49話 あの時、仕組まれた偶然!?
与えられた10秒間で、私だけが手を汚せば全てが終わる。
私の怒りも、世界の危機でさえ。
───。
「うげあああああ────ッ!!!」
気付けば返り血に染まる視界。
周囲に広がった血の絨毯にチーズ・ヴァーガーが崩れ落ちる。
致命傷となり得る場所を可能な限り切りつけた。
でも、まだ生きてる!10秒間じゃ息の根を止めるには短すぎる!
あと一撃!首の、同じ位置を切って抉り出す!
終わらせてやる!
あと一撃!それが出来るのは私だけだ!
「がはっ…… 流れは変わらない。それは確かな事だ…… あと一撃…私を殺してみるが良い……」
「とどめだッ!チーズ・ヴァーガ────!!!」
振り下ろされた凶刃が全てを終わらせる筈だった。
だけど、『流れは変わらない』。
刃は本当に中途半端なところで絶たれた。
圧倒的な”第三者”の力によって。
凶刃に倒れるチーズ・ヴァーガーの姿に、叫びに、また一つの事柄が助長される。
強く、そして理不尽に。
「君!何をやっているか分かっているのか!」
大人が子供を叱りつける声色が少しの恐れを孕んでいる。
そんな大喝だった。
大人の大きい手が、力強く私の腕を取り押さえ、封じた。
大通りの向こうから衛兵の部隊が押し寄せる。
つまり、抵抗は無意味だって事だ。
「そして、今の君の行動が”切っ掛け”だ。私を殺そうとする事……それが衛兵にとっての”切っ掛け”なのだ。」
その瞬間、首の骨に強い衝撃が走り、同時に意識の大半が何処かへ奪われていく感覚が襲った。
腕を掴んだ衛兵だろうか。他のもう一人の衛兵だろうか。
首の後ろを叩かれた……
意思とは無関係に、頭を支える力が消え、力なく垂れ下がる。
衛兵が、小さな少女にそんな手の荒い事を行うだろうか。
やるかも知れないけど、もっと簡単に押さつける事も出来る筈だ。
いや、違う。
そんな”やるかも知れない”を誘発させるのがチーズ・ヴァーガーの能力なんだ。
弱っていても、そう言う能力。
”切っ掛け”さえあれば、”助長”出来る。
衛兵にとって、人の生命に関わる事態は紛れもなく私を抑えようとする大きな”切っ掛け”だ。
イケない……
負けてしまう……
再停止までの30秒間。30秒後まで私は意識を保っていられるだろうか。
そもそも、時間までに鬼を仲間に出来なかったところから万全の状態ではなかった。
そして、チーズ・ヴァーガーに近づいても最後の一撃が叶わなかった。
全てが不完全燃焼だ。
そうだ、ずっと昔から私は一人じゃ何も出来なかった。
そんな私にいつも手を差し伸べてくれる人が居ただけ。
「アリシア…… お姉ちゃん……」
お姉ちゃんの名前が出できたのには自分でも驚いた。
しかし、奇妙な確信がある。
この因縁は恐らく、いつかお姉ちゃんへと受け継がれる。
世界が闇へ落ちようとしている時、お姉ちゃんが黙っている筈がない。
何故だか、そう思えた。
今のお姉ちゃんには頼れる部分なんて全然無いのに
自分の中にそう思わせる『部分』があった。
思えば、ずっと昔から私の中でお姉ちゃんはただのお姉ちゃんではなかった。
どうしようもなくなった時、最後に助けを求める人。
この世界に魔法では説明のつかない事象がある……その証拠である予言書。
それを渡した貴族の少女よりも、ずっと信頼している。
昔。ずっとずっと昔。私とお姉ちゃんは姉妹とかじゃなくて二人協力して巨大な目的に向かって行っていた……そんな気がする。
記憶と言えるほど鮮明じゃないけど、妄想と割り切れないほど確かなもの。
『目を開けて…… 貴女のお姉ちゃんを助けて……!貴女がここで負けてしまったら世界が!』
”少女”の縋る様な意志が聞こえる。
だけど、私の気持ちは違った。
私は頑張ったんだ。リリアと同じに、必死に頑張ってここまで来たんだ。
だから、いい加減私を助けてよ!
そして、夢物語のような一つの願望を抱き、私の意識は死んで行く様に途絶えた───。
「うぐっ……酷い傷だ。だが、これで良い。君が鬼の利用に成功していれば!私はこの傷以上に、ただでは済まなかっただろう……」
5年後───
「お姉ちゃん、この子はあたしの子だよ!」
「あたしの名前は”ヴラジリアン・ワックス”!みんなは私の事『ワッちゃん』って言ってるんだ」
「だからお姉ちゃん …… 『遊ぼ!』」
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大いなる謎
「ザ・クリエーション・ワールド」……それは5年前の出来事。
ただのそれだけであり、それが5年後の世界で如何なる偶然や厄災を齎すのか、それは誰にも分からない。
ただ一つ確かな事は、アリナ・バァラクーダ、そしてチーズ・ヴァーガーの身に起こった数々の不可解の連続。
それらがやがて一つの「流れ」としてうねりを上げ、何かへ発展していると言う事。
それは例えば、アリナ・バァラクーダの時を止める能力の正体であり、チーズ・ヴァーガーの右の首の起源であり、アリシア・バァラクーダの持つ性剣の起源でもある。
チーズ・ヴァーガーは如何にして時間停止を看破したのか、アリナ・バァラクーダは何故ポリプチコ区で目を覚ましたのか、その精神に宿る”少女”の正体は何者か、アリシア・バァラクーダの夢に時折見える別世界の光景とは、全ての発端とされる2000年前に世界に何が起こったのか───。
それらは「流れ」である。
そして、”特異点”と言われた異世界歴2000年に何を齎すのか。
次回 交差する謎を残し、時は再び異世界歴2000年へ───




