身体であり、その世界一の名器には山の如く聳え立つち○こが差し込まれている』...これが現時点での私の中の、性別をも超越した人間の究極だ。
もちろん、言うまでもないがチ○コも自分の身体の一部である。
これが本当に究極であるなら、他人のチ○コであるにせよ、この形をとることで新たな生命が誕生することにも頷ける。
だが、『チ○コとマ○コが一人の人間に同時に存在しているなど現実味が無い』と反論する者も居ることだろう。
しかし、言わせてもらうが究極とは理想論であるからこそロマンがあるのだと私は思う。
そして、理論上最もこれに近いとされる”二形”の属性を手に入れた私は、この世界で最も究極に近い人間と言えるのではないだろうか?
では、これからは何故『二形では究極に届かないのか』と言う事について深堀りして行く。
それは紀元前、ソクラテスがポイオティア連邦との大会戦デリオーンの戦いで重装歩兵として従軍したことに端を発っし...
(略)
きっと意味不明だと思われたことだろう。
それに加え、文字数稼ぎだと言われれば返す言葉も無いが安心して貰いたい。
これまでのアレコレは全て忘れてくれて構わない。
今、私が考えなければいけない事は別にある。
究極の形だとか、そんな事はどうだって良いのである。
今考えるべき事...それは、何故私がこんな所に居るのかと言う事だ。
”こんな所”と言うのはこの国の王城のことである......。
◇◇◇
タペストリやら何処ぞのお偉方様と思しき肖像画の飾られた石造りの壁に、真紅の絨毯の敷かれた、いかにも城っぽい部屋。
周囲には数名の有力貴族の御方達と近衛兵的な人達がおり、正面にはそれは立派な玉座が目を惹いた。
そして、そこには国王というよりはおっさんと呼ぶ方が相応しい白髪交じりの小太りな中年男が乗っかっていた。
これあれでしょ?謁見の間ってやつ。
私の住む街から王城のある首都までは然程離れていない。
馬車に1時間程揺られれば簡単に行き来が出来、帰ろうと思えば自力で帰ることが出来る距離だ。
いわゆる郊外と言うやつである。
だが、とは言っても瞬きの一瞬で移動出来るわけはない。
恐らく何者かの魔法で私はこの場所に転移されたのだろう。
しかし、誰の目からもドクズな人生を送って来た私に天下の国王様が何用だろうか。
いや、そう言えば関係のありそうな事がつい数日前にあったか......。
「いやはや、あぁ...待っていたよアリシア君、まずは此度の活躍見事であった。今日はその褒美を私が直々に与えようと思っている。」
すると王が、これまた平日の昼下がりに公園のベンチで酒を煽っているおっさんさながらの声色で私にそう言った。
だが、言っている内容はとても素晴らしいものだ。
『褒美』...そう、『褒美』と言ったのだ。
風体や喋り方から色眼鏡で見てしまいがちだが、この王は物事を平等に判断出来る誇り高き御方だ。
そんな事を言われてしまえば嫌でも口角が上がってしまうではないか。
これも”それ”が生えてくれたが故の僥倖と言えよう。
来し方16年、無限とも思えた薄暗くジメジメとした私の人生に、やっと光が差し込んだのだ!
「君が倒したのはシルベリア・マギラスと言う正真正銘魔王軍の四天王だ。残念ながら現場に向かわせた兵がすんでのところで奴を取り逃がしてしまったが、君の実力が奴よりも圧倒的に勝っているのは紛れもない事実!」
いや、あれ本当に四天王だったのかよ。
なーにが万能チート種族だ。笑わせんな。
しかし、王と言うものはもっと丁寧な物言いをするものなのでは...?
何?『君』って。もっと『貴殿』とかあるじゃん。
まぁ、でもそんな事は些細な問題だ。
今気になるのは王の言う褒美が何なのかと言う事だ。
「あ、あうあうあー...。」
おっと、興奮か緊張のせいか...上手く口が回らず変な事を言ってしまった。
「あの...」
「緊張しておるのか?まぁいいだろう。驚くが良い、褒美はなんと高位の勲章だ!」
私の目から輝きが消え失せ、口角もずり下がった。
は?要らね。
喧嘩売ってんのかこのおやじは?
「どうじゃ、驚いただろ!我が国の軍に入れば一生優遇してもらえるぞ!」
私、茫然自失。
いや軍って......私まだ16なんですけど。
なるほど、要は物で釣って軍という名の国の奴隷にすると。
一つ訂正しよう。このヒゲは誇り高き御方などでは決して無く、自分に権威があることを知りながら恩を仇で返す、およそこの世界に存在すべきでは無い生き物だ。
「む、何故そんなに不満そうな顔をする?これはとても名誉なことなのだぞ?」
私の心情が顔に出ていたのか、王はそう言った。
「まぁ不満なんてある訳ないか。ガハハハ!」
「あ、あの...えっと...」
「なに?もっと大きい声で言ってくれ、よく聞こえないであろう。」
そしてコミュ症への理解も無いと言う。
もう死ね!地獄で死んだ婆ちゃんにわびろ(?)!
