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便所から始まる性剣の伝説  作者: てるる
第一章 浄水場篇
46/75

46話 ザ・クリエーション・ワールド(機械仕掛けの奇跡)⑦!?

 一つ、気付いた事がある。

 少し前、ほんの一分半程前、私は目前に悶えるこの男からナイフの一撃を受けた。

 だが、ナイフが刺さったのは”肩”だったのだ。

 それが引っ掛かっていた。


 そして私は考えた。

 もし、相対するのがチーズ・ヴァーガーであったのなら、私はあの一瞬で既に致命傷を負っていただろう。

 先のチーズ・ヴァーガーとの闘争にはそんな緊迫感があった。

 それは何故か。

 そう、奴には”右の首”の力があったからだ。

 チーズヴァーガーだったなら、あのくらい右の首の力で意のままに軌道修正していただろう。

 

 つまり、この男の行動そのものにはチーズヴァーガーの意思は介在していない。

 男がチーズヴァーガーの刺客である可能性は高いけど、自分自身で操っている訳ではない。 

 きっと、右の首はまだ完全には復活していないんだ。




 しかし……となるとより一層に不気味だ。

 何故チーズヴァーガーはその段階で手先を差し向けるのだろう?

 私に何か得体の知れない能力がある事はチーズヴァーガーも知っている筈。

 それを承知の上で攻撃を仕掛けるくらいなら、完全な復活を待ってからゆっくり私を始末する方がよっぽど確実だ。

 

 11... 10... 9...


 ───今の首へのの一撃で男はかなりのダメージを負っている。

 このまま、何事もアクシデントが起きないのなら、きっと勝つのは私だろう。


 7... 6... 5...


 私はこわばる右手を支えながら、後退る。

 距離は取った。抵抗するすべもある。得体の知れない能力への疑念も植え付けてある。

 残り3秒...ッ!私は勝っている!


 2... 1...


 悲痛に顔を染めた男は、なおも私の方へゆっくりと迫り来る。

 したたる血をかえりみず。


 ...0




「キャ──────!!!」


「!?」

「!?」

『!?』


 再びの反撃のチャンスに安堵あんどしかけた、そんな私を甲高い女の悲鳴が襲う。

 後退り、教会入り口から身体半分出した私の背後……

 つまり外から。きっと教会の敷地の外だ。

 教会は近寄り難い瘴気をまとってはいるものの、周囲は邸宅の建ち並ぶ住宅街だ。

 人の一人くらいは直ぐそばを横切ってもおかしくはない。


 い、いや……そんな事より!

 悲鳴を上げた女性の視点から私の今の状況を俯瞰ふかんすれば、それはまるで……

 私が、教会関係者を刃物で刺したみたいじゃない……


 実際その通りの状況ではあるけど、でもそれは私の方が先に刃物で襲われたからであって。

 しかし、そんな弁解をするスキも無く、女性は逃げ出してしまった。

 まずい……通報をされる!このままじゃ衛兵を呼ばれてしまう!

 そうなったら私はどうなるってしまうんだ?

 時を停止すれば一時的には逃げられるだろう。

 だがそれは私の能力を世に明かすと言う事。

 それって多分、物凄くヤバい事なんじゃないかな……

 

 魔法で説明の付かない事象。

 簡単な、子供でも知っている法律として、衛兵の捜査から対象が逃げた場合に対する『逃走罪』と言うものがある。

 一般的には、犯罪に魔法が使用された場合、魔法を行使された地点から検出される”魔力の痕跡”から犯人を割り出し、それに準じた包囲網を敷くのが衛兵の動き方だ。

 しかし私の場合、そもそも魔法では無いのだから”魔力の痕跡”だなんて出る筈もない。

 もし、私が容疑者として衛兵に見つかり、目の前で姿を消したとしたなら……

 それが常識を覆す事案とされるか、ただの勘違いとして処理されるかなんて分かったものじゃない。

 

 ひょっとしたら、目の前の敵の事よりも、この場からただちに誰かが来る前に逃げる事の方が既に優先になっているのではないか?


