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便所から始まる性剣の伝説  作者: てるる
第一章 浄水場篇
31/75

31話 紐解く  ─縁─!?

───???視点

 


 この世界には、想像を遥かに超えた「悪」が存在する。

 もはや、奴らは正義を掲げる事すらしない。

 自分が「悪」だとも納得している、もっともドス黒い「悪」だ。

 

 この世界には「裏」が存在する。

 ”奴”はそこに居た。

 リリアがその蓋を開けてしまったのか、それとも私が飛び込んだのか...

 ならばそれはいつだったか。

 私は今日も、目覚める事の無い意識の中考える。


 ザァー ザァー...

 

 聞こえてくるのはいつも雨音だった。




 ザァー ザァー...


 あぁそうだ。あの日も雨が降っていた。

 恐らく最初の因縁が生まれてしまったあの日も。

 いや、あの時はただの、縁、だったか───。





 ───自分ではそれを『旅ごっこ』と呼んでいました。

 今日の旅ごっこの最初はただのゴミ捨てだった。

 小雨こさめが降ってるのを気づいていたのに、いつも探しに来てくれるお姉ちゃんに迷惑をかけてるって分かってたのに、わたしはまたこんなに遠くまで来てしまった。

 どこ?ここ。

 

 わたしは目に写った石段にとりあえず腰掛けました。

 左と右に道があって、右にはさっき歩いて来た道があって、左にはトテツモナクおっきな橋が架っている。

 その橋を渡るのは何か嫌だった。そっちに行ってしまえば、本当に帰れなくなっちゃう気がする。

 でも来た道をまた歩くのも嫌だ。つまんないもん。


「あ、人...」


 もう一度、橋の方向を見てみるとそこに一人男の人がいる。

 変だ。雨が降っているのにその男の人のまわりは透明なバリアでもあるように雨がよけていた。

 

「あの...」

「......。」

 

 わたしはこっちへ近づいて来たその人に声を掛けた。 

 なんだ傘か、と思った。


「ここ、どこですか...」

「どこ、と言われても困る様な場所だが。」

「そうですか... あの、おじさん名前は?」

「私は...”ヴァナナ・ミルク”と言う。」

「なんか、困ってる?」

 

 つい名前を聞いてしまったけど、この人の名前なんてどうでもいい。

 ただ、この人の目が最近覚えたとっておきの言い方をすると、とてもモノウゲに見えたのだ。


「...いよいよ、自分が信じて良いものが分からなくなった。」

「うん?」

「兄弟喧嘩みたいなものだよ。」


 ちょっとよく分からなかった。

 そして、その後その人はわたしに何も言わないで行ってしまった。

 どんどん遠くなっていくその人を見ていると、やがてそっちの方向からお姉ちゃんの顔が見えて来る。

 お姉ちゃんもわたしと同じで雨に打たれていた。

 わたしと違う綺麗な金髪が雨で濡れてしなしなしている。 



「───帰るよ。」


 お姉ちゃんがわたしに言った。


「あ、お姉ちゃん。ただいま。」

「それさぁ、私が来た時いつも言ってるけど帰った時に言う言葉だからね?」


 わたしは心の中でとても驚いた。

 もしかして『モノウゲ』の使い方も間違ってたのかな...

 

「ごめん、また遠くまで行っちゃって。」

「ん?もしかして遠くに行ったつもりだったの?」

「...え?」

「通りを2、3個曲がったら家だけど?」


 わたしはまたも心の中で驚くのでした。

 わたしは家のまわりを短く回っただけなのかもしれません。

 それならこんな所の場所を聞かれても「どこ、と聞かれても困る」と言われて当然だ。

 

 そして、その日はお姉ちゃんと家に帰った。


 ───その日に起こった事はそれだけ。本当に、それだけ。

 でも、幼さ故なのか...その時の私はあの男の... 別に悪い人には見えなかったし悪い事も言っていなかった。それでもオーラ?と言うか背後に居るモノ?的なものに何か不吉なものを感じていた。

 そして、何となく『もう会いたくない』と思っていた。




───アリシア視点だよっ☆




(もう一度その戯言を聞こうか?) 

