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便所から始まる性剣の伝説  作者: てるる
序章、下水管篇
3/75

3話 取り外し可能!?

 俺は生まれ育った地である街の、よく見知った道の数々をひたすらに駆ける。

 

「はぁ、はぁ...。」


 一体あの場所からどれだけ遠ざかったか......途中、貴族さながらの高価そうな服に身を包んだ黒髪の少女にゴミを見る視線を向けられたが.......気づけばそこは見知らぬ裏路地であった。


「はぁ...アリシア、不甲斐ないお兄ちゃんでごめんな。」


 もちろん彼女は本当の妹では無い。急に妹が欲しくなったから俺が俺の中で勝手に彼女を妹ということにしただけのことだ。

 しかし...その妹を我が身可愛さで、あの場に置いて逃げ出すとは...俺は兄失格だな。

 何故、俺がこんな事をしているのか......何故、俺が彼女の身を案じているのか......それは時を10分程前へと遡る───。



◇◇◇



 バンッ!!!


 アリシアとの猥談に花を咲かせていると、その花を蹴散らすが如くそんな音が響いた。

 それは、喫茶店の扉が力強く開け放たれた音であったらしく、店の入り口から長身に豊満な体つき、鮮血のような真紅に染まる髪が特徴的な20代半ば辺りのお姉さんの姿が覗いていた。

 しかし、その人は迫力のある登場の割に無口で入り口正面のカウンター席へと腰掛け、店員に何かを注文する素振りを見せた。

 流石に人様の前で猥談を続けるわけにも行かず、俺達は押し黙り手をわきわきさせ始める。



 しばらくした頃か、俺が記憶の中に映るアリシアを剥く作業に勤しんでいると、お姉さんが何かを思いついたように立ち上がり、斜め後方に位置する、俺達の座るテーブルへと視線を向けた。

 そして、一通り飲み食いを終えたであろうその人は、顔に不敵な笑みを浮かべ視線の先へと足を進め出したのだった。


 これはマズイことになった。


 俺はそう思った。

 今、あのお姉さんが浮かべた笑み。あれは悪だくみを思いついた者のする顔だ。

 そして、そんな顔をしたお姉さんの向かう先に俺がいる。

 それはつまり、すごくマズイ状況だということだ。

 何を要求されるか知らないが、基本的に対人恐怖症な俺達に対処出来るだろうか......。

  


「すみません...ちょっと良ろしいですか?私は異国の方から来たんですが...どうも通貨が違ったみたいでして......」


 なるほど、喝上げか......。

 お姉さんが口を開いくと同時に俺の中の第六感が『逃げろ!』と指令を出す。

 今は良い人を装っているが、いつ本性を見せるか分からない...。

 行動を起こすなら...出来るだけ早くした方が良いな。


「アリシア。」


 俺はお姉さんの言葉を遮り、彼女に言う。

 

「これは試練だ。俺の慧眼けいがんは、前々から君の心の弱さを見抜いていたよ。だからこれは試練だ。そう...君が自分自身の心の弱さに打ち勝つ為の......。」

「ちょっと...貴方何を...?」

「......?」


 突然に話を遮られた名も知らぬお姉さんとアリシアが、まるで頭のおかしな人を見るような目を俺へ向ける。

 しかし、俺はそんなもの気にせず、言い終わると共に脱兎のごとくその場から立ち上がり、力の限りを尽くして走り出した。

 人間とは時に、大切なものを切り捨てる決断をしなけれならない生き物なのだ。


「そ、そそそれじゃアリシア、そそそ息災でっ!」



 しかし、この時の俺はまだ知らない。 

 まさか...俺がこの時に起こした行動が原因で...アリシアがあんな事をしでかしてしまうだなんて───。




─── アリシア視点




 私には対人スキルなるものが全く備わっていないことを先に断っておく。


「あ、ねぇちょっと......。 コホン、それで...通貨が違うんですよ。」

「へ、へぇ...そそ、そうなんですねぇ...。」

 

 遥か彼方へと消え去る彼の姿を一通り眺めた後、そいつは再度、先程と同じことを言った。

 それに対し私は、誰も聞き取れない程にか細い声を返す。

 俗に言うコミュ症とは、最初は小さな違和感としてその身に現れる。しかし、それは成長と共に指数関数的に膨張して行き、気づけばあらゆる知的生命体を網羅的に恐れ易々と言葉を返す事すらままならない状況へと陥いる。 

 それに加え、10年以上の彼以外の人間との関わりを極端に拒絶して来た我が人生、もはや私の対人スキルは絶望的な惨状となっていた。

 

「だから...少しばかり銭の方を...貸してもらいたくて。いえ、ほんの少しで良いんですよ。無理と言うのなら金目の物で代替してくれても構いませんし。......まぁ、それでも無理と言うのなら覚悟をしてもらいますが。」


 ほれ見たことか。結局恐喝ですよ。  

 同じく法を犯すのなら恐喝では無く、せめて食い逃げにしてもらいたい。


「あっと失礼。私の名は魔王軍四天王が一人、シルベリア。」

「......。」

 

 私は彼女のそんな戯言には構わず、瞬間立ち上がり、私も彼がしたように脱兎のごとくその場から逃げ出した。

 え?『私が逃げ出したらそれこそ食い逃げだ』だって?

