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便所から始まる性剣の伝説  作者: てるる
第一章 浄水場篇
44/75

44話 巣食うモノ ②!?

『鬼は今も、人間社会に寄生している』

 

 ───時を500年前に遡る。

 そこに、『鬼』の父と母と子の三人家族があった。

 父と母は共に幼少の頃の記憶に起因する、角を持たぬ人間への過度な敵対心を抱いており、その血を受けた子もまた潜在的に人間を敵視していた。

 そしてある時、一家は父の故郷であるコドス村を襲い、村民を角に秘める魔力で惨殺したと言う。

 そんな家族が居た。

 

 当時の『鬼』への人間界の意識は冷徹であった。

 無意識下。生まれ持った過剰な魔力により、時に気候や記憶までをも改ざんさせてしまう自分達と同じ人間である『鬼』を彼らは非常に恐れをなし、”異形なる畏怖の対象”として認識した。

 一度ひとたび人間界にて鬼が発見されれば、国はその一人の為に総力を上げた。

 確かに鬼は赤子のうちから強大な魔力を保有するが、しかしたった一人の為に国の総力を挙げられては勝ち目は無かった。

 鬼は一人残らず国により葬られた。(突然変異のため根絶は不可能だが)

 当然、それはその家族も例外ではなかった。




 時を同じくして、その頃、世間では『キョウゾネル』と呼ばれるカルト宗教団体が噂されていた。

 神は特定の一人ではなく万物に宿る、というのが団体の主な教えであり、1500年代近辺に彼らは急激に規模を拡大させていたのだ。

 だが、その思想はやがて人間界をあまねく震撼させる大事件へと発展する......

 それが如何なる事件だったか、それは本稿において然程さほど重要な事ではない。

 それを切っ掛けとし、キョウゾネルは激しく弾圧を受け信者の多くを失ったが、事件からキョウゾネルの意思に賛同する者もまた多く、事件後もキョウゾネルは十数年に渡り人間界にしぶとく根を張っていた。


 鬼の家族はそのキョウゾネルに目を付けていた。

 家族は人里から隔絶した暮らしを送っていたが、コドス村を襲うリスクを理解していた。

 国に追われる家族の隠れみのとして、キョウゾネルは選ばれたのだ。

 隠れ蓑として相応しい条件として、キョウゾネルは以下の点を持っていた。


 一つ、自分達を知る者が居ない狭いコミュニティであること

 一つ、特定の人としか関わらないコミュニティであること

 一つ、世間が積極的に関わろうとしないコミュニティであること

 


 長らく一定の信者数を維持していたキョウゾネルだが、その全体数は全盛期の一割にすら遠く及ばぬ現状であり、各支部毎の人数は数十名とかなり少数であった。

 その内の一つファコピダ支部に家族はある日、入信者として訪れた。

 そして、それよりキョウゾネル ファコピダ支部の形骸化けいがいかが始まった。 

 

 家族は無意識下でファコピダ支部に属す信者達を操った。

 決して広くはなかったが、建物内に理想の住処すみかを構築し、たまに訪れる本部や他支部からの来客も無意識に退けた。

 来客達は、ファコピダ支部を訪れた筈が気づけば全く別の場所におり、その記憶すらスッポリと抜けていた。

 果ては、ファコピダ支部の信者すら、キョウゾネルに心酔した心と過去を忘れ全く別の生活を始めた。

  

 そうして、鬼の家族は平穏な暮らしを手に入れた。

 時に角を隠し、外にも出た。

 その様な暮らしぶりを手にしたのはその家族だけでは無かっただろう。

 キョウゾネルの他支部にもまた、鬼により形骸化した支部があったのかも知れない。

 だが、それは唐突に終わりを告げる。

 事件から十数年後、事件を知らない世代が増えてきた頃、キョウゾネル代表の犯罪歴が発覚し、世間のキョウゾネルに対する視線が再び厳しいものとなり、遂にキョウゾネルの本格的な解体が始まったのだ。


 


 ───そうして、キョウゾネルの歴史と共に1500年代を生きた、人間に対し敵対心を持つ『鬼』の歴史もまた終わりを告げた......と、思われた。

 だがどうだろう、もしキョウゾネルを形骸化させた鬼の家族や、居たかも知れない他の鬼の家族らが揃って、再び人里離れた場所で数を増やすこともなく減らすこともなく細々と子孫を残して来たとしたら。

 あり得ない、とは切り捨てられない話では無いだろうか。

 そして約500年後、1980年......『ナルソシ・アスナイ』と呼ばれるカルト宗教団体が人間界を震撼させていた───。



○(数日前)



「そして私は遂に鬼の居所いどころを掴んだって訳よ!」

「へぇ...で、鬼は何処に住んでいたの?」


 リリアは今日もまた、わたしに我が知識を披露していた。

 『鬼』と言われる都市伝説的な存在についてリリアが追っていた時の話んなんだそう。


「それがねぇ......もう分からないんだよねぇ。」

「え、は!?」

「いやぁ、絶対にあの時の私は見つけた筈なんだけどさぁ......忘れちゃったんだよ。」

「そんなオチ酷い!」

「王都で、ナルソシ・アスナイの教会の何処かって言うのは分かるんだけど。ピンポイントで『何処?』って言われると......」


 なんだそれ...