『だからジュリエルの過去を暴こうって。表情が嘘っぽいだの、これ伏線か?だの言ってたのはアリシアだろ?』


 確かに言った。心象内ではあったが言いましたよ。


『な?な?』

(そんなおもむろに伏線回収を企むな!)

『でもアリシアも気になるだろ?何も過去に捕らわれなくても、奴の部屋の中が。』 

(んむむ、確かに。)


 ”それ”の言葉には心理的に何かと理由を付けて反論してやり込めたくなるが、人間としての純粋な欲求としてやはり誰かの部屋には入ってみたいものだ。

 ましてそれが友達のとあれば。もしそいつの所謂いわゆる秘密を見つけてしまった時の何とも言えない喜びと優越感は金では買えないものに違いない。

 定番な話だが、いつの日かユニオルの部屋に忍び込んでエロ本を発見した時の愉悦ゆえつたるや。

 確か本のタイトルは『金髪ロリ美少女に(自主規制)!』だったが、いや今そんな事はどうでもよくて。

  

(あ、でもそれって封鎖された旧部屋でしょ?目ぼしいものはあらかた現部屋に移行してるでしょ?常識的に考えて。)

『いや、それは有り得ない。』


 ”それ”はサイズの割に威勢良く私の指摘に反抗を示す。

 こうなっては例え暴論を唱える事になったとしても”それ”の尿道くちつぐませてやりくたなるのがさがである。


『だって僕が探そうとしているのは”彼女が隠しているモノ”だぜ?なら誰でも入れる場所にある部屋より封鎖された場所の方が隠すのに都合が良いだろ?』


 まぁ確かにそれは一理ある。

 ”それ”のクセに随分と頑張って詭弁を練ったものだ。褒めてやる。

 しかし、さっきから私は”それ”の言葉の端々に何か引っ掛かるものを感じる。

 『過去を暴く』だとか『隠しているモノ』だとか。

 

(お前は何でさっきから”特定の何か”を探している様な口振りをするんだ?)

『え、は...?』


 それはジュリエルの過去と関係があって、そしてジュリエルが隠したいと思っているモノ。

 ジュリエルのどことない怪しさを暴く為と言う大義名分を掲げている割には随分と限定的なものを探している様に見えるのだが。


『い、いや...そりゃ今この瞬間以外は全て過去になるんだからアリシアの言う”怪しさ”が本当にあるなら彼女の過去と関係がある筈だろ?』


 おやおや、今度の詭弁はかなり綻びが目立つようですが。

 でも、だから何だと言うのだろうか。

 ”それ”が私に隠し事でもしていると言う事なのか?そして密かに何か企んでいる...と?

 私の股間の中で期をうかがって...?


 思えば、現状で...と言うかこの世界で最も謎深いのは”それ”の存在それ自体だった。

 冷静に考えてもみれば喋るチ○コって何だ?

 つい最近ヴァナナ・ミルクの未来予測のトリックについて首を傾げたばかりだが、私の一番身近な所にも魔法で説明の付きようがない現象があるではないか。


(お前は...何がしたいんだ?)

『えっと...いや、だから、ほら...アリシアは馬鹿で困るなぁ...』


 だが、”それ”について一つ確かな事がある。

 それは私並に嘘、言い訳、咄嗟の理由付けが下手っチョだと言う事だ。

 見るが良い。このちょっと前までの私を彷彿させる吃り方を。



◇◇◇



 前述の「私並に」と言う文言の真意ついて、読者諸君に新たな教養を授けたいと思う。

 その為に、まずは僭越せんえつながらアリシア・バァラクーダの抱く野望を語らせて頂きたい。


 ───彼女がまだ幼かった頃だ。

 彼と初めて出会った頃だろうか?その時から彼女は自分が可愛い事を知っていた。 

 彼女の名誉など尊重するに値しないので、ただ事実だけをのべるとアリシア・バァラクーダは何処の馬の骨かも分からぬ、馬どころか小魚の主鰓蓋骨しゅせんがいこつあたりがお似合いなその男に一目で心を奪われてしまった為、その日から彼女は無意識に乙女へと変し、彼に気に入られるよう自分の顔を自分自身で見てみた。


 可愛かった。


 『本当に〇〇な人(例えば天才や中二病など)は自分が〇〇であると自覚していない』とよく言われるが、アリシア・バァラクーダはあまりに可愛すぎたのでことわりを越えそれを自覚した。

 無論、そこには少なからず彼女自身の主観が混じっていたが。


 しかし、後に魔王となるアリシア・バァラクーダはその事実に甘んじなかった。

 可愛いだけの女など腐る程いる。

 それを彼女は知っていた!いや、知らなかった!

