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便所から始まる性剣の伝説  作者: てるる
第一章 浄水場篇
36/75

36話 仕組まれた偶然(クリエーション・ワールド)③!?

 夢の中...なのかな。

 うん、きっと夢だ。さっき眠ったもの。


 でも、すごく意識がハッキリしている。寝ているって感じがしない。

 そして、夢にしては黒い。黒過ぎる。

 ずっと先まで黒くて何も聞こえない、ただ黒いだけの世界。

 いつもわたしを守ってくれる暗闇の世界とよく似ている。...けど、きっと違う。

 でも、無性に心やすらぐこの感じは同じだ。


「あなたたち...誰なの?」


 わたしはその暗黒世界に伸びる幾本もの”少女の影”に声を掛けた。


「...Arina。......Arina...Arina。」

「Arina......Arina...」


 反応、ではないと思う。

 たぶん”この人達”はずっと前からわたしに向けて何かを言っていた。

 わたしの名前...それが聞こえた気がした。

 けれど、その人達の声はわたしへ反応を煽ぐようなものじゃなくて、ただ何かを言っている、そう言う風に聞こえた。

 激しい恨み、怒りを剥き出しにして...


 でもその怒りはきっとわたしへ向けられたものではないと思う。

 闇に紛れる彼女達の目は、わたしを救おうとしている様に見えたから。


 1人、2人、3人 ......11人。


 何となく彼女達の影を数えてみると、それはざっと11人分あった。

 11。

 何だろう。11って数字。

 この数字はなにを示すのか。まだ答えは出なかった。

 

「この夢は、あなたが見せているの?」


 わたしは突然、思い当たる節もなくわたしの中の”少女”へ言葉を投げかける。

 何となく、そんな感じがした気がしたから。

 しかし、返答は無かった───。



◇◇◇ 1日前・異世界暦1995年5月24日



「二つの選択肢があった時、迷わず疲れる方を選びなさい!さすれば道は開かれるのよ!」     


 リリアが小さな胸を張り、自信ありげに人生哲学を語った。

 眠っていたわたしの耳元で。


「だから起きるのぉ!じゃないと目ヤニが接着剤になっちゃうんだから!」

「んー...それなに?迷信?」

「私の考えた怖い話!ねぇ聞く!?目ヤニ接着剤!」


 二段ベッドの下段、腰を半分だけ起こしたわたしにリリアが喜々としてまくし立てる。

 でも、その『目ヤニ接着剤』って話。たぶん絶対怖くないよね?


「それだったらわたし、もっと怖いの知ってるよ?」

「え、なに?」

「......楽園ザメ。」

「...なにそれ。」

「わたしも知らない。お姉ちゃんが時々言ってたの。」


 お姉ちゃんがわたしを怖がらせる為に創った架空の生物。

 わたしは”楽園ザメ”に関する記憶を探ってみたけど、桁外れな全長で空を漂うサメであること以外、特に何も出てこなかった。


『ねぇ、その話後で私によく聞かせてくれない?』

(だから語れる程知らないんだって...)


「それよりさ、今言ってた『二つの選択肢があった時、迷わず疲れる方を選びなさい』って何?どう言う意味なの?」

「あー、良い質問だね。アリナちゃん。」


 わたしが聞くと、リリアは口を更に裂けそうな程ニンマリさせた。


「つまりだねぇ。何か目的があったとして、そこに辿り着くには行動を起こさなきゃイケない訳でしょ?だったら目的の為に疲れたら疲れた分だけ目標に近づくって事にならない?だから何かを選択する時の基準、”得があるかどうか”とか”面白そう”とか”つまらなそう”とか”将来役に立ちそう”とかの中に”疲れるかどうか”って基準を入れて考えると私は人生がより良くなると思うんだよね。」


 開いた口が塞がらなかった。あ、感銘を受けてね? 

 リリアの最初の印象は”博識”だったけれど、この宿舎で一日二日と過ごす中で、わたしの中のリリア像は”博識”ではなくどちらかと言うと”危ない人”と言う方に傾きつつあった。

 そう、わたしがお水を飲もうとした時に『水はニアタイト区産のスーパーウォーター以外飲んじゃ駄目だよ?』と真顔で言われた時を堺に。

 何と言うか、最近のお姉ちゃんと同じ様なものを感じていた。


 しかし、世界的に成功した人の語るモノ程ではないかもだけど、今のようにちょっとした哲学を語れるリリアはやはり頭が良いのかも知れない。

 いや、お姉ちゃんが『ただのバカだ』って言いたいんじゃないんだよ?

 お姉ちゃんにだって本当に時々『天才なのかな?』と思う時があったもん。 



「ね?だから早く起きて!今日は外行くの!」


 もう目も覚めていたのだ、わたしはリリアの言葉に弾かれるようにベッドから起き上がった。

 リリアがわたしを連れ出したがるのはわたしがここへ来て以来の日課といえる。

 そして今日も、わたしがベッドから出るやいなやリリアは強引にわたしの手を取った。


「わたしまだ何もしてないんだけど...」

「そんなのイイの!」

「せ、せめてニアタイト区産のスーパーウォーターを一杯だけ...」

「駄目ー。」


 リリアは有無を言わさずわたしの手を引いたまま部屋の扉を開け、出る...と思いきや近くの窓へ顔を近づける。


「あ!明日も晴れるね。ほら、あの雲!上空に薄く掛かってるだけでしょ?ああいう時はだいたい次の日も晴れが続くものよ。」


 そして、リリアが端々に取り入れてくる知識マウントを受けるのもまた日課だった。

 しかしその時のリリアの目はこれ以上なくイキイキしているのです───。


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