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便所から始まる性剣の伝説  作者: てるる
第一章 浄水場篇
57/75

57話 イマヌエル・カント(永遠平和のために)③!?

─── 6月24日(7:32分)




「はぁ、はぁ………」


 日々、雑多な取材現場を往復する僕にとっても、やはりこの大階段は馬鹿げている。

 何故、昔の王族達は権威の象徴の為だけにこのような大階段を設立してしまったのか。

 足が悲鳴を上げるとはこのことだ。


 僕の名前はヴァバロア。

 別に憶えなくたって良い。

 今に特大のゴシップを証明して、その大暴露記事の記者として名を知らしめるんだからな。

 その時に僕の名を嫌でも憶えさせてやるさ。


 僕の務める『レ・ジ・オ』という会社は、今年で創刊45周年を迎える『イビショナル・デ・デバ』を抱える新聞社だ。

 『イビショナル・デ・デバ』は今現在、最も購読者の多い新聞メディアと言える。

 そんなビッグメディアに、明日にでも創刊以来最大とも言える僕のとくダネが掲載されるだろう。

 世は震撼する。

 その為なら、僕は大階段を駆ける苦痛など意に介さないし、下を跋扈ばっこする謎の大群なんかに気もそぞろになったりしない。


 そう言えば………さっきまでおびただしい地獄絵図だったのに、もう過ぎ去ったのか?

 大階段から見下ろす城下町の景色に、先程までの黒々とした”塊”は雲散霧消を遂げていた。




 僕は、魔族間との有事に対し王族達は少し静か過ぎないか?と、そう考えている。

 戦場では今も軍が戦っているのだろうが、その大本の司令塔である王族の声明はここ2ヶ月程何もないのだ。

 僕は前々からその事に対して不信感を募らせていたが、編集部の連中は『王族を疑うなど恥を知れ』と聞かない。

 だが、全てを疑い、真実を報道する精神がなければメディアとしての存在意義は無い。

 僕は僕の中の仮説を今から証明してみせる。



「………?」


 その時、王城から貴族街を結ぶを大階段を僕とは逆方向へ駆け下りる金髪の少女が僕のかたわらを横切った。

 目を引いたのは、その圧倒的な駆け下りるスピードだった。

 魔法で加速させている、って感じじゃない。

 もっとこう、リアリティのあるスピードだった。

 彼女の特性なのだろうか。

 とにかく妙な超スピードだった。

 それ故、話し掛けるタイミングは無かったのだが……


 自慢じゃないけど、僕は(特に女性の)貴族に関しては見識がある。

 だが、今の少女には見覚えが無かった。

 この場所は基本的には貴族や王族らしか通る事の無い場所だ。

 何か罰則がある訳じゃないが、一般人が来る様な所じゃない。

 それに、あの少女は装いからしても貴族ではないだろう。

 貴族はネグリジェ姿のまま外に出たりしないんだからな。


 何か妙だな。

 方角的には、彼女は王城から出て来た……とも思える。

 やはり、王城には僕らに公表されていない事実が潜んでいる!

 そうに違いない!

 暴いてやるぞ……この僕が!



◇◇◇



 その頃には僕の肉体は既に限界を迎えていた。

 真実への扉を目前にし、半ば息も絶え絶えであった。

 だが、良い。

 紛れもない『真実』を報道する為、裏で七転八倒する。

 それが志し高きレ・ジ・オ社に務める僕の生き様なんだからな。


 しかし、妙に閑散とした薄暗い城門だ。

 この扉をくぐれば、そこは王侯貴族が丁々発止を交わす王城内。

 ここに、本当に人間が居るのか?

 そう疑わざるを得ない門構えだ。

 


「だ、誰か…居ますかあーー………」


 怖じ気付く僕の声に反応は無く、遠大な広間にこだました。

 それと同時だった。

 階段先の二階の扉の一つが『カチャ』と音を立て、中から黒髪の少女が顔を覗かせたのだ。

 彼女は視界の端に私を捉えると、咄嗟に室内に逃げおおせる。


 あの子、知っているぞ。

 あれはクリメニア家の令嬢じゃないか!

 (僕、あの子の剥ぎコラ持ってるぞ!)

 お貴族様界隈に精通する者なら今どき知らない奴は居ない!

 歳は15で話題に上がり始めたのはつい最近だが、それでも分不相応な胸部は我々の心を鷲掴み、赤い瞳、前髪パッツン黒髪ストレートは紳士に対し極めて汎用性の高い”性癖”だ!

 彼女というコンテンツが生み出す”業界”の利益は年間1000万異世界ドル!