 「外面だけでなく内面をも超越してみせる」彼女は色恋沙汰を起点に無意識下でそう決意していた。


 そこでアリシア・バァラクーダは一つの野望を抱く。

 悲しいかな、それは思春期の始まりと同時期であった。

 女の子の思春期は男の子よりちょっと早いのだ!

 アリシア・バァラクーダはまず自分の思う”かっこいい自分像”を挙げて行った。

 それは、一つに巧みな話術を持っており、一つにその話術を用いて数多あまたの人間を自分の支配下に置いており、一つに「ザ・○ールド!」と叫べば時の一つや二つ止められる程の人伝ひとづての力に起因しない強靭な精神力を持っている。

 そう、その時(今も)彼女は人を影から操る”支配者”と言う存在に強い憧れを抱いていた。

 

 ───しかし現実を見よ。10年後の自分を見よ。

 聡明な読者諸君にはその野望が欠片も今現在の彼女に備わっていない事は委細承知であろう。

 大人しく可愛いだけの女になっていればアリシア・バァラクーダはずっとイイ女だったに違いないのだ。

 その頃から片鱗を見せ始めていたコミュニケーション障害はその後悪化の一途を辿り、人を影から操るどころか彼女は10年間彼以外の人間とろくに会話すらしていない。 

 あまつさえ、数ヶ月前までは学園で学友達から係、委員会等の仕事を押し付けられ、それが予想以上に良い出来だったので学友教師達から褒められ軽く有頂天になるなど、とても支配者の風上にも置けぬ一面すら見せていた。


 ある日、アリシア・バァラクーダは草原に立ち戯れに「ザ・ワー○ド!」と叫ぶ。

 野望の通りならば完全に時の静止した世界。彼女は耳を澄ました。


 ───小鳥のさえずりが聞こえた。


 それが現実である。それこそがアリシア・バァラクーダと言う人間である。

 自分の思うかっこいい像から年々遠ざかって行くのがアリシア・バァラクーダなのである!





『言っとくけどな、アリシアは僕に意見出来る立場じゃないないんだからな?』

(えっと... は?)


 私はてっきり”それ”は自分の身体に寄生する寄生虫とかの類だとばかり思っていたが、”それ”に言わせればその認識は誤りなのだろうか。


『僕はもうアリシアのナカの温かさを知っているんだからな!』

(......ぅ)


 そう言えばそうだった。

 ヴァナナ・ミルク戦の時、私が体内で性剣を顕現させた時。

 私は”それ”と形式の上では...

 残念ながらその抑え難い含羞がんしゅうと”それ”に従う事の因果関係は不明だが、そうだった。

 しかし、業腹ごうはらだがその件に関しては命脈を保つ為やむ終えないものだったと納得している。


『アリシアみたいなクズ野郎にも子宮があると思うとちょっと萌えるよね。』

(......。)

『大丈夫、性剣は物質的にアリシアの身体を傷つけられないから処○膜も卵子も綺麗なままだよ?』

(...ッ)


『アリシアの喉ち○この長さは1...』

「ひゃめろおおーーーーッッッ!!!」


 私は”それ”が私の喉ち○この長さを暴露する前に激しく叫喚した。

 果たして私の喉ち○この長さは1cmなのか1mなのか1dℓなのか...それは永久に伏せられる事となってしまったが、その謎についての妄想は今夜のおかずにどうぞ。


(分かったから。行くから!)


 ”それ”の奸佞邪智かんねいじゃちなセクハラに屈服した様でかなり、すこぶる地団駄を踏みつけてやりたいが、とにかく私はこんな夜更けに旧ジュリエルの部屋、旧旧王の寝室に赴く事となった───。

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