33話 仕組まれた偶然(クリエーション・ワールド)①!?
天のご加護
アリナ・バァラクーダは当時10歳。
10歳の少女を視点として文章を紡ぐ事は非常に困難である。
その為、天が作者に微笑んだご加護。
以降数話に渡りアリナ・バァラクーダは多少年齢離れな語彙、表現を扱えるようになった。
───いつも、恐怖を感じたり精神が不安定になるとわたしはここに居た。
この黒くて、遥か彼方まで黒いだけのこの世界に。
何も聞こえず、何も見ることが出来ないこの世界に。
何も見えないのだから、誰も居ない。
孤独。
でも、そこに居るとやすらぐのは何故だろう。
10年生きてきて分かった事は、この世界を知るのはわたしだけだと言う事だ。
何故、わたしだけがこの暗闇の世界に入れるのか...
そもそもこの世界は何なのか、何処に存在しているのか...
『違う、これは...貴女が創り出した世界。』
どこからか声が聞こえて来る。
でも何処から?この何も聞こえない世界の何処から...?
わたしの...中から聞こえる。
そうだ、このわたしの中から聞こえて来る”少女”の声もずっと昔から聞いていた。
でも、その声を聞くとずっと忘れていた使命感を思い出すのは何故だろう。
その使命が何なのか、わたしには思い出せないけど。
◇◇◇ ───5年前 ポリプチコ区
ゴロッ... ドチャッ...
ザサァー... ザサァー...
岩石が崩れる様な音と、水の流れる音。
「大丈夫...?ねぇ、あなた誰なの?」
それと、女の子の声。
わたしは...何処に居るんだろう。たぶん川の傍。
ここに来る前、わたしは一体...
この、わたしに話し掛ける声は一体誰の声だろう...
ガチッ
「ッ!?」
その時、わたしは自分の状態を少しだけ理解した。
何故、女の子がわたしに『大丈夫?』だなんて言葉を言うのかを理解した。
わたしはその女の子の姿を見ようとうつ伏せで倒れている身体を起こそうとしたんだけど...
手足が動かない。それに目も見えない。
病気や怪我で動けないんじゃない。何かに縛られていて動けなかった。
「よ、よかった...生きてるんだね。」
それに...なんだか息も...
確かに女の子がわたしを「死んでるかも」と思ってしまうくらいの状況に陥っているのかも。
「ほら、私の手掴まって!」
「......ッ」
わたしの右手になにか温かいものが触れた。
わたしは今まで凍えていたのだろうか。空気は決して冷たくないのに、わたしの手に触れた何かはとても温かかった。
きっとそれが女の子の手なんだろう。
『掴まって』わたしはそう言われた。
手足が動かないと言っても、指の一本一本は動かせたからわたしはその手を握る。
でも、今のわたしには握り返す手に力を込める事は出来なかった。
握る様に指を折るのが今のわたしの精一杯。
これは”何かに縛られているから”ではなく、単純に体力が無かったからだと思う。
理由は分からない。
「んぐっ!...んん!」
女の子は踏ん張る様に声を漏らした。
そして、わたしの身体はそれにつられて上に引っ張られて行き...
首都郊外ポリプチコ区───。
その中の「顔山街角」後で知った事だけど、そこがわたしの居た場所の地名だった。
そこの、目の前に崖のある河原。
わたしが元々住んでいたのは隣区のプロモセラ区。
何故わたしはこんな場所に、こんな状態で一人居たのだろうか。
理由がある筈だ。
覚えていること。
わたしの名前。アリナ・バァラクーダと言う名前。
お姉ちゃんのこと。
お母さんのこと。
それと、『5月20日』と言う日付。
あとは...何も思い出せない。
「ぷはっ!...はぁ、はぁ...」
女の子が目と口に取り付けられていた物を外すと、わたしの中に綺麗な外の空気がなだれ込む。
「あなた名前は?何でこんな事になってたの?」
「わ、わたしは...」
「ヒッ!」
そこにはわたしを穴...と言うか地面から出してくれた女の子が居る筈だった。
でもわたしが見たものは大きい”スコップを手にした黒い男”。
わたしは恐怖から声を漏らした。
「どうしたの!?ねぇ、あなた...」
「え...?」
でも、わたしが一度まばたきするとその男は消えて、そこの場所には女の子の姿が代わって居た。
年齢はわたしより多分少し上で、しゃがんでいた彼女の長くぼさぼさした茶髪は地面にまで届いていた。
特に変なところの無い女の子。
「わたしは...アリナ・バァラクーダ。」
わたしは答える。
なんだろう、随分久しぶりに声を出す気がする。
何日も喋っていないように。声を出す行為に新鮮さがあった。
さっきのは...わたしの見間違い...なの?
男から女の子に入れ代わったのは事実。幻覚ってやつなのかな。
「...ッ!」
いや違う。まだ居る。
少し離れた場所に!わたしの方へ歩いて...
「ねぇあの人!あそこに居るあの人って...!」
わたしは男を指差しながら目の前の女の子に声を上げた。
「あそこ?あそこって何処?誰も見えないけど。」
「だから...ほら!あれ...」
やっぱりおかしい。また”男”が消えた。
おかいしいのはわたしなんだ。
手足を縛られて地面の中に埋められていたんだから。
頭がおかしくもなっちゃうか。
そして、わたしは自分が今まで陥っていた状況を把握した。
わたしが今までどれだけヤバい状況にあったのかを。
そうだ、わたしは手足を縛られて地面に埋まっていた。
もしこの女の子がわたしを見つけていなかったら、わたしは死んでたかも知れない。
この女の子はわたしの命を助けてくれたんだ。
でも、確かに『この場所』に『男』が居たんだけど...
「アリナちゃん、家族はいる?」
「家族?うん...いるけど。」
「兄弟とか両親とか親戚とか。」
「うん。お姉ちゃんとお母さんと、お父さ...」
お父さん...?
そう、わたしにはお父さんがいた。
でも...
「あのねアリナちゃん、ものすごく奇妙な質問をしたいんだけど。」
「奇妙...って?」
「あなたのお父さん、もしかして首が『2つ』あったりしない?」
「え、なに?なにが2つって...」
その女の子は、わたしに『リリア・エグソディア』と言う名を名乗った女の子は、さっきまでより少し険しい顔でわたしに聞いた。
本当に”奇妙”な質問。
首が『2つ』あるだなんて。
「いや、お父さんに限らなくて良いんだけど。いままで出会って来た男の人の中にそんな人がいなかった?」
本気で、本当に本気でリリアはそんな質問をわたしにしていた。
「ごめん、そんな人は知らないよ。」
「そう...」
「その人、探してるの?」
リリアはわたしの問いに小さく頷く。
首が『2つ』。本当にそんな人がいるのなら。
「わたしも探すよ。わたしは、リリアに助けられたから。」
「え、本当?本当に...?」
「うん。だから手と足の枷を外して欲しいんだけど。」
「あ、ごめんごめん。」
何と言ったらいいのか。運命の様なものを感じていた。
このリリアと言う女の子と、彼女の目的に。
わたしはお姉ちゃんの居る場所に帰らなくてはいけないのにそう言った───。
現在公開可能な情報
首都郊外
アリシアの故郷「プロモセラ区」とアリナの埋まっていた「ポリプチコ区」は日本で言う足立区や杉並区的な立ち位置。
治安はあまり良くない。
頭のおかしい人が頻繁に湧くんだとか。
アリシアやユニオルがその筆頭である。




