19話 小悪魔の遊戯 ④!?
私はおもむろにパンツを脱いだ。
私は誕生以来純白のパンツしか履いた事が無いのだが、それには私の内なるドス黒いものを内側だけに留めておくと言う意味があって... おっと、自分語りはこれくらいにしておいて。
私が唐突にパンツを下ろした事には主に二つの意味がある。
一つに、これは純白でなければなし得ない事なのだが、その純白のパンツをジュリエルへの手紙代わりにする為だ。
私は実に9話ぶりの登場となる、淑女の嗜み万年筆を取り出した。
そして、それをパンツの汁が付いていない側に立て、器用にそれを走らせる。
『国王命令である。この手紙が届き次第、王城から貴族街入り口の巨大看板をそなたのパンツで広場側に倒すのだ!これは国王命令である!私は今、ピンチに陥っている!』
二つに、”それ”の封印(私の性欲)を解き放つ事だ。
猶予は無い。直ぐにも次のジャンケンが始まってしまう。
ならば、それまでに事を済ますしか無い。もはやこの身を性獣と化すまでだ!
私は竿先に手紙を引っ掛けた。
「───同調、開始。妄想展開!」
世界が色を変えたのはパンツを下ろした数秒後であった。
そして、同時に性剣が白く輝く光を纏い私は魔法少女のなりとなる。
「お姉ちゃん!次行くよ!」
少し待っていろ。性欲も無いガキがッ!
貴様には賢者タイムと言う万全の状態で勝負に望んでやる。
もっと、もっと絶倫にッ!
私は性剣を王城2階の窓付近に向け、想いを込める。
そう、頼れるものはいつだって妄想だけだった。
もう...生なんて必要ない。
『アリシア!濃ゆいの出るッ!』
(行けッ!そのまま王城にドピュッってしてやれぇぇぇ!!!)
必殺”射光”!!!
性剣の竿先を震わせ、瞬く間に射出された漲る生命の光は彗星の如く王城へ真っ直ぐな軌跡を描き、狙った窓の中へ完璧にパンツを投げ入れた。
そして、それと同時に黒髪の人影がそこに現れる。
そう、私が狙った場所...それは王室の封鎖に伴い作られた仮のジュリエルの部屋だったのだ。
封印を解いてから射出まで、およそ8秒。最高記録である。
およそ8秒の間に、私は変身し変身を解いた。そして、一時的な脱力感、賢者タイムへとその身は誘われる。
「悪い、待たせたな。」
「お、お姉ちゃん...今、剣とか持ってた気がしたけど...!?」
「気にするな。そんな事より楽しくなって来たな。次に行くぞ。」
「うんっ!」
手紙は投げ込まれると同時にジュリエルの元へ届いた。
ならば、ジュリエルは今にもパンツを投げてくるだろう。
ここへ来て、再度50%の試練だ。この勝負、私が負けなくてはワッちゃんは貴族街広場に到達出来ない。
もし私が勝ってしまえば巨大看板は不発に終わってしまう。
燃える展開ではないか。
「「グレムリン!」」
私は考えてみせた。
今、何かとパーは調子が良い。
ジャンケンの手は主に『グー』『チョキ』『パー』の順で言われる事が多い。
つまり、パーから一番離れたグーこそが今の状況に最も相応しい手と言う訳だ。
私は土壇場でそんな謎理論を展開してみせた。
だが、これも運気の影響なのか...ワッちゃんはパーを出していた。
私は負けたのだ。
「やったー!あたしの勝ちだもんねー!」
「別に良いさ、先に到着したのは私だ。」
そして次の瞬間、またしても運気の影響か、意識していなければ見えない速さでパンツが視界を過ぎ去った。
空を裂いた方向的に、私から見て左側の貴族街入り口にある看板を切断した様だ。
「パ・ン・ツッ!やったやっとお姉ちゃんに追いついたよ!」
ワッちゃんもタイミング良く広場へ行き着く。
それは、丁度巨大看板がギシギシと音を立て始めた頃合いだった。
そして、ここからが...行くぜダメ押し!
「あっ!あそこにUFOが!」
「えっ!どこ!?」
ガキにのみ有効な最後の一手。
私は次第に倒れてくる巨大看板とは逆方向の上空のありもしないUFOを指差して言った。
そして、次の瞬間...ワッちゃんの元に大きな影が落ちた...
恐怖の『グレムリン対決』───ここに”完”!
「お、おい!何か倒れてきてないか!?」
「本当だ!あれ、やばいんじゃ...」
「あぁ!俺達の努力の結晶がぁ...!」
次第に勢いを増してワッちゃんと、ついでに黒い犬を覆い隠して行く巨大看板。
周囲ではそれに気づき出す人達も現れ始める。
もはや、貴様は逃れられない!”勝った”!
「ワ゛ンッ!」
「ッ!」
だがその時、その犬が一瞬早く事態に気が付き、迫りくる巨大看板に向けて吠え立てた。
まずい、ワッちゃんに気づかれてしまう!
ワッちゃんを潰す前に魔法で木っ端微塵にされればお終いだ!
「えっ...なに、これ...」
ワッちゃんが絶望したかの様な声を出す。
しかし次の瞬間、ワッちゃんは魔法を展開するでもなく、ただ足元にいたその犬を守る様にその身で覆いかぶさったのだ。それしか頭に無い様に... ただ、自分ではない傍に居た命を守ろうと...
「ハッ!」
───巨大看板は音を立てて地面に倒れた。
「お姉...ちゃん?」
私はただ、痛みと流れ出る血に耐えていた...
たかだか木材と布の集合体。されど木材と布の集合体。
あれだけ集まって大きくなればそれなりの質量になる。
骨折までは行ってないと良いが...
「はぁ、はぁ...」
「大...丈夫?お姉ちゃん...」
「いや...大丈夫ではないかも知れない。これではもうゲームは続けられないな。私の負けだ、私を食べて良いよ...」
最後のルール...『ワッちゃんはゼッタイかつ!』。
ワッちゃんが犬を守ろうとした瞬間、何故か身体が勝手に動いた。
気づけば、私はワッちゃんと犬を守る様に二人を小さな身体で覆い隠していた。
ワッちゃんは『鬼』。だが『鬼』もまた私と同じ『人間』なのだと直感が理解したのかも知れない。
結局、巨大看板の直撃を受けたのは私だけ。
まったく...本当になんて厄日だ。
だが、巨大看板の直撃による痛みは次第に引いて行った。
「食べれないよ...あたし、お姉ちゃんは食べられないよ!」
ワッちゃんは目に涙を浮かべながら言った。
ワッちゃんはまたしても無意識の魔法で、今度は私の傷を直してみせた。
「私だけじゃない。もう人を食べようとしたり、傷つけるのはダメだ...」
「...そう、なの?」
こう言うのは全然私のガラではないのだが、今回の様な事は二度と勘弁して貰いたいので私はそんな事を言った。
何かこっ恥ずかしくなって来たな。もう絶対こんな事言わねー。
「私の名前は”アリシア・バァラクーダ”。この国の国王だ。もう人を食わないなら私は君と君の家族を歓迎するよ。」
「お姉ちゃん...あたし...」
私は立ち上がり、スカートをはたきながら言った。
ワッちゃんは大きな存在を見る様に、その涙目を私に向けていた。
もしかしたら、ワッちゃんは今まで家族以外の純粋な人間に助けられた経験が無かったのだろうか...?そして、それはワッちゃんの家族、先祖も。
ある時、この世に生を受けた『鬼』がコドス村を追われて500年と数十年。
彼らは、500年以上信頼出来る人間を探していたのかも知れない...
「あと、勘違いすんなよ?私はその犬を庇ったんだからな!?」
「え...」
私がそう言うとワッちゃんはひどく驚いた様な顔を見せたので、ツンデレはその辺にしておいた。