 やっぱりこの人、頭がちょっと変なのかな。


「奴ら、人間に根絶やしにされた歴史をきっとどこかで知ってるのよね。だからちょっと近づかれただけ追っ払いやがる。ともかくね?鬼は真実を知った私の記憶を瞬時に消してしまうくらい凄いの!奴らを引き入れればきっとチーズ・ヴァーガーなんて雑魚も雑魚なのよッ!」



◇◇◇(現在 5月30日)



 ───考えてみるに、つまり、5日目にして私はやっと教会を訪れては退けられ...の無限ループからかろうじて脱したと言う訳らしい。

 何だよそれ、もう無茶苦茶だよ...

 『鬼』、ある意味ではチーズ・ヴァーガーよりも恐ろしい存在。

 でも、だからこそチーズ・ヴァーガー打倒に不可欠な存在なんだ!

 敵が最強なら、更に最強をぶつけてやる!


 私はふところから万年筆を取り出し、手のひらにナルソシ・アスナイ本部の場所を書き記す。


(で、困ったなぁ。鬼達に私が信用されないなら、チーズ・ヴァーガーを倒してくれるだけのメリットを提示しないとイケないよね...)


 自分の持つ全て、と言いたいところだけど私の持つ全てがそもそも小さすぎるし安すぎる。

 そんなのを貰って喜ぶ人なんているだろうか。

 かと言ってお金でどうこう出来そうな問題でもない。

 出来たとしても稼ぎ口が無い......


『ワッちゃんを人質に取ったって仕方がないものね。』

(そうだよ、そんな野蛮な事しても、そもそもワッちゃんに勝てないんだから。)


 鬼に人権を認めろと王様に直訴でもする?

 いや、無理だし。

 こうなれば自分という存在の小ささに嫌気が差すばかりである。


『じゃあもう土下座で頼み込むしか無いのかしらね。』

(そんな事したらまた魔法でどうにかされちゃうよ。)

『魔法には射程距離って言うのがあるらしいよ?』

(射程距離?)

『その人の魔力量にもよるけど、たぶん50mくらい...かな。』

(50mの距離を保ちながら土下座?誠実さの欠片も無いじゃない。)


 結局、しばらく”少女”と策を考えたけどらちが明かなかった。


『目の前でたくさん瞬間移動して自分より強い存在だと思わせるって言うのは?』

(瞬間移動...?)

『ほら、暗闇を展開して。』


 瞬間移動...

 やっぱり、そうなんだ...

 あの時はチーズ・ヴァーガーに追われて気が動転していて全然頭が回らなかったけど、やっぱりそう言う認識で合っているんだ。

 周りの人には瞬間移動している様に見えるけど、私には普通の時間が流れている。

 私だけに、何故か許された不思議な力......


 つまりそれは、”時間停止”。


(ねぇ、あなたはあの暗闇の事を知っているの?)

『私があの世界について、あなた以上に知っている事なんて無い。あれは、あなたの”力”だから。』

(私の...?ねぇそもそもあなたって誰なの?)

『私...は、私はあなたの中に残る神の残骸って言う...』

(そう言う意味分かんないのじゃなくて!名前は?名前は何て言うの?)

『名前......?』


 ...。


『私の名前は─── 』

現在公開可能な情報


キョウゾネル事件


「神は特定の一人ではなく万物に宿る」という教えのもと、彼らは森羅万象への如何なる過激な行為を禁ずると謳った。


その頃、人間界では現王の持病の悪化に伴い、第一王子と第二王子どちらが王に相応しいか、という論争が勃発していた。

支持者数は互いに長期間拮抗し合い、やがてデモ活動は激化の一途を辿った。

それにより命を落とす者も現れ始めた。

その現状に対しキョウゾネルは憤りを見せた。

幾千万もの命、物を踏みにじる行為を彼らは強く非難し、同時に彼らは闇に紛れたった二つ、第二王子と現王の命だけをこの世から葬って見せた。 

無論、過激なデモ活動は鎮静したが、王となった元第一王子はキョウゾネル壊滅を宣言した。

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