しかし、相手は腐っても一国の王。私だって自国の王の顔ぐらい知っている。
あわよくば一生遊んで暮らせるだけの金をぶん取ってやりたいが、そんなお人に物申せる程の精神力は残念ながら私には無い。
もう貰える物は貰って、とっととトンズラするか...。
「まぁ良い。では、早速だが、勲章の授与を...っと、勲章が手元に無いな。あーっと、おいジュリエル!勲章を持って来い!」
「...え?私ですか!?」
段取りが悪い!
この部屋には現在、戦争の影響もあってか人がかなり少なく、大臣?らしき人や菩薩顔の兵士諸君に頼む訳にも行かなかったのか、部屋の隅の方に居たジュリエルと言う名の少女に矛先が向いた。
長い黒髪に赤い瞳、控え目なひらひらの付いた漆黒の服を身に纏い、いかにも『あらあら』とか『〜でしたら』みたいな令嬢系の喋り方をしそうな顔付の少女である。
しかし、そんな彼女の初セリフは何とも間の抜けたものだった。
「客人を待たせる訳にはいかない、早くしろ!」
「は、はい...。」
「っと、すまない、少し時間が掛かりそうだ、その間に...アリシア君この書類にサインをしてくれたまえ。」
そう言ったヒゲは、私に数枚の紙を差し出した。
ガン無視する訳にも行かないこの状況。
だが、私がその紙切れに向けた眼球を右へ向ければ向ける程に、その目は血走って行った......。
怒髪天を突くのが分かった。
紙くずの中心が裂け、両端に強くしわが寄る。
きっと私がそれの両端を強く握り締めているからだろう。
要約すれば、そこには私が誇り高き軍(笑)に入隊すると言う旨の事が書かれていた。
「ほれっ、早くサインを。」
しまった!一手遅れた!
こいつはマジだ、本気で私の身も心も我が手に収めようとしている。
私がまだ子供であってもこいつは気にしない。
王の立場でありながら、誇りもプライドも無いその生き方......称賛に値する。
上から目線で、大人気なく汚い手段に出る事も厭わないプライド0の生き方は実に私好みだ。
お陰で退路が絶たれてしまった訳だ。
残る道は、この身をヒゲに捧げるか、あるいは王に反旗を翻すか...。
「どうした、入隊すれば一生お金には困らないぞ。それとも...王の言うことが聞けんのか?」
だが、幾ら考えたところで結局私はこの場からの逃亡を選択するのだろう。
今までもそうだ、いつも私は嫌な事からは取りあえず後先を考えずに逃げてきた。
そう、あれは忘れもしない13歳の夏。
人間関係やその他諸々に悩まされていた私は学園の中等部から初めて逃亡した。
小さな身体で鉄柵を飛び越え、崖をよじ登り、やっと帰ってきた我が家から聞こえる怒号。
それらを全て乗り越えた先にあった安息の時...それすなわちアルカディア。
今も、あの時と何も変わらない...。
私は紙くずを持った手をそのままに、片足を一歩引いた。
しかしその時...悪魔が囁いた
『お前はそれで良いのか?人生大逆転するんじゃなかったのか?』
(で、でも...。)
『僕には相手の要件が何であれ、王城に呼ばれているこの状況はチャンスにしか見えないけど?』
(そ、そんな事言うなら疑問形じゃなくてこれから私のやるべき事を簡潔に言ってみやがれ!能無しの肉棒風情が粋がりやがって。)
『ならば乗っ取れ!この城を、この国を!魔王軍四天王を倒した今の僕達なら出来る筈だッ!』
城を乗っ取る...それは普通に考えてとてもいけない事だ。
だが、”それ”のその言葉には妙な説得力があった。
それにより切り開かれる未来はきっと今とは全く別の暮らしだろう。
それが良いものであるのか、そうでないのか。今までは悪いのか、そうでないのか。そんな事は関係無い。私はその時、今とは違う幾多の未来に確かな憧れを覚えた。
王城を乗っ取って当然と思う精神力......もしかしたら出来るかもしれない、何故だかそう思えた。
身体の内から漲る”何か”を感じた。
そうだ...
それでは覚悟の一句。
─クソならば 乗っ取ってしまおう この城を─ 芭蕉
ソクラテス(異世界ver)
約2000年前のアリシアと同国出身の海軍軍人および主戦論者である。
武術評論家の父を持ち、その影響か僅か14にして愛する祖国の為、自ら争いに身を投じる。
父と同じく魔法の素質は皆無であったが、剣術、武術に関しては並外れた才能を有していた。
ソクラテスの生きた時代は現代と違い人間界に数々の小国が点在しており(後に統一される)同種間での争いが絶えない時代であった為、彼は生涯28の戦争を経験する。
その中で彼が残した手記には、彼が常日頃から戦友達に『幼少期に足を滑らせ溜池に落ち、真冬だったから寒かった』と話ていたと言う事が書かれており、また新たな争いに赴く時には意気込みとして『今回はあの時のリベンジだ』と語っていたと言う。
また、彼の死没した(享年31)地から発見された手記には『あれは自分なりのボケだった...』と記されており、ソクラテスは何を言っても戦友達を笑わせることの出来ない自分にコンプレックスを抱いていたのでは?との推察がなされている。
なお、彼が生涯、哲学を語ることは無かった。