 安心したまえ、こんな事もあろうかと最初から私達は何も飲食をしていなかったのだ。


 思えば迷惑極まりない客である。

 いや、もはやそれは客ですら無いのかもしれない...。


 がしかし、私の取った行動は彼のように上手くは行かず...気づくと、私の周りは既に恐喝姉さんの側近とおぼしき黒のフードを目深まぶかに被った四人の少女達により囲まれていた。

 もちろん今の私は戦う術など持ち合わせていない。


「......。」


 その時、私はふと先程この恐喝姉さんの言っていた『魔王軍四天王』という言葉は本当に嘘なのだろうか.......そう思った。

 本当である筈が無い、そう誰しもが思うだろう。

 しかし、嘘をつくならもっとまともな嘘を吐いたらどうだろうか。

 魔王軍とやりあっている今のご時世『魔王軍四天王』なんてあまりに不謹慎だ。

 その一言で社会的に潰される可能性だってある。

 だが、もしそれが嘘で無いのなら......もしかしたら、今私はとんでもなくマズい状況にあるのかもしれない。

 

 恐喝姉さんが私を見下す姿勢で爛々とした双眸そうぼうを向けると同時に、私に右手を突き出す。

 きっと金くれのポーズなのだろう。

 そう言えば、この恐喝姉さんは今しがたこうも言っていた。

 『それでも無理というのなら覚悟をしてもらいますが。』......と。

 そう、貧乏学生の最たる私は金を持っていることの方が珍しいのだ。

 ならば、どうやら私は覚悟をしなくてはいけないらしい...。

 まぁ何を覚悟すれば良いのかは知らんけど。とりあえず”死”辺りでお茶を濁しておくか?

 

 なんてこった!私は今日死ぬらしい。 

 しかし、私は怖くは無かった。

 昔から母親からの暴力は日常茶飯事、やりたくもない家事をやらされ、学園はつまらない。

 それらから開放されるというのは悪くないのかもしれない。

 天国とかちょっと興味あるし。

 だが、そんな私にたった一人構ってくれた彼には最後に言っておきたかった。

 愛していた......と。


「ねぇ、ちょっと?なにぼーっとしてんのよ?この私がお願いをしているのよ?さっさと出す物出しなさいよ。それとも何、死にたいの?」


 そんなことを言う恐喝姉さんに、おのが運命を受け入れた私はどこか悟った様な目を向けた。

 あ、そう言えば死ぬ前に一つやりたい事があったんだ。

 目線の先に見せつけるように突き出された双丘を見ている内に私はそう思った。 

 

 突然だが、私はおっぱいが好きだ。

 チ○コも良いがどちらかと言えば私はおっぱいだ。おっぱい。

 おっぱいには性別や種族の垣根を超え人を魅了する力がある。そう私は信じて疑わない。

 もちろん私にもおっぱいはあるし、同年代と比べればそれなりに良い発育だ。

 だがしかし、何処の世界に自分のおっぱいに興奮する酔狂な者がいるだろか?

 おっぱいとは他人のものであってこそ真価を発揮するのだ。

 おっぱいは正義!おっぱい!おっぱい! オールハイルおっぱい!!!

 私は心の中でそう唱えると、勢いよく姉さんのその豊満なお胸に飛び込んだ。


「フガフガフガッ!!!」

「ヒェッ!?」


 我ながら最後にやることにしてはしょうもなさ過ぎたと思う。

 そんな私を彼女は嗚咽に似た短い悲鳴を上げながら蹴り飛ばし、私は見事にカウンター席へ激突した。

 なんて俊敏しゅんびんな身のこなしなんだ。......痛い。


 だが、今の衝撃で私は我に帰った。

 そうだ、まだ恐喝姉さんが何処ぞの四天王様と決まったわけでは無いんだ。 

 そんな状況で何も死に急ぐことはない。

 こんな時、いつも短略的な思考に陥るのは私の悪いところだ。

 こんな時こそ冷静に物事を分析するのだ。

 何故、私は今、年下の女の子を置いて逃げるという誰の目から見ても唾棄だきすべき行動を取った彼に対し義憤を感じていないのだろうか?

 彼は基本的に本能のおもむくままに生きている。そんな彼が逃げ出したということは本能が危険を察知したということ。

 やはりこの場所は危険なのだ。

 大抵の人間はそんな場所に一人取り残されれば、逃げていった者に対し怒りを覚えるもの。

 しかし何故、私にはそれが無いのか......。


 簡単なことだ。自分が恐喝姉さんとその取り巻き連中よりも圧倒的に強いことを私の本能が理解しているのだ。

 思えばそれは一週間前、”それ”が生えた瞬間から分かっていたことだった。


『アリシア!僕を使うんだ!』

 

 その時、さっきまで静かにしていたくせに急にやる時はやる男面した”それ”の声が聞こえた。

 そうだ、せっかく天より授かったこの特殊能力(?)。

 頭の良い私が考えればきっと人生を大逆転出来るような使い道がある筈だ。

 丁度良い、恐喝姉さんにはこれから試し切りの相手になってもらう。

 私はそう決意するとスカート越しに股間に自分の左手を当てた。

 すると手が光りに包まれていく...。


 そう、この”それ”は───『取り外し可能』だったッッッ!!!


 店内に光り輝く閃光が走る。


 ”それ”を取り外した私の左手には、確かな硬い感触があった。

 確かな重みがあった。


「なっ...き、貴様!その剣を何処から取り出した!?何故貴様の手にそんな黄金に光る剣が握られているんだ!?」


世界について②


各種族は率先して他種族と関わりを持とうとしない為、その種族の規模に合わせた大陸に一種ずつ住んでいる場合が多い。

物理的障壁に加え互いに相容れぬ存在なので、いわゆる”混血種”の存在は極めて稀である。



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― 新着の感想 ―
[一言] 育児ブログの時から見てるテルルくんがこんな作品を作るなんて笑。応援してます。
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