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便所から始まる性剣の伝説  作者: てるる
序章、下水管篇
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2話 外道!?

 ───多世界解釈とは、簡単に言えば多くの選択により枝分かれした無数の世界が存在するという考え方である。

 もし、世界が無数に存在するのなら、その中には選択の結果、他と比べ明らかに異様となった世界もあるだろう。

 そして、その世界に住む人々は自分達の世界の異様さに気づくことは決して無い。


 その昔、二つの大国同士で互いの領土を巡る全面戦争が勃発した。

 各大国の名は、『道徳観』と下半身という名の『性欲』。

 その争いは熾烈を極めたものの、僅か一年も経たずして圧倒的な性欲の勝利により終戦を迎えることとなった。

 戦後、道徳観の持つ領土は次々に性欲の支配下に置かれ、いつしか人々の認識は『かつて道徳観という国があった』というものへと変わって行き、それからも世代が移り行く度に人々の記憶から”道徳観”という国の存在は消えて行ったそうだ。

 失われた物はもう元に戻らない。一つの大国が失われたことにより徐々に起こっていった世界の変化を、当事者でない後の世代の者達は当たり前の事だと納得する。

 傍観者らは口々にこう言った『この世界は頭がおかしい』と。

 この切なく悲しい物語は、とある一人の男の中で実際に起こった事である......。



◇◇◇



「うわっ、服着てる!新鮮!」


 彼は開口一番、私にそう言った。

 どうやら私の薄汚れた心では、彼の腐敗しきった生ゴミも同然な心は理解出来ないらしい。

 何故、どうして、いかなる理由があって、私に対しそう言ったのか......彼に会うのは初めてでは無いし、もちろん全裸で彼と会った覚えも無い。

 ならば何故ゆえに......。



 ───”それ”(チ○コ)が生えてから一週間の時が過ぎた。

 思えば、今私はとても面白い状況にあるのかもしれない。

 脳に直接喋りかけることが出来、私と全ての感覚を共有するチ○コ。まるで寄生虫の様ではないか。

 世界中の何処を探してもそんなものが生えている女の子はいないだろう。

 しかし、とは言っても私の生活はこれと言って変化の色を見せなかった。

 話し相手が一人増えたというだけで、”それ”は基本的に無害な存在だったのだ。


 そして現在、私は平日の昼間にも関わらず一人の男と共に、けがれの渦に飲まれた私達にはいささかお洒落過ぎる喫茶店を訪れていた。

 たまには雰囲気が良いと評判の地を私達の放つクズの瘴気しょうきで満たしてやるというのもまた一興だ。

 しかし案ずることなかれ、愚か者に『学校はどうしたんだね?』と聞かれれば『開国記念日なんですぅ〜』と言えば一発である。


 テーブル席の向かいに座る私の幼馴染であり、かつて純粋無垢だった私の精神を無情にも捻じ曲げた張本人でもあるその男の名はユニオルと言った。

 赤の他人から出合い頭に『チビ!』と小馬鹿にされる私と比べれば背は高いが、生活に差し支えない最低限の筋肉量のいかにも貧弱そうな体躯たいくに、下半身に支配されきった思考という残念な部分を持ち、顔は意外と整った顔立ちをしているというムカつく男だ。


 くだらない感情論は省き論理的に事実だけを言うならば、私は生後6年数ヶ月のしわ少き矮小わいしょうな脳で多くの人々が送る健やかで谷はあれど悠大な山もある、そんなおよそ薔薇色の人生ではなく彼との不毛を極める未来を選んだ。(そこに不要な感情は介在しない)

 それにより色々なものを失い、そして更に色々なものを失った。

 『過去は振り返らない』と言うていの良い主義を掲げてはいるが、あの時の選択はいくら後悔してもし切れず、お陰で毎晩毎晩やむにやまれぬ怒りや焦燥に駆られるばかりである。

 彼とはもう10年以上になり、これまでの不毛な生活が楽しくなかったかと聞かれれば『いいや』と答えるのもまた事実なのだが。

 まぁ幼少の頃からの付き合いの為、こんな私でも自然な会話が出来るのは彼だけだ。(”それ”とは心の中だけで完結する意思伝達なので問題無く会話が可能)そんな彼とはこれからも嫌でも付き合いが続くだろう、その確定した未来を悲観して何になろうか。


 歳や学園の違いに、私の家庭の問題などが相まって最近はなかなか会う機会が無いのだが...私達が出会ったが最後、その空間からは、公共施設だろうが何だろうが”モラル”という概念が跡形も無く消え去る。

 何故なら、その空間でなされる会話の大半は、やれ『おっぱいがどうこう』、やれ『下の口がどうこう』と言った下品の極まったものだからだ。

 女子である私が、そんな会話について行けている時点で、私の頭のネジがどれだけの本数飛んでいるかは誰しもが察しのつくところだろう。

 

「ちょっと前に用事があって海に行ったらアメフラシが大量にいてさぁ...」 

「ハッ! おま○こから大量の雨が!!!」

「ってそれ”シオフラシ”やないかーいっ!!!」

 

 今日も狭い店内を私達の下ネタ構文と中身のない猥談が飛び交う。

 幸いにして店内に客は私達以外に居ない。

 壁一面に貼られた窓ガラスが、長い冬の終わり、心地よいそよ風の吹く初春の街並みを映していた。

 私達の声も、きっとこの風に乗ってどこまでもこの世界を駆け巡るに違いない。

 世間では魔王軍との戦争だかで沸いているらしいが、きっとそんなことは今ここにある汚い心に比べればちっぽけなことだ。


 ───そんな平凡な今が、私の送れる最後の”平凡な毎日”なのだが、今の私がそれを知るよしは無かった。


世界について①


この世界には人間を含め、魔族、エルフ、獣人、岩人間など数種のいわゆるファンタジー的な種族が確認されているが、他種族同士が一時的に共闘関係を結ぶ事はあってもそれはあくまで損得の関係であり、友情や愛情が芽生える事は稀である。

仮にその様な関係が築かれたとしてもそれらの大半は僅か数週間の内に破局してしまい、各種族とはどこまでいっても相容れぬ存在である。

故に戦争でもしていない限り他種族はあまり物語にも絡んでこない。


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