30話 紐解く ─覚醒─ !?
───私はしばらく唖然とし、しきりに髪をくるくるしていた。
と思ったが...あれ?髪が無い?...と言うか、短い?
そもそもだ、他にもオカチナ部分は沢山あるのだ。
服が変なのは分かる。いや、分かるのか?
右手には、松葉杖...?って言うんですか?こう言うの。それも持ってるし。
視界には同じく変な服装に揃いも揃って小さな板的な何かを見つめながら歩行する人々。
あり得ない高さの摩天楼郡。
雑多な文字や美少女の絵に飾られた建造物達。
「はぁ...」
私は一つ、吐息を吐いた。
「何処なんだよ、ここ。」
少なくとも私の居た世界では無い。
突飛な話だが、私は何故だか確信していた。
危険な場所ではないだろう。でも、私には行くべき場所...いや、そんな大層なものじゃないけど。行こうとしている?場所がある。
「そろそろ、帰るか。」
そう呟き、私は人々の行き交う歩道に松葉杖を突いた。
ま、帰りたい気持ちはマウンテンマウンテンでも帰り方が分からんのですが。
「ごめちっ!その足で一人にさせるとか鬼畜の所業だよな。」
その時、私に声を掛けているらしい一人の女が現れた。
セミロングの茶髪を括り、学校帰りなのかセーラー服的な物を身に着けている。
馴れ馴れしいな、あたしゃ最初から一人だよ!
「でもK○y作品の新作だよ?発売日に買わないとか失礼じゃん?」
女は嬉しそうに右手の長方形の物体の浮き出た袋を揺らしながら言う。
だから誰なんだよ、てめぇは。
いや、でも...もしかして知ってる人なのか?この人。
何だ?よく見れば妙に記憶の何処かに引っ掛かる顔だ。
誰だ?気になる。お前は...誰なんだ?
「夕飯とかどうする?帰ってからで良いよね?」
そもそもこんな世界知らない。
でもこの人は知っている気がする。どういう事だ?不可思議だ。
なら私はこの世界の事もひょっとして知っているのか?
そんな筈無い...と言いたいが、確証は無い...のか?
だがこんな世界、噂すら聞いた事が無いし、見たのもつい最近王城のバルコニーから眺めたのが初めてだと言うのもまた事実。
なんなんだ?お前は...
いや、そんなの本人に直接吐かせれば良いではないか。
「あの...」
「ん、どした?... 。」
その女が、私の名前を呼ぼうとしていたと思う。
口が動いていた。今まさにこの女の口から私の名前がこぼれ落ちる寸前だった。
でも、その瞬間、私の視界が強い衝撃と共に白い靄に包まれて行き、天が私を呼ぶ様に私の意識は何処か彼方へ吸い上げられて行った───。
◇◇◇
───前話(29話)より少しだけ前のお話。
瞼が重い。
死から目覚めるかの様に意識が奥深くから呼び覚まされる感覚。
何でこんな事になったんだったか。
あー、そうか。私、ヴァナナ・ミルクに危うく殺されかけたんだっけ。
あれあれ?だとしたらオカチなぞ。
『オカチなぞ』ってちょっと言葉が変だな。
変だぞ、何故それなのに今の私には傷一つ無い綺麗な身体なのだ?