「ッ!」


 私は意を決し、迫る男に踵を返す。が、その目に映ったのは僅か50m程先、教会へ続く直線の道程みちのりに浮かぶ鬼の両親の姿だった。

 まずい……ッ!男と衛兵と鬼!今、私に三つの危機が迫っている!


 でも良い。この状況で鬼の両親が帰ってきたなら、それは凄く良い!

 ふと湧いて出たそのポジティブ思考には私自身かなり驚いた。

 これにより、安全により確実に目の前の男を排除出来る!


 これから鬼の魔法で始末される男を気の毒には思うけど、何より今は自分の身を守らなくっちゃ。


 私は入り口からハミ出した身体を即座に引っ込め教会内部へ隠し、更に薄暗い教会を奥へ走った。

 幾列もの長椅子を越え、祭壇?の様な場所まで。

 そして急な方向転換を見せた私をされどおぼつかない足取りで追う男。

 少しでも引き付けるんだ。男と、そして鬼の両親を。


 今だ……


 静かな念に、世界は再び黒に染め上げられた───。

 必死に走らなくちゃ。

 もし、時が再始動した時点で鬼の魔法の射程圏内に留まっていたなら一体どんな目に遭うのか分からない。

 

『待って!』

 

 そんな私を引き止める、”少女”の声。


(なに?どうしたの?)

『男が持っていた本。それを奪った方が良いかも知れない。』

(え… いきなりそんな…) 

『男は目の前に居る!直ぐに出来るでしょ?』


 真っ暗闇の中で無茶を言う。

 でも、こんな危機的状況だからこそ、私は彼女の言葉に従った。

 今がどんな状況であるかなんて”少女”にも分かっている筈だ。

 一連の出来事の中で、私の中から状況を分析していたであろう彼女の言葉だからこそ信頼が置ける。


 男が首を刺されてでもその手から離そうとしなかった”本”。

 それは大きさ故に手を伸ばして直ぐに奪取する事が出来た。


 残り7秒。

 それで鬼の魔法の射程圏外へ逃れなくちゃ!

 逃走経路は全て祭壇から教会入口、街路と直線上で繋がっている。

 後はただ死力を尽くして走るだけだ!





 ───視界を覆う闇が晴れる。

 左右にはおごそかな邸宅が建ち並んでおり、不気味にそぼ降る小雨が肩の傷口に染みた。

 数10m程後ろにそびえる教会の中へ鬼の両親の姿が消えていくのが見える。 

 だが、その後で両親の怒鳴り声も、男の叫び声も聞こえてはこなかった。

 ただ、奇妙な静寂せいじゃくがあるだけだった。

 

 現場からただ一つこの手に持ってきた一冊の”本”。

 それが何なのか、と言うのは重要な事柄だが、今は一先ひとまずこの場所から離れた方が良い。

 衛兵が来る前に。


「……?」


 逃げる前に、ほんの少しだけ気になった事?がある。

 本当に、ほんのちょっとだけ。

 今、教会から視線を外した時。

 この私の居る直線の街路の中の脇道へ続く一つの角。

 そこに人影がある様な気がした。

 

 そりゃあ街の一部なんだから人が居たってちっとも不思議じゃないんだけど。

 だからほんの少しだけ気になっただけの事。

 一瞬の事だからどうせ見間違いなんだと思う。

 けど、その人影には頭が”二つ”あるように見えたの。─── 

現在公開可能な情報


魔法の痕跡


魔法を使用した際にその場に1日~3日程残る魔力の残骸。

それ自体を触る事は出来ず、また目視する事も出来ないが、基本的に想像出来るものなら魔力を媒介に何でも出来るのが魔法と言うもの。

それを感知する魔法もある。

その為、本質的には『対象が使用した魔力の残骸』と言うより、『使用された魔力の残骸(履歴)を見たい』という願いによる魔法が生み出した物と言った方が良いだろう。


検出された魔力の構成は人により様々であり。

異世界ではそれが地球での”指紋”の役割を果たす。

人間界では、起こりうる犯罪に備え、管理体制のある全ての人々の魔力の情報が衛兵に記録されている。


魔力情報を記録されているかが賃貸物件を借りる条件になったりもするらしい。

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