 



 ───それはとある商人の娘の物語であった。

 彼女の人生は平凡だった。

 だが、不幸ではなかった。

 18の冬。恋にうつつを抜かすことも無く学園生活を終え自然に家業を継ぐ決意をした彼女は、その日、偶然にも、とある貴族家のスキャンダルを目撃してしまう。

 彼女は玉響たまゆらに湧いたその衝動を理解出来ずにいた。

 あの時、家の脇の路地にて淫行に及んでいた貴族が誰なのか………それを何故だか無性に追い求める自分。

 知って、それを世間に公表する……そう言う考えではなかった。

 真実を得て自分はどうしたいのか、それが自身でさえ定かでないのだから彼女は当惑したのだ。

 だが、彼女の行動は日に日にエスカレートした。

 その貴族の名を”クリメニア家”とまで突き止めた彼女は、その娘の学園の登下校時刻までをも無秩序に湧き出す衝動のまま調べ上げ、遂にはクリメニア家令嬢のストーカーと化した。

 その令嬢の名は、ジュリエル・クリメニア(14歳)。

 彼女は言葉巧みに令嬢を操り、令嬢の邸宅へ正式な許可のもと入り込んだ。

 その後、彼女が令嬢をどうしたか……それは同士ならば容易に察しのつくところだろう。


 それが物語に置ける『序』の部分であり、その後は主に彼女が親族のスキャンダルをネタにジュリエル・クリメニアと絡み合う様が主軸となる。

 僕の脳に激しく焼き付いているのは、二巻の中の一幕。

 遂に自らの願望を理解し、淫乱の化身と化した彼女がジュリエル・クリメニアの秘部に可憐な花々を活けるシーンだろうか。

 ジュリエル・クリメニアの淫靡な姿と美しき薔薇の花の対比。

 淫らな行為としてではなく、飽くまで『生け花』としての美しい描写に僕の腰は熱を帯びた。

 それが、ジュリエル・クリメニアを主軸とした初の同人誌だ。

 原点にして頂点!

 初週売上13万部という数値が、彼女の人気ぶりを物語っているだろう。



 今!僕の心は商人の娘だ!

 僕は疲労など意に介さず、ジュリエル・クリメニアが顔を覗かせた二階の扉を蹴破る。


「ひっ……!」


 短い悲鳴と共に腰を抜かす彼女の姿が僕の目を釘付けにした。

 そうだ!それだ!普段は大人ぶるくせに少し大人の威勢を見せれば人生経験の浅さが露呈し、怯え、赤面する!その表情かおが好きなんだ。


「誰…っ!?」

「ジュリエル・クリメニア……だよ、ね?なんで…なの?」


 くっ、くそ!

 さっきオオトバネムシ共につんざかれたからだ!

 服が破れ、髪が乱れで格好がつかない!

 どうして重大な時に僕に何も味方してくれないんだ!


「いや、大丈夫…だよ。色々、聞きたいんだ。」


 ぬぉぼぉぉ────ッ!

 なぜ声帯が震えてしまうんだ!

 法律のもとや、レ・ジ・オ社の記者としても真っ当な行いをしている!

 そ、そうだ……ぼ、僕の憧れの人はこういう時どうするだろう?

 僕の憧れ……商人の娘なら、こんな時……


「いいや違う!ぼ、僕はレ・ジ・オ社の記者だ!この城、何だか随分妙だぞ!暴露する!そしてクリメニア家は落ちぶれるんだ!」


 そうだ。何が起こっているのか知らないが、この城では何かが起こっている!

 そして、何か分からんがジュリエル・クリメニアはその陰謀に加担している!

 記者として、弱みを利用して(あんたの秘部を)暴いてやる!


「………。」

「お、おぉ。よ、よく分かってるな。」

 

 やはり彼女も貴族の端くれ。

 話を理解する力に長けているな。

 この子、まだなんにも言ってないのに、パ、パンツを脱ぎだしたぞ!?

 僕の腰はまた一段と燃えた。



 だが、その時の僕は知らなかった。

 パンツを脱ぐと言うその行為が、彼女にとって『戦闘態勢』であったことに。

 事の顛末はあなた方の想像に任せるとしよう。

 僕は、最後の最後にレ・ジ・オの記者としての誇り(心)を取り戻したのか。

 何にせよ、全ては明日分かるだろう。

 明日、イビショナル・デ・デバに魔王による王城占拠を明るみとする記事が掲載されたのだとすれば、僕の安否や精神の所在もおのずと証明されるだろう。


 ───しかし、これは明日の話ではなく、『今日(6月24日)』の話なんだ。




「なんで、こんなクズがいきなり………?」

 

 ジュリエル・クリメニアは呟いた。

異世界暦2000年6月24日(晴れ)



6:21 アリシア、ワッちゃん起床


6:43 ワッちゃん王城から帰宅


6:48 恋バナ対決開始


7:00 チーズ・ヴァーガー起床


7:17 教会近くにワッちゃんが現れる


7:32 オオトバネムシが霧散する


7:34 アリシアが王城を出る


7:46 王城占拠が暴かれる 




8:08 アリシア死亡

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