そう、私の記憶が確かなら私は奴に散々フルボッコにされた筈だ。
応急処置と思われる包帯が数箇所に渡って幾重にも巻かれてはいるが、その実その下には傷なんて無いのだ。
あれから如何ほどの時が経過したのか知らんけども、そんなに短期間で治癒する程の傷ではなかったし、私の再生能力が並外れている的な設定もあった覚えがない。
恐らく経っていたとして1日2日、まだ痛みすら引いていないのが妥当なところ。
と言うか、私があの戦いを乗り越えてなお生きているのが奇跡と言える。
だが、その疑問はベットに横になっていた私が腰を起こし、首を前へ向けると同時に呆気なく解かれてしまうのであった。
「あ、お姉ちゃん起きた!」
そこに居ましまするは、無垢で無邪気な面を被った私の第二のトラウマを呼び覚ます狂気の化身だった。
「うあっ、ワッちゃん!?」
夜闇漂う静謐の中に爛々と光るワッちゃん瞳。
呼び起こされる記憶がスパイスとなり軽く恐怖体験の領域であった。
しかし、同時に私は気づく。
「もしかして...ワッちゃんが治してくれたの?」
私がまさかの疑問を口に上せると、ワッちゃんは裂けそうとまで思える笑顔を作り、数回首を上下に振った。
「...ふ、ふぅん。褒めないし何も上げないけど、ありがと。」
「お姉ちゃんに褒められた!」
ガキは無邪気に喜んで見せる。
その溢れんばかりの愛嬌を前に私が出来る事と言えば、そんなちっちゃな事で一喜一憂してしまう物差しの小さい人間性を鼻で笑うくらいのものであった。
無論、鼻で笑われるべきは私である事は言うまでもなかろう。
「なら、もう一つ当然の疑問を投げかけたいんだけど。」
「ん...?」
「何で突然ワッちゃんがここに現れたん?」
『ジュリエルか王女が呼んだんだろ?』との大衆的で知恵遅れな返しには、ワッちゃんと面識があるのは私のみと言う確固たる事実で論破する事が出来る。
私にもワッちゃんの住処は謎だし、加えて既に夜も更けている。今ここにワッちゃんが来ていると言う状況はかなり謎めいているのだ。
「何かね、お姉ちゃんが危ない気がしたの。」
「気がした...だけ?」
「それだけって言われたら、うん、それだけだよ。」
そうだった。グレムリン対決の時に分かった事だが、ワッちゃんは色々な要素においてぶっ壊れ性能を誇っているのだ。
そんなのに自分の常識を押し付けて考えるなど愚の骨頂以外の何と言うのか。
こんな桁外れの幼女を仲間と言うか、実質手下に引き入れ、文字通り命を救われてしまってはあの狂気のグレムリン対決にも意味があったように思えてくる。
「じゃあここには一人で来たって事だよね。私の部屋に来る前に二人の女の子見なかった?」
「二人?」
「黒髪で乳以外取り柄のないホルスタインと、短い円柱みたいな人なんだけど。」
私は我ながら完璧過ぎる表現に感服を覚えた。
「んーん、見てない。お城の中すごい臭かったから超速でお姉ちゃんのとこまで来た。」
「じゃ後でその人達の傷も治して上げて、あいつらも結構重症だから。あ、出来る限り恩着せがましくね?」
「分かった!」
と言う事は、ヴァナナ・ミルク襲撃による打撃はこれで一先ず完全回復出来た...のか?
後は城内の激臭か。あの時の私は本当にかっこよかったんだが、後になれば残ったのはクソだるい除臭作業。
はぁ... 考えるだけで眠くなる。きっと部屋のドアを開けたら廊下に籠もった激臭の濁流が押し寄せるんだろうなぁ。
そうだ、寝よう。
「今日はここに泊まってけ。帰ったらお友達のとこでお泊り会してたって言うんだぞ?」
「ほんと!やった、じゃあ遊ぼ!お姉ちゃん!」
「へ...?」
私はごく普通の、テンプレート通りのセリフを言ったつもりだったのだが、何故だか今、ワッちゃんの口から取り返しのつかない不穏な文言が飛び出した気がした。
そして、ワッちゃんは服のポッケを手荒に弄り、一つのカードゲームらしきカードの束を取り出した。
その面相は私のトラウマからなる色眼鏡を通して見れば不気味そのものであった。
「お姉ちゃんとやりたくて持って来たんだ!ね?」
「や... や、やめろ!やらないぞ、私は絶対にゲームなんてやらないぞッ!!!」
「えー何で何で何で!?」
「やらないったらやらないんだァーーー!!!」
思い出されるのは未だ癒えぬトラウマの記憶。
そうだ、あの日も『遊ぼ』...その言葉から始まった。始まってしまった。
階段、グレムリン、イカサマ... うっ
ワッちゃん...君が来てくれた事は凄く感動しているし感謝もしているんだ...
だが。てめぇ、貴様... お前はやはり悪鬼羅刹だ!
やめろ... やめろ...
私は学んだんだ。お前とは二度と無策で勝負事はしないと。
きっとまた自分に不利なルールを提示した後に私を痛めつけて来るに違いがない!
絶対に... 絶対に... 私は!私は!
「お姉ちゃん...?」
「ハッ!」
「私のそばに近寄るなああーーーーーーーッ!!!」
私はベットの上に這いつくばり、恐怖心から同じくベットに座っているワッちゃんを力強く指さして言い放った。
後にこの時の私を”それ”はこう語った。
『とても機転を利かせてヴァナナ・ミルクを屠った人間には見えない。小物である』... と。
○
「嫌だ、嫌だ...私は...ッ! ...はれ?何で嫌なんだっけ?」
「もぉどうしたのお姉ちゃん!おっきい声出して。」
そうだ、私は何故ゆえにあそこまで頑なに高々幼女との勝負事を渋っていたのだろうか?
私にはその程度の器量すら無い器がお猪口並の女だっのか?
まぁそんな女だったか、私は。
「いいよ。徹夜でガキに敗北を教えてくれる。」
「やったぁ!じゃそんなお姉ちゃんには最初から10000異世界ドル持った状態で初めて良いよ!」
せっせと安定性の欠ける布団の上にカードを並べるワッちゃんが言った。
元より私の勝利が揺らぐ事など無いが、そこにあえて甘言を囁くと言うのならば私はそれに乗ってやるにやぶさかでない。
「いいの?そんな事したら”ハンデを上げたのに負ける”って言うクソダサい奴になっちゃうよ?」
「いいよ!”ハンデを貰ったのに負けた”って言うくそださい奴になるのはお姉ちゃんだから!」
ワッちゃんは巧みな言葉選びで私に啖呵を切って見せる。
朧な光芒の照らす夜更けの部屋、今私達の戦いの火蓋が───
チダン!
「ほぇ?」
不意、その時、鼓膜を攻撃的に刺激する音と共に部屋の扉が開かれた。
そして、同時に廊下との境界線から佐々木さんの顔が覗く。
しかしその眼差しは異常と言う他ないものであった。
どうした、佐々木さん。
「...お前か。魔王城の均衡を乱す者は...」
佐々木さんは異常な眼差しをワッちゃんに突き刺し、淡々と続ける。
「扉を二度も開閉したな...?私の苦労も知らず。風向きが乱れたらどうする?私の除臭作業を増やすな...餓鬼がっ。」
「佐々木さ...うわっ!」
「うあっ臭っ!」
大衆的だがとてもピッタリな表現なので用いらせて貰うと、”鼻が曲がる程”臭かった。
それが佐々木さんの背後に蠢く闇からなだれ込んで来る。
佐々木さんは私が気絶している間に非常に精密な作業により魔王城の除臭を図ってくれていたのか、洗練された動作により築かれた均衡を乱したワッちゃんに激しく怒り心頭のご様子だった。
佐々木さん...貴女の働きの事は凄く感動しているし感謝もしているんだ。
しかし、『均衡を乱している』と言うならば、佐々木さん、今はあんたがそうだ。
「「私(あたし)のそばに近寄るなああーーーーーーーッ!!!」」
私...と言うかワッちゃんが叫ぶと、突如、部屋に猛烈な突風が吹き荒び、佐々木さんは悪魔的激臭を引き連れ廊下へ消し飛ばされて行った。
声を上げる事すら面倒臭そうな顔でふっ飛ばされていく佐々木さんはちょっとシュールだったのだが、まったくワッちゃんは...
ん?ワッちゃん... 何でついさっきまで私はワッちゃんとの対決に乗り気になっていたんだ?
しかし、その時私は思い出した。
ヤツに支配されていた恐怖を... 記憶を束縛された屈辱を......
『跳梁跋扈...?』
『お姉ちゃん言葉も段数も違うよ?』
佐々木さんを吹っ飛ばした影響で他に展開していた魔法がおざなりになったのか、なんなのか...
「おどれ貴様!またしても私の一銭の価値も無い記憶を改ざんしたな!」
「ほぇ?」
あな恐ろしやこの幼女。片時も安息を与えてくれやしない。
この野郎、ぶっ殺してやる。
まぁワッちゃんが来てくれなければ私は安息の世界へ召されていたんですが。
『除臭するって事はまた王室の扉が封鎖されるって事?』
”それ”が私に問いかける。
(うん、まぁそうじゃない。)
『それは大変だ。』
(...大変って?)
『い、今しかない。入れるのは今だけだ。』
(だから...)
『ジュリエルの過去を暴くんだ。』
(...?)
”それ”の尿道から飛び出した突拍子も無い言葉に私のモンスター級とまで言われた脳みそは瞬く間に迷走を余儀なくされる。
”私の脳みそはその程度の事でショートしてしまう”と言う判明しつつある事実から目を背ける為、私は...
「?」
再度、疑問符を浮かべてみせた。
現在公開可能な情報
エッ!情報について①
アリシア・バァラクーダ
・身長147cm 体重41kg
・3サイズ B79/W53/H72
・一人えっ♡ 一日平均1.6回
ジュリエル・クリメニア
・身長168cm 体重53kg
・3サイズ B94/W59/H86
王女
・身長153cm 体重42kg
・3サイズ B - /W